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在宅薬剤師のためのフィジカルアセスメント

更新日: 2023年10月15日 田中 嘉尚

2025年にパンデミックが懸念される「心不全」。今、薬剤師が学ぶべきことは?

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心不全による入院患者の約8%は入院中に亡くなります。また心不全患者の5年生存率は約50%との報告も。心不全の原因疾患は多岐にわたりますが、日本での心不全入院患者の原因疾患として、虚血性心疾患、高血圧、弁膜症の順に多いことが示されています。

今回は薬剤師横山紗希先生が、慢性心不全患者への服薬指導に大切なポイントについて、症例を使用し解説します。

慢性心不全と現病歴

子宮頸がん、心房細動、高血圧

慢性心不全の症例

78歳、女性。在宅での服薬指導中に「目がチカチカする」との訴えあり。検脈すると遅い傾向があり、脈拍数の推移を確認すると徐々に徐脈傾向が認められた。

現在の検査所見

血圧126/76mmHg、脈拍 58回/分体重37.8kgeGFR(推算糸球体濾過量)35mL/min、血清Cr;0.85mL/min、左室駆出率(LVEF)32%、K 2.5 mEq/L、PT-INR 2.0

訪問時所見

心不全症状チェックを以下の項目で行った。

  1. 息切れ、だるさの自覚→なし
  2. 体を横にすると呼吸困難感が生じ、座ると軽減する(起坐呼吸) →なし
  3. 自覚症状を伴う低血圧 【血圧の値と自覚症状:126 /76mmHg】→なし
  4. 脈拍が120回/分以上 【 58 回/分】 →なし
  5. 尿量の減少→なし
  6. 浮腫みの悪化→なし
  7. 体重の急激な増加がある(3日間で2kg以上など) 【具体的にどのくらいの増加か(例:1か月で5kgなど): 】 →なし
  8. 食欲低下→なし

慢性心不全と現病歴の処方薬

メチルジゴキシン錠0.1mg 1錠分1朝食後
エナラプリルマレイン酸塩錠5mg 1錠分1朝食後
スピロノラクトン錠25mg 1錠分1朝食後
アゾセミド錠60mg 1錠分1朝食後
ワルファリンカリウム 錠1mg 1錠分1夕食後
カルベジロール錠1.25mg 1錠分1朝食後
エンパグリフロジン錠10mg 1錠分1朝食後

薬剤師紗希による慢性心不全の症例Point

☞Point 1

高年齢、低体重、腎機能低下、徐脈傾向、メチルジゴキシン錠服用、「目がチカチカする」ことから、ジゴキシン中毒の可能性を考慮

☞Point 2

ジゴキシン血中濃度測定の依頼し、メチルジゴキシンの中止を提案

☞Point 3

アゾセミド錠60mgがジゴキシン中毒の原因薬剤になるため、30mgへ変更提案

☞Point 4

ワルファリンカリウムは心房細動を伴う心臓内血栓予防で使用

薬剤師紗希による慢性心不全のPoint解説

メチルジゴキシンは患者さんの状態変化や薬物相互作用によって、血中濃度が上昇する可能性があります。また血中濃度上昇により副作用発現の危険性について考慮しなければなりません。

この視点は医師や看護師には乏しいため、薬剤師が持っていなければならない視点です。

本症例の患者さんの状態として、78歳の高年齢、37.8kgの低体重、eGFR(推算糸球体濾過量)35mL/minより腎機能低下も認められ、ジゴキシンの血中濃度を上昇させる危険因子を3つ有していることがわかります。

さらに、目がチカチカするとの訴えによりジゴキシン中毒が発現しやすいと考えられます。よってまずは、ジゴキシン血中濃度測定を依頼し、メチルジゴキシンの中止も提案しましょう。

LVEF≦45%の患者さんだとジゴキシン血中濃度が0.5〜0.8ng/mLでのコントロールが推奨、1.5ng/mL以上で消化器症状や視覚異常などの心外性副作用が出る可能性があります1)

アゾセミドは、メチルジゴキシンとの併用によりジゴキシン中毒を引き起こす可能性があります2)。しかし、うっ血に対する処方と解釈できるため、アゾセミド60mgから30mgへ減量提案が無難かと考えます。

またワルファリンカリウムが処方されていますが、心房細動を伴う場合は必要とされ、心臓内血栓による塞栓症予防で使用されています。

慢性心不全のトレーシングレポートを書いてみよう

【処方内容】(患者情報、薬剤師名、医師名等省略)
メチルジゴキシン錠0.1mg 1錠分1朝食後
エナラプリルマレイン酸塩錠5mg1錠分1朝食後
スピロノラクトン錠25mg 1錠分1朝食後
アゾセミド錠60mg 1錠分1朝食後
ワルファリンカリウム 錠1mg 1錠分1夕食後
カルベジロール錠1.25mg 1錠分1朝食後
エンパグリフロジン錠10mg 1錠分1朝食後

【情報提供の内容】
目がチカチカするとの訴えがありました。78歳の高年齢、37.8kgの低体重、さらにeGFR(推算糸球体濾過量)35mL/minより腎機能低下もみられ、メチルジゴキシン中のジゴキシンの血中濃度を上昇させる危険因子を3つ有しています。このことからジゴキシン中毒が発現しやすいと考えられます。

