昔の国試、今の国試
お話を伺った方(プロフィール)
薬理講師 岡本 耕司先生
薬学ゼミナール 西エリア長
第106回薬剤師国家試験が迫ってきました。薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂をうけて、国試の出題傾向にも変化が現れています。実際の出題予測なども織り交ぜながら、昔の国試と今の国試について、薬学ゼミナールの西エリア長であり、薬理講師の岡本 耕司先生に伺いました。
第106回薬剤師国家試験は、「薬学教育モデル・コアカリキュラム」の改訂(改訂コアカリ)に伴い、新たな薬剤師国家試験出題基準が適用される初めての試験になります。改訂コアカリを踏まえて、出題傾向のポイントを教えていただけますか。
薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂に伴い、国家試験の新出題基準が第106回から適用されることになりますが、すでに昨年の第105回でもそれを反映した問題が出題されております。顕著なのは、従来は科目ごとに出題されていた問題が、科目横断的な内容にて連問で出題されております。たとえば、問119-121は「衛生・生物・化学」(問題順)の3連問や、問163-164は「治療・薬理」(問題順)の2連問があげられます。
また、実践問題では、物理・実務(問200-201)で、「画像診断法」の問題が出題されました。出題意図としてたとえば臨床検査技師や医師が見るような内容も、チーム医療として必要な知識だということで、臨床現場で実際に活用できるような形で出題されたものだと考えられます。
さらに、最近のトレンドとして、学生は試験問題で初めて知るような形で、従来の知識だけで解くのではなく、リード文をしっかり読んだ上で、未知なる事象から解決していく“問題解決能力をみる問題”が増えています。たとえば理論問題の生物(問116)は、「ウエスタンブロット法」に関するものです。いわゆる実験系の問題ですが、未知なる遭遇に対しての問題解決能力をみるために、現場でも知らない事例が出てきたときに、しっかり考えて行動できるか、という観点から出題されているのではないかと考えられます。
科目の壁を越えた総合的な知識や考える力、問題解決能力が求められているのですね。
そう思います。臨床現場では患者様に薬を渡すまでが大きな責務の一つにはなります。但し、本来薬学においては、「薬を渡した後」、つまり、患者様の体内に薬が入った後についても学修していきます。よって、現場に出た際も、知識を総合的に活用し、服用後においても患者様を継続してサポートできる事を見据え、国家試験対策も意識して頂きたいです。
ですから勉強において問題を確認する際も一つの科目で考えるのではなく、様々な科目を横断的に活用し、解答へ導いていくプロセス(考え)を養ってください。あわせて「読解力」も大事になります。試験では時間配分も厳しいですから、短時間に長い文章を読む力が必要です。そのためには、普段から新聞や医薬品の添付文書、インタビューフォームなどを読むなどの習慣をつけ、文章をしっかり読み取る力、把握する力を身につけることが大切です。これは5年生の実習の際にも、目にした医薬品においては添付文書やインタビューフォームを確認することを推奨しております。
「法規」について、薬機法および薬剤師法の改正の影響についてはいかがですか。
106回の国家試験に影響があるかどうかということですが、教育の立場として、「出題されるか否か」ということは明言しません。今回の薬機法の改正などは、薬剤師の服薬指導についての法改正になるので、医療人として不可欠な事項です。
国家試験というのはあくまでも通過点にすぎません。ですから私たちは、薬剤師として絶対に大事なことだから、しっかりと学修し現場で活かして頂きたいと思います。
「禁忌肢」が第105回から導入されました。特に気をつけるべき点はありますか。
国家試験では禁忌肢は公表されていません。ただ、2016年2月に「薬剤師国家試験のあり方の基本方針」が出され、その中で、禁忌肢に該当するのは「公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容」「倫理的に誤った内容」「患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容」「法律に抵触する内容」ということが示されました。
弊社の模擬試験でも禁忌肢に該当すると思われるものについては、選択肢率から見ると、選んでいても数%です。ですから学生に対してはあまり禁忌肢については心配する必要はなく、従来の勉強で大丈夫だと伝えています。
そのうえで気を付けて頂きたいのが、時間が足りなくなり、適当に解答した場合に、禁忌肢を選択すると危険です。また、「リード文 」をしっかり読み、解答が2つの問題を1つだけ選ぶようなことはしないように気をつけてください。
薬局・病院で関わるべき代表的な8疾患(がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症)については、どのような対策が必要ですか。
弊社の分析によると8疾患に基づく問題数は第104回が87問、第105回が70問ということで多く出題されています。特に多いのが、がんと感染症です。問題を勉強していく中で、暗記で解くのではなく、出題意図を読み取り、「この知識とあの知識を使うんだな(横断的思考)」という形で見るようにすると、実践に則した問題も解答できるようになると思います。
また、上記のような問題を確認する際には、添付文書を見ることを御薦め致します。たとえば感染症で抗菌薬が出てきた場合には、抗菌薬の添付文書を見て、構造や物性、代謝経路、相互作用などがどういったものがあるかなど見ておくことで力を養うことができます。これは将来、現場でも活用できる手法となります。
近年の国家試験の変遷から見て、いま求められている薬剤師像を教えていただけますか。
これまで以上に臨床現場での対応能力が必要になってきます。国家試験でも科目の壁を越えた形で多角的、横断的に考える問題が増えています。実験系の問題も、薬剤師になり、多くの未知なる事象に遭遇した時に、しっかり考えられる問題解決能力を養うということで、意図的に出されているのだと思います。
また、薬剤師が職務を発揮できる大事なところとして、ポリファーマシーや残薬などを踏まえた処方提案などができることが、これから求められる薬剤師像の一つだと期待も込められていると感じます。
臨床現場での対応力をつけるために、添付文書をたくさん見なさいといっても限界があります。ただ、医薬品はたくさんありますが、見続けるうちに、ある程度の法則性というか規則性が見えてきます。そうすると知らない事象であっても、自分の中でつながりができるようになり対応することが出来ます。これは大きな力となります。
また、最後にお伝えしたいのは、基礎の大切さです。化学など基礎が苦手な学生が多いのですが、現場においてあまり基礎の知識を使いこなせていないという残念な声を聞きます。しかし、実際は現場では「基礎の知識があるからこそ、未知なる事象にも対応」できます。私が担当する科目は薬理学となりますが、基礎とは切り離せない学問で御座います。薬剤師になってから基礎の勉強をするのは時間的にも厳しいので、学生の時から基礎をしっかり勉強していただきたいと思います。国家試験はあくまでも通過点であり、その先にあるものを見据えて行動していくことが大事です。
岡本先生の話を伺い、近年の薬剤師国家試験は、臨床現場を強く意識した内容になっていることがわかりました。そのため科目の壁を越え、総合的な知識や考える力、問題解決能力をみる問題が増えているとのことです。
試験対策もそれを踏まえた勉強が大切になります。添付文書やインタビューフォームを見たり、読解力を養うために新聞を読む。また、化学などの基礎をしっかり学ぶなど、岡本先生のアドバイスをぜひ活かしてください。