在宅薬剤師のためのフィジカルアセスメント

更新日: 2023年7月30日 田中 嘉尚

慢性腎臓病患者の60%以上が高マグネシウム血症を引き起こす。その原因とは?

CKD患者の60%以上が高Mg血症を引き起こすメインの画像1

薬剤師は薬の専門家としてベッドサイドで患者さんの適正な薬物療法に貢献することが求められます。患者さんに最適な薬物療法を実践するなかで、薬剤師が患者さんの状態を把握することは、特にリスクの高い薬剤を中心に副作用の防止、あるいは早期に発見し重篤化を防止することが重要と考えられます。そのためには、症状や必要に応じて脈拍や血圧などのバイタルサインの測定や、触診、視診といったフィジカルアセスメントによって患者さんから直接的に情報を得る行為が不可欠となります。

※薬剤師によるフィジカルアセスメントはどこまで許されるのか?については、こちらを参照して下さい。

慢性腎臓病(CKD)と現病歴

高血圧、脳梗塞、Ⅱ型糖尿病、アツルハイマー型認知症、慢性便秘

CKDの症例

89歳の女性、50代で高血圧を発症。60代でⅡ型糖尿病を発症し、その後腎機能低下と、尿検査でタンパクがⅢ+であったことから、腎臓内科を受診、慢性腎臓病と診断。70代で脳梗塞を発症その後、アルツハイマー型認知症と診断され、現在娘さんとの同居。便秘症状は若い時から認められるが、5年前から便秘薬を服用し改善傾向。

現在の検査所見

血圧126/76mmHg、脈拍 70回/分 、血糖値130mg/dL、eGFR(推算糸球体濾過量)30mL/min、血清Cr;1.40mL/min、血清Mg値;2.7mg/dL、空腹時血糖値 126mg/dL、HbA1c 8.4%、血清総タンパク7.4g/dL、血清アルブミン 4.0g/dL、尿蛋白 (±)、尿潜血 (-)

訪問時所見

血圧129/79mmHg、脈拍 71回/分、足のむくみ(-)

慢性腎臓病と現病歴の処方薬

リナグリプチン錠5mg 1錠 分1 朝食後
イミダプリル塩酸錠5mg 1錠 分1朝食後
カナグリフロジン水和物錠100mg 1錠 分1朝食後
アムロジピンベシル酸塩錠5mg 1錠 分1 朝食後

クロピドグレル錠75mg 1錠分1朝食後
フロセミド錠10mg 1錠 分1朝食後
ドネペジル塩酸塩口腔内崩壊錠5mg 1錠分1 朝食後
酸化マグネシウム錠330mg 6錠分3 毎食後
大建中湯エキス顆粒 7.5g 分3 毎食前

薬剤師紗希によるCKDの症例Point

☞Point 1

イミダプリルは腎保護作用で、カナグリフロジンはCKDで処方

☞Point 2

カナグリフロジンはeGFR30未満の場合、投与継続の必要性を慎重に検討

☞Point 3

血清Mg値 2.7mg/dLより高マグネシウム血症を考慮し、酸化マグネシウムの中止又は変更提案

薬剤師紗希による慢性腎臓病のPoint解説

イミダプリルはアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)で、血圧を下げる目的がありますが、腎臓を保護する力を持ち合わせています。ACE阻害剤以外でもアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)にも腎保護作用があるので一緒に覚えておきましょう。

カナグリフロジンは糖尿病治療薬のSGLT2阻害剤ですが、CKDにも適応があります。カナグリフロジンの添付文書には「eGFR30未満の場合、投与継続の必要性について検討する」という記載があります。

また、CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation1)によると「SGLT2阻害薬投与開始後にeGFR15未満になれば慎重投与で継続」とありますが、「添付文書を参考に適応を慎重に見極める」という記載もあります。ここでは添付文書の記載に準じて、投与継続の必要性について医師へ情報提供して下さい。

また高齢者、糖尿病、認知症を合併していることから、SGLT2阻害薬の投与継続にあたりサルコペニア・フレイル発症や増悪にも注意が必要です。こちらに関しても投与継続の必要性について医師へ情報提供して下さい。

便秘の治療にはよく処方される酸化マグネシウムですが、特にCKD患者さんには高マグネシウム血症を引き起こしやすいので注意が必要です。今回の血清Mg値が2.7mg/dL(基準値1.7~2.6mg/dL)であることから高マグネシウム血症を考慮し、酸化マグネシウムの中止もしくはポリエチレングリコールへの変更を検討して下さい。

