薬ゼミ講師に聞きました! 薬剤師国家試験対策

更新日: 2021年6月5日

第106回国試からみえる求められる薬剤師像

薬ゼミ徹底分析!薬剤師国家試験の画像1

2021年3月24日、第106回国試の結果が発表されました。「新出題基準」で行われた初の試験であり、「改訂コア・カリ」で学修した学生がはじめて受験した試験の結果を受けて、薬学ゼミナールの学長である木暮喜久子氏が、国試の傾向を分析し、いま求められる薬剤師像について語ります。

お話を伺った方(プロフィール)

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学校法人医学アカデミー薬学ゼミナール

学長 木暮喜久子氏

第106回国試の難易度

まずは第106回国試の総評をお願いします。近年との比較なども教えてください。

まず始めに第106回国試の結果をみておきましょう。今回、薬ゼミの自己採点システムを利用した総合平均得点率は、第104回は71.1%、第105回は67.6%、今回(第106回)は68.2%となり、第104回と第105回の中間となりました(表1)。薬ゼミのより詳細な分析結果によると、総合平均得点率は前回(第105回)より高い数値でしたが、成績上位者と下位者に差がみられるという特徴が認められました。

表1 第104~106回薬剤師国家試験の出題形式別平均得点率(得点)比較

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※第106回は、問320(複合問題の実務)が採点除外のため、実践149問、合計344問
※薬学ゼミナールの第106回国試自己採点システム(薬ゼミ自己採点システム)の結果(3月24日現在、12,233名入力)

今回(第106回)から国試に適用された『新出題基準』、『改訂コア・カリ』、『実務実習ガイドライン』を見据えた問題は昨年も前倒して出題されてり、今回も同様に出題されていますが、現役生はそれらをふまえたカリキュラムで学修してきているため、抵抗なく受験できたと考えられます。図1をみていただくとわかりますが、現役生の合格率はここ数年85%付近で安定しています。一方で、既卒生の合格率は年々低下し、第106回国試では41.29%まで下がっている現状があります(図1、表2参照)。

図1 薬剤師国家試験合格率推移・合格者数推移
(6年制以降)

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表2 第106回薬剤師国家試験の合格率(厚生労働省)

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※第106回国試合格基準
以下のすべての基準を満たした者を合格とする。
・全問題の得点が430点以上
・必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上
・禁忌肢問題選択数は2問以下
(補足)採点除外問題:1問(問320は採点対象から除外)
※通常は345問を配点2点で690点満点とするが、第106回は採点除外が1問(2点)含まれるため、688点満点となる。

国試は「求められる薬剤師」を抜粋する試験でもありますが、具体的にどのような問題が出題されていましたか。

「かかりつけ薬局」や「健康サポート薬局」に携わる薬剤師として、地域包括ケアの推進に貢献することも重要ですし、多職種連携・タスクシフティングも必要です。また、処方設計・処方提案に参加できる薬剤師が求められています。
このような背景の中、薬剤師として即戦力で活躍できる職能(知識や思考など)を備えているかを確かめるための問題が国試にも出題されています。
例えば、『実際の解答に影響する疾患以外も多くの疾患名が列挙されていて、しっかり問題文を読み進めなければ、惑わされてしまう症例・処方問題』が多く出題されていて、臨床で複数の合併症を有する高齢患者などに対応する実践力が問われています。また、お薬手帳を確認して、『処方薬の減量や中止』を医師に提案するというような、実際の臨床現場で薬学の知識を使って患者の治療に貢献できる提案を行えるかについて問う出題も増加しています。

問254—255

(合併症の多い症例、処方薬の減量・中止の提案)
83歳男性、独居。日常生活動作はほぼ自立している。心房細動や高血圧、軽度のアルツハイマー型認知症で薬物治療を受けていた。3ヶ月前に転倒し強い腰痛と軽度不眠のために医療機関にかかり、治療が開始された。昨夜自宅居間で転倒し、頭部を強打したため救急車で搬送され、入院となった。お薬手帳から入院時の持参薬は処方1と処方2であった。来院時の主な所見は、下肢の浮腫や多数の紫斑を認めるほか、PT-INR2.3、血清クレアチニン1.7mg/dL、eGFR30.5mL/min/1.73m2であった。なお、画像解析から頭部に出血等の異常は認めていない。

お薬手帳より
(処方1)
 ワルファリン錠1mg       1回2錠(1日2錠)
 ビソプロロール錠2.5mg     1回1錠(1日1錠)
  1日1回 朝食後 28日分
 リバスチグミンパッチ4.5mg   1回3枚(1日3枚)
  1日1回 朝 28日分
  胸部、上腕部、背部のいずれかに貼付(全84枚)
(処方2)
 ニトラゼパム錠5mg       1回1錠(1日1錠)
  1日1回 就寝前 28日分
 プレガバリン口腔内崩壊錠75mg  1回1錠(1日2錠)
  1日2回 朝夕食後 28日分
 リバスチグミンパッチ4.5mg   1回1枚(1日1枚)
  1日1回 28日分
  胸部、上腕部、背部のいずれかに貼付(全28枚)

