在宅薬剤師のためのフィジカルアセスメント

更新日: 2023年1月26日 田中 嘉尚

薬剤師真希子と学ぶ フィジカルアセスメント~せん妄の誘発因子~

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薬剤師は薬の専門家としてベッドサイドで患者さんの適正な薬物療法に貢献することが求められます。患者さんに最適な薬物療法を実践するなかで、薬剤師が患者さんの状態を把握することは、特にリスクの高い薬剤を中心に副作用の防止、あるいは早期に発見し重篤化を防止することが重要と考えられます。そのためには、症状や必要に応じて脈拍や血圧などのバイタルサインの測定や、触診、視診といったフィジカルアセスメントによって患者さんから直接的に情報を得る行為が不可欠となります。

※薬剤師によるフィジカルアセスメントはどこまで許されるのか?についてはこちらを参照して下さい。

せん妄の誘発因子となる現病歴

アルツハイマー型認知症、不眠(夜間覚醒)の疑い、慢性便秘

せん妄の誘発因子と考えられる症例

94歳女性、元気で朗らかな性格、過去に住み慣れた土地を離れて息子家族と同居開始。その後実際にいない虫が部屋にいるから眠れないと突然怒り出す、誰かがお財布を盗んだと喚くなどまるで人格が変わったような感情の変動が起こりせん妄と診断され入院経験がある。現在はせん妄症状は改善しているという。

薬剤師が訪問時、息子家族によると患者さんは夜間眠れず家の中をうろちょろすることが時々ある(夜間覚醒)という。また不自然な言葉の途切れ、浅い呼吸、頻脈(脈拍100以上/分)、靴下の跡がくっきりとついているむくみを認める。

せん妄を引き起こす薬剤と現病歴の処方薬

シロスタゾール口腔内崩壊錠100mg 2錠 分2朝夕食後
ゾルピデム口腔内崩壊錠5mg 1錠 分眠前
デュロキセチンカプセル40mg 1C 分1夕食後

センノシド錠12 mg 1錠 分1眠前

エチゾラム錠0.5mg 3錠 分3 毎食後
酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3毎食後
チザニジン錠1mg 3錠 分3毎食後
ドネペジル塩酸塩口腔内崩壊錠10mg 1錠 分1 朝食後

薬剤師真希子のせん妄誘発因子と現病歴の症例Point

☞Point 1

94歳高齢、服用薬、認知症、不眠、便秘が再度せん妄を引き起こす誘因

☞Point 2

デュロキセチンが不眠の副作用があるため、用法を夕食後から朝食後へ変更提案。

☞Point 3

せん妄を引き起こす薬剤(チザニジン、エチゾラム、ゾルピデム)の減量中止提案

☞Point 4

頻脈とむくみはシロスタゾールの副作用の可能性あるため減量提案

薬剤師真希子のせん妄誘発因子と現病歴の症例Point解説

慢性疼痛で使用されるデュロキセチンは、不眠の副作用がある1)ため、夜間覚醒の改善を目的に用法を夕食後から朝食後へ変更提案。また睡眠のリズムを整えるためラメルテオン錠(メラトニン受容体アゴニスト)の投与開始提案するのもよいでしょう。

せん妄は薬剤によって引き起こすことがあり2)、服用薬でチザニン、エチゾラム、ソルピデムが該当するため、減量又は中止提案をご検討下さい。しかし、エチゾラム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)は中止によりせん妄を引き起こす可能性がある3)ため、ゆっくり減量するように提案しましょう。

認知機能障害、嚥下機能改善などを期待して高齢者にシロスタゾールが処方されるケースがあります。4)しかし血管拡張作用による低血圧の誘発、心拍数増加による頻脈性不整脈の誘発など副作用が発現する可能性があります。5)このような副作用の発現がないか訪問時毎にチェックしましょう。

せん妄誘発因子と現病歴のトレーシングレポートを書いてみよう

【処方内容】(患者情報、薬剤師名、医師名等省略)