CKDのトレーシングレポートに書いてみよう

【処方内容】(患者情報、薬剤師名、医師名等省略)

リナグリプチン錠5mg 1錠 分1 朝食後
イミダプリル塩酸錠5mg 1錠 分1朝食後
カナグリフロジン水和物錠100mg 1錠 分1朝食後
アムロジピンベシル酸塩錠5mg 1錠 分1 朝食後
クロピドグレル錠75mg 1錠分1朝食後
フロセミド錠10mg 1錠 分1朝食後
ドネペジル塩酸塩口腔内崩壊錠5mg 1錠分1 朝食後
酸化マグネシウム錠330mg 6錠分3 毎食後
大建中湯エキス顆粒 7.5g 分3 毎食前

【情報提供の内容】

訪問時、血圧129/79mmHg、脈拍 71回/分、CKDによる足のむくみは認められませんでした。検査所見eGFR30mL/min、サルコペニア・フレイル発症や増悪のおそれがあることから、カナグリフロジンの投与継続の必要性の検討もしくは腎臓専門医への受診を検討が考えられます。

【薬剤師からの提案】

以下の薬剤について中止又は検討お願いします。

  • 酸化マグネシウムの中止又はポリエチレングリコールへの変更提案
    血清Mg値が2.7mg/dLより高マグネシウム血症の疑いがあるため

CKDについて押さえておきたい6つの知識

1. 慢性腎臓病(CKD)の定義

下記のいずれか、または両方が3ヶ月以上続いている状態

  1. 腎障害
    たんぱく尿(微量アルプミン尿を含む)などの尿異常、画像診断や血液検査、病理所見で腎障害が明らかである状態
  2. 腎機能低下
    血清クレアチニン(Cr)値をもとに推算した糸球体濾過量(eGFR)が60ml/分/1.73m2未満の状態

2. CKD重症度分類

  1. 腎機能について
    これまで腎機能は血液中の老廃物の一種である血清Cr値で評価されることがほとんどでした。血清Cr値は性別や年齢の影響を受け、最近ではこれらの影響を補正したeGFR値で腎機能を評価しています。
  2. eGFR値
    腎機能はeGFR値によってG1からG5の6段階のステージに分類されます。
在宅薬剤師のためのフィジカルアセスメントの画像1

3.症状

CKDは、重症度によって症状が異なります。軽症例では、無症状の場合がほとんどです。しかし、腎機能低下が進行すると、むくみ、夜間尿、倦怠感、食欲低下、嘔吐、手足のしびれなどの症状があらわれます。さらに進行すると、肺に水が溜まり、息苦しさの症状がでます。

4.検査・診断

CKDは、軽症例では自覚症状はほとんどないため、検査で見つけることが重要です。実際、健康診断や人間ドックをきっかけにCKDと診断されることが多いです。CKDの一般的な検査には以下のようなものがあります。

  1. 尿検査
    CKDでは、尿の中に血液やタンパク質がもれ出ることがあります。尿検査をすると、もれ出ている血液やタンパク質の量を測定することができます。
  2. 血液検査
    腎臓機能を調べるために、血液中の尿素窒素(BUN)と血清Crを測定します。CKDの重症度を診断するための推算糸球体ろ過量(eGFR)は、年齢、性別、血清Crの数値で計算します。
  1. 画像検査
    超音波検査や腹部CT検査などで、腎臓の形や大きさ、腫瘍や結石の有無などについて調べます。
  2. 腎生検
    腎機能低下を引き起こしている明確な原因を診断するためには、腎生検が最も有効な検査方法です。腎生検では、一般的にうつぶせの状態で背中から腎臓に向かって細い針を刺し、腎臓の組織の一部を採取します。その組織を顕微鏡で詳しくみることで、腎機能低下の原因を探ります。腎生検は入院して行う検査です。

5.治療

すでに失われた腎臓機能を取り戻す治療は、現時点ではありません。腎機能低下の進行を抑え、現在の腎臓機能をなるべく維持し長持ちさせることが目標となります。

原因によって、主に行う治療内容が異なります。例えば、高血圧や糖尿病といった生活習慣病が原因の場合、その状態を改善することがまず大事です。膠原病や感染症などの全身疾患が原因の場合にも、そのおおもととなる病気に対する治療を行い、病状を落ち着かせることが治療法になります。慢性腎炎症候群(IgA腎症や膜性腎症など)のような腎臓自体の病気が原因の場合、ステロイドや免疫抑制剤の服用が検討されます。