その他心不全の症状について以下の項目をチェックしました。

  1. 息切れ、だるさの自覚→ありません
  2. 体を横にすると呼吸困難感が生じ、座ると軽減する(起坐呼吸) →ありません
  3. 自覚症状を伴う低血圧 【血圧の値と自覚症状: 126 /76mmHg】 →ありません
  4. 脈拍が120回/分以上 【 47 回/分】 →ありません
  5. 尿量の減少→ありません
  6. 浮腫みの悪化→ありません
  7. 体重の急激な増加がある(3日間で2kg以上など) 【具体的にどのくらいの増加か(例:1か月で5kgなど): 】 →ありません
  8. 食欲低下→ありません

薬剤師からの提案

以下の薬剤について中止又は検討お願いします。

  • ジゴキシン血中濃度の測定およびメチルジゴキシンの中止提案
    ジゴキシン中毒の疑いがあるため。
  • アゾセミド錠60mgから30mgへの減量
    メチルジゴキシンとの併用により、ジゴキシン中毒を引き起こしやすいため

心不全について押さえておきたい2つの知識

1. 心不全

心臓の器質的、機能的障害により心臓のポンプ機能の代償機転が破綻し、心拍出量低下、末梢循環不全、肺・体静脈系のうっ血をきたし、日常生活に障害を生じた病態

2. 心不全の分類

① 急性心不全

心不全の症状や徴候が急激に出現する病態を急性心不全といいます。軽症のものから、死に至るものまで、症状や徴候の発現は多様です。

症状

呼吸困難感、食欲不振、意識障害、心停止、心原性ショックなどがあります。

原因となる疾患

慢性心不全の急性増悪、急性冠症候群(心筋梗塞・狭心症)、不整脈などの心疾患です。また、術後や外傷患者さんの場合、大量輸液によって容量負荷が増加し、健康な心臓であったとしても心不全症状になることがあります。

他にも、外傷による心挫傷、解離性大動脈瘤、重症大動脈狭窄症、肺血栓塞栓症などが原因になります。リスクファクターとしては、高血圧、糖尿病などがあげられます。

② 慢性心不全

慢性心不全は、慢性的な心筋障害による心臓のポンプ機能の低下によって、代償機転ではカバーできなくなった状態です。

主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を、絶対または相対的に拍出できなくなります。その結果として、血行動態の悪化が徐々に進行し、日常生活に著しく支障をきたします。

症状

全身倦怠感、呼吸困難感、運動耐用能低下、食欲不振、浮腫などがあります。

原因

虚血性心疾患、高血圧、心筋症、弁膜症、不整脈、サルコイドーシス、内分泌・代謝疾患(糖尿病、甲状腺機能異常)、栄養障害などがあげられます。

NYHA(心不全症状の程度)分類

Ⅰ度(無症候性)

心臓に疾患はあるが、日常生活では症状(疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛)が現れない。

Ⅱ度(軽症)

安静時には症状は現れないが、日常生活の労作で症状が現れる。

Ⅱs : 身体活動に軽度の制限がある。

Ⅱm : 身体活動に中等度の制限がある。

Ⅲ度(中等度~重症)

安静時には症状は現れないが、歩くなど日常的な身体活動以下の軽い労作で症状が現れる。

Ⅳ度(難治性)

安静時にも症状が現れ、ごく軽い労作で症状が出現する。

薬剤師紗希によるこれからの薬剤師に必要な心不全Point

2025年の心不全パンデミック3)が懸念。今薬剤師にできることは

わが国の心不全患者は推定100万人前後といわれ、高齢化社会の進展に伴って心不全患者が急増する、いわゆる心不全パンデミックが懸念されています。

心不全の最も大きな問題は高い再入院率で、入退院を繰り返すたびに患者さんの状態が悪化するだけでなく、医療経済的な負担にもなっています。

再入院に至る主な原因は、塩分・水分制限の不徹底や内服薬の自己中断など、患者さんの病識や管理不足に起因するものが多いです。これは患者さんの認知機能や身体機能の低下が原因であることがほとんどです。

薬剤師には、患者さんが自宅に戻った時に、家族による服薬のサポートが可能かどうか、ホームヘルパーに依頼するには1日1回の薬剤に変更すべきかどうかなど、退院後の継続的な患者さんへのモニタリングや指導が必要となるでしょう。

参考資料
1) Rathore SS, Curtis JP, Wang Y, et al. JAMA 2003; 289: 871-878.
2) メチルジゴキシンの添付文書
3) Shimokawa H, et al. Eur J Heart Fail 2015; 17: 884-892.

監修:横山 紗希

福岡大学薬学部卒業後5年間急性期病院に勤務し、糖尿病チームの一員として外来や病棟での療養指導に尽力。現在はケアミックス病院にて他職種と連携し、ポリファーマシー解消に日々取り組んでいます。

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田中 嘉尚
たなか かなお

1999年3月徳島文理大学薬学部卒業後、臨床治験モニター、医療ライター、病院薬剤師、保険薬局薬剤師を経験。現在病院薬剤師をしながら、フリーライターをしています。
ITに興味があり、前職の病院で恩師との出会いにより「副作用発現リスク精査表」を開発し、特許を取得。現在も共同研究中です。
フリーライターになろうと思ったきかっけは、恩師が現役著者で論文や学会誌などの文書の書き方をご指導頂いたことが影響しています。
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