シロスタゾール口腔内崩壊錠100mg 2錠 分2朝夕食後
ゾルピデム口腔内崩壊錠5mg 1錠 分眠前
デュロキセチンカプセル40mg 1C 分1夕食後
センノシド錠12 mg 1錠 分1眠前

エチゾラム錠0.5mg 3錠 分3 毎食後
酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3毎食後
チザニジン錠1mg 3錠 分3毎食後
ドネペジル塩酸塩口腔内崩壊錠10mg 1錠 分1 朝食後

情報提供の内容

息子家族から、せん妄と診断されたことがあることを確認しました。最近は、時々夜間眠れず家の中をうろちょろすることがあるそうです。再びせん妄を引き起こす可能性があると考えられます。また不自然な言葉の途切れ、浅い呼吸、頻脈(脈拍100以上/分)、靴下の跡がくっきりとついているむくみを認めています。

薬剤師からの提案

以下の薬剤の中止、変更及び減量等をご検討お願いします。

  • デュロキセチンの用法変更
    夜間眠れないことに対しデュロキセチンが不眠の副作用があるため、用法を夕食後から朝食後への変更
  • チザニジン、エチゾラム、ゾルピデムの減量又は中止
    再びせん妄を引き起こし、悪化するおそれがあるため。ただしエチゾラムを中止する場合は徐々に減量をお願い致します。
  • シロスタゾールの減量
    頻脈とむくみはシロスタゾールの副作用の可能性あるため
  • ラメルテオン(メラトニン受容体アゴニスト)の追加
    夜間覚醒による睡眠のリズムを整えるため

※トレーシングレポートは以下の情報を記載しましょう。

  • 日付
  • 情報提供先の医療機関および医師名
  • 情報提供元の保険薬局の名称・住所・電話番号
  • 保険薬剤師名
  • 患者氏名・性別・生年月日
  • 処方薬・併用薬や服薬状況など必要な情報
  • 情報提供の内容
  • 薬剤師からの提案

せん妄の病態で押さえたい3つの知識

せん妄とは、「軽いパニックを起こしている状態」「周囲の状況が呑み込めず混乱している状態」になります。夜に家中を歩き回り、独り言を言うときは夜間せん妄の可能性があります。一見すると認知症のように見え、実はせん妄と認知症には大きな違いがあります。

せん妄が認知症と大きく異なる点は、治ったりする可能性が高いというところです。また、せん妄はある日突然急激に精神症状が発生します。対処が遅れると状況がどんどん悪化するので、早めに専門医に相談して対応方法を検討することが重要です。

