プラセボ効果の源泉を探る―プラセボを投与する文脈とその効果の違い

前回は「プラセボ」という言葉の歴史を紐解きながら、その概念が時代と共にどう変化してきたのかを考察した。語源をさかのぼる中で垣間見てきたのは、プラセボという言葉に含まれている意味が「偽薬」そのものというよりはむしろ、その「偽薬」を使う人の振る舞いであったことだ。医療者と患者の関係性の中でプラセボという概念が育まれてきたことは、薬理学的知見から描き出される薬の効果とは異なる視点を模索している本連載にとって、重要な意味を持つ。
現代医学においてプラセボは「薬理学的に不活性な物質や、病態生理に直接影響を与えない薬や施術行為」と定義されることが一般的である1)。そして、プラセボを用いた治療を考える際には、大きく3つの文脈を想定することができる【表1】。今回は、プラセボを投与する文脈とその効果の違いについて、①と②の状況を考察したい。
プラセボを投与する文脈 | 投与状況 | |
---|---|---|
文脈① | 二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験 | あなたが受け取る薬は実薬かもしれないし、プラセボかもしれない |
文脈② | 実薬だと信じ込ませたうえでラセボを投与 | あなたは(本当はプラセボだけれども)強い効果が期待できる薬を受け取るだろう |
文脈③ | 事前にプラセボであることを明かしてプラセボを投与 | あなたがこれから飲む薬は“単なる”プラセボです |