問254

処方1及び処方2の薬物の副作用に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  • プレガバリンは、γ-アミノ酪酸GABAв受容体を刺激し、めまいや眠気を誘発する。
  • リバスチグミンは、アセチルコリン受容体を遮断することで、尿失禁を起こす。
  • ニトラゼパムは、GABAの作用を増強して、ふらつきや倦怠感、残眠感を生じる。
  • ワルファリンは、ビタミンKが関与する血液凝固因子の生成を抑制することで、出血傾向を生じる。
  • ビソプロロールは、アドレナリンα受容体とアドレナリンβ受容体を遮断することで尿失禁を誘発する。

解答

問254 解答 3、4

問255

薬剤部にお薬手帳をもとに薬剤を整理するよう医師より依頼があった。聞き取りの結果、ふらつきは3ヶ月前の転倒以後に自覚するようになったこと、1ヶ月ほど前より尿失禁を繰り返すこと、腰痛は既に軽快しているとの情報を得た。医師への薬剤整理の提案として、適切なのはどれか。2つ選べ。

  • リバスチグミンパッチをまとめた上で減量
  • ニトラゼパム錠の服用を朝食後に変更
  • ビソプロロール錠を中止
  • プレガバリン口腔内崩壊錠を中止
  • ワルファリン錠を減量

解答

問255 解答 1、4

また、コロナ感染症が蔓延している中で行われた第106回国試では、『感染症対策』や『感染症予防』を反映した問題も多く出題されました。薬局、病院、地域で薬剤師が薬学の知識に基づいた正しい情報を提供できることが求められていると感じます。

これからの薬剤師は感染症予防・対策に積極的に関与していくことが必要

感染症について具体的な出題を教えてください。

例えば、標準予防策(スタンダードプリコーション)についての適用や手袋、手指消毒の使い方、感染症ごとに適したマスクの違いなどを問う問題が出題されています。

問345(感染症対策についての問題)

医療従事者の院内感染対策に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選べ。

  • 標準予防策(スタンダードプリコーション)は、院内感染予防の基本的な方策として入院患者に適用される。
  • 手袋を適切にはずした後は必ずしも手指消毒は必要ない。
  • 季節性インフルエンザに罹患した患者に接する場合、N95マスクを着用する必要がある。
  • 結核患者の病室に入る場合、サージカルマスクを着用する。
  • 病院職員が季節性インフルエンザに罹患した場合、数日間は就業を制限する。

解答

問345 解答 1、5

この問題以外にも、『換気を行った際に、その部屋に在室可能な最大人数』を計算で求めさせる衛生の問題、『指定感染症の治療・検査時に使用された医療用マスクを滅菌せずに廃棄する際の分類』を問う問題、『患者からワクチンについて相談を受けた薬剤師の対応』について問う問題など、感染症について広く問われています。

今後、薬剤師の職能を広げていくための知識が問われているんですね。

はい。昨今のコロナ感染についてもテレビやSNSで様々な情報が飛び交っています。患者さんにとっては、何が正しい情報なのか選択することは難しくなっていますので、「あの薬剤師に聞きに行けば大丈夫」と地域で信頼される薬剤師になって欲しいと思います。

来年(第107回国試)にむけての注目ポイント

まず、来年の国試については、コロナ禍での学修環境の差が成績に影響しないか心配です。例えば、2020年度に5年生だった現在の6年生は、緊急事態宣言の発令されたエリアかそうでないかで、どれだけ充実した実務実習を体験できたかに差がある状況です。『新出題基準』、『改訂コア・カリ』、『実務実習ガイドライン』に沿った試験では、臨床現場で経験してきた内容が解答を導くためにとても重要な比重を占めることになります。国試には、『実務実習で学ぶべき代表的8疾患※』に関する問題が多く出題されていますが、実務実習で体験できなかった疾患については、既出問題や薬ゼミの模擬試験など、演習問題を意識して学修することで対応力を養って欲しいと思います。

※代表的な8疾患:がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症(薬学実務実習に関するガイドライン2015年2月 文部科学省)

また、今まで薬理で薬理作用、治療で病態や薬物の使い方を学修していましたが、『改訂コア・カリ』では、臓器別・疾患別になり、薬理と治療が同じ項目に記載されています。国試でも、理論問題の中で薬理と治療の連問が出題されています。これからも科目の壁を越えた知識を問う問題が増えるでしょう。

「科目別に疾患をとらえる」のではなく「治療に反映するために科目の知識を用いる」のですね。

そうです。薬局で処方せんや患者さんの症例に対応する際は、これは「生物」、これは「薬理」などのように科目のカテゴリーには分かれていませんよね(笑)。患者さんの病状を改善させるには、総合的な知識で対応する必要があります。このように、対人業務は複合的な思考力と問題解決能力が必要です。現国試の科目の壁を超えた出題は、まさに臨床現場と直結しているんです。

非薬剤師や登録販売者もいらっしゃる現場の薬局で、薬剤師が果たすべき役割は、『モノからヒトへ』、つまり『患者さんにどれだけ寄り添えるか』、『どれだけわかりやすい言葉で説明してあげられるか』が大切です。
国試に合格した方々には、現場で患者さんや他の医療従事者とコミュニケーションをとって、たくさん経験を積んでいただきたいです。薬も大切ですが、臨床現場を知り、患者さんに寄り添える薬剤師になってくれることを期待します。
薬ゼミでは、現在薬剤師として活躍されている方々に生涯学習の場もご提供しています。その中では、グループワークなどで意見交換する場も設けています。是非、患者さんの症候の診かた、医師に処方提案をするための知識などを向上させるために活用していただければと思っています。

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