また原因がどれであれ、共通のCKD治療として、規則正しい生活、食事管理、血圧管理などを行います。生活習慣病があると腎機能低下が速く進行するので、体重を適正管理、塩分や糖分の過剰摂取、食べ過ぎを控える、禁煙、適度な運動などの適切な生活習慣の維持が大事です。

CKDが進行し、ミネラルなどのバランスが乱れた場合、それを整えるべく薬が処方されます。腎臓機能がほとんどなくなってしまった場合には、腎代替療法として、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかが行われます。

6. 予防

CKDの原因は多岐にわたるので一概にはいえませんが、高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣の乱れに関連する病気は腎機能低下を引き起こすリスクになり、腎機能低下の速度も上がります。そのためCKDの予防として、生活習慣の見直しが有効です。例えば、体重の適正管理、塩分や糖分を控える、食べ過ぎない、禁煙、適度な運動などがCKDの予防法として挙げられます。腎臓を悪くする可能性のある解熱鎮痛薬や漢方などの飲み過ぎを防ぐことも予防法の1つです。

また、CKDは進行するまで無症状であり、さらに、進行し失われた腎機能は取り戻すことができません。そのため、定期的に健康診断を受けて腎臓の状態をチェックすることもCKDの大事な予防法の1つといえます。

薬剤師紗希によるこれからの薬剤師に必要な慢性腎臓病Point

薬剤師が血清Mg値測定の推進とCKDへの受診勧告をすることが大切

患者さんの血液検査の結果を確認しても、おそらく血清Mg値を測定している医療機関はほぼ少ないと感じます。しかし、腎機能が低下し酸化マグネシウム服用中の患者さんで、高マグネシウム血症の発生率は、30≦eGFR<45で37.7%、eGFR<30で610%との報告があります2)。高マグネシウム血症で症状が発現した時はすでに重篤で血清Mg値が5mg/dL以上になっていることが多いです。血清Mg値を測定し血清Mg値2.6~4mg/dLで発見できれば、重篤な高マグネシウム血症の症状が防げると考えられます。

日本人のCKD患者数は約1330万人と推計されています。これは成人人口の約8人に1人の割合です。特に高齢者の有病率が高いです。大阪府吹田市の井上病院腎臓内科部長の藤原木綿子先生によると、eGFRが60以下で高血圧や糖尿病、高尿酸血症といった基礎疾患がある、あるいは尿検査で血尿またはタンパク尿が検出している患者さんは腎機能が低下しているおそれがあるので、是非初期の段階で一度腎臓内科の診察を受けてもらいたいとのことでした3)

在宅に訪問する薬剤師も、患者さんを最も身近によくみていると思います。例えば在宅訪問時、患者さんが激しくむくんでいたり、急速に高血圧が進行していたり、またはeGFRが45以下の場合、腎臓専門医に診てもらうよう、担当の医師に声をかけしましょう。

参考資料
1) CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation
2) 急性期病院における腎機能別酸化マグネシウムの使用実態と薬剤師介入の有用性について
3) 【大阪】慢性腎臓病治療の病診連携に積極的に取り組む理由‐藤原木綿子・井上病院腎臓内科部長に聞く◆Vol.2

横山 紗希さんの画像

監修:横山 紗希

福岡大学薬学部卒業後5年間急性期病院に勤務し、糖尿病チームの一員として外来や病棟での療養指導に尽力。現在はケアミックス病院にて他職種と連携し、ポリファーマシー解消に日々取り組んでいます。

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田中 嘉尚
たなか かなお

1999年3月徳島文理大学薬学部卒業後、臨床治験モニター、医療ライター、病院薬剤師、保険薬局薬剤師を経験。現在病院薬剤師をしながら、フリーライターをしています。
ITに興味があり、前職の病院で恩師との出会いにより「副作用発現リスク精査表」を開発し、特許を取得。現在も共同研究中です。
フリーライターになろうと思ったきかっけは、恩師が現役著者で論文や学会誌などの文書の書き方をご指導頂いたことが影響しています。

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