  1. (1)せん妄の症状 ― 睡眠・覚醒リズムの障害、幻覚・妄想、見当識・記憶障害、情動・気分の障害、神経障害など
    1. ① 睡眠-覚醒リズムの障害
      不眠、生活のリズムの昼夜逆転、覚醒時は半分眠っているような寝ぼけた状態、睡眠中は落ち着きがなく良く動きます。
    2. ② 幻覚・妄想
      実際にはいない虫や蛇、人が見える幻視や恐ろしい幻覚、記憶や経験を本来の出来事とは違って解釈してしまう妄想などが認められます。
    3. ③ 見当識・記憶障害
      現在の時間や場所が急にわからなくなり最近のことを思い出せなくなります。
    4. ④ 情動・気分の障害
      イライラ、錯乱、興奮、不安、眠気、活動性の低下、過活発、攻撃的、内向的など感情や人格変化が起こります。
    5. ⑤ 不随意運動などの神経症状
      手が震えるなどの神経症状はアルコールせん妄に多く認められます。
  1. (2)せん妄の原因 - 薬剤・脱水・栄養失調・高齢者
    1. ① 原因となる身体疾患と強いストレスが発症に関わっている
      入院や手術、薬、低血糖、脱水、栄養失調、外傷など、体や心に強いストレスがかかると発症しやすくなります。
    2. ② 高齢者はせん妄になりやすい
      せん妄は、若い方や高齢者にも、年齢に関係なく生じます。しかし高齢者は身体にストレスがかかりやすく、せん妄になりやすい傾向にあります。救急外来を受診した高齢者の5〜10%、内科病棟に入院した高齢者の15〜21%の方が、せん妄症状を起こします。また、手術を受けた高齢者でせん妄を起こす割合は50%を超え、ICUで治療を受けた高齢者の場合、70%〜80%の方がせん妄になるという報告があります6)
  1. (3)せん妄が起こったら、薬物療法や環境調整、薬剤中止、睡眠覚醒リズムも改善によって対応
    1. ① 薬物療法
      一般的に、せん妄の薬物治療では、抗精神病薬が使用されます。また非定型抗精神病薬も併用したりすることがあります。
      具体的な医薬品名は以下の通りです。
      在宅薬剤師のためのフィジカルアセスメントの画像 在宅薬剤師のためのフィジカルアセスメントの画像
    2. ② 環境の調節
      視覚や聴覚への刺激が、せん妄症状を軽減させることがあります。部屋はできるだけ明るくして、日中はラジオやテレビをつけ、音楽をかけるようにします。
      また、日にちや時間、家族関係などがわからなくなることで不安になり、症状が現れます。そのため、カレンダーや時計、ご家族の写真などを見えるところに置き、本人が落ち着ける環境を整えることが大切です。
    3. ③ 誘因となった薬物の中止
      せん妄は、薬物に誘発されることも多いです。誘発する薬剤の服用を中止すると2)、症状の改善が期待できます。長年服用していた薬を中止した場合にもせん妄があらわれることがあります。
    4. ④ 睡眠・覚醒リズムの改善
      せん妄によって夜間に活動すると、反対に昼間は眠くなります。昼間に睡眠をとると、夜に眠れなくなり、せん妄が起こりやすくなるという悪循環が起こります。昼間にしっかり身体を動かすことで、睡眠・覚醒リズムの改善を図ることが大切です。

薬剤師真希子のこれからの薬剤師に必要なせん妄Point

在宅訪問時にせん妄の疑いがあったら早急に主治医へ相談

せん妄は病識がなく、患者さんは自分が病気にかかっていると認識できません。そのため周囲の人がせん妄に気づくことが重要になります。薬剤師も以下のような症状がみられていないか、患者さんのご家族や、多職種と連携し確認をしましょう。

  • 会話にまとまりがなく、何となくボーっとしている。
  • 夕方から夜にかけて、興奮して眠らなくなる。
  • 時間や日づけ、自分のいる場所、家族の名前などを言い間違う。
  • 人が変わったように不機嫌でイライラする。
  • 実在しない人や物が見えるような動作をする(幻視)。

参考資料
1) サンバルタの添付文書
2) せん妄を引き起こす薬剤
3) ベンゾジアゼピン系の減量方法
(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2014/PA03090_04)
4) 老年医学Q&A, geriatrics.54.426
5) アルツハイマー型認知症におけるシロスタゾールの効能・効果
(https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/doctorsalon/upload_docs/150659-1-12.pdf)
6) カプラン臨床精神医学テキスト : DSM-5診断基準の臨床への展開. ベンジャミン J.サドック, バージニア A.サドック, ペドロ ルイース 編著,井上令一 監修,四宮滋子, 田宮聡 監訳. p.785 2016


監修:吉田真希子

共立薬科大学薬学部を卒業後、6年間保険薬局薬剤師を経験。現在は子育てしながら病院薬剤師15年目になります。ポリファーマシー解決に取り組み、認知症委員会で認知症やせん妄患者さんに対する薬の投与計画や全職員に向けて薬の教育に力を入れています。

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田中 嘉尚
たなか かなお

1999年3月徳島文理大学薬学部卒業後、臨床治験モニター、医療ライター、病院薬剤師、保険薬局薬剤師を経験。現在病院薬剤師をしながら、フリーライターをしています。
ITに興味があり、前職の病院で恩師との出会いにより「副作用発現リスク精査表」を開発し、特許を取得。現在も共同研究中です。
フリーライターになろうと思ったきかっけは、恩師が現役著者で論文や学会誌などの文書の書き方をご指導頂いたことが影響しています。
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