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プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理

更新日: 2022年4月11日 青島 周一

抗ヒスタミン薬の選び方・説明の仕方における重要な視点-花粉症治療におけるプラセボ効果

プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理メインの画像1

季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)に適応を持つ経口抗ヒスタミン薬の種類は多く、治療の選択肢は多様である。近年では、医療用医薬品の一部が市販薬に転用され、ドラックストア店頭に並ぶアレルギー薬もバリエーションに富んでいる。

一般的に、季節性アレルギー性鼻炎に対する経口抗ヒスタミン薬の理想形は①即効性があり効果が持続すること、②眠気や作業効率の低下などの副作用が少ないこと、③長期的に服用が可能な安全性が担保されていること、④服薬する負担が少なく、良好なアドヒアランスが期待できること、の4点に集約できる。これらの条件すべてを満たす薬剤として注目を集めたのが2016年に発売されたビラスチン(ビラノア🄬)である。

今回は経口抗ヒスタミン薬の理想形ともいわれたビラスチンの有効性や安全性を、他の薬剤と比較しながら考察し、経口抗ヒスタミン薬の選び方・説明の仕方におけるプラセボ効果の活用を論じたい。

季節性アレルギー性鼻炎に対するビラスチンの有効性・安全性

ビラスチンはヒスタミンH1受容体に対する強い拮抗作用を有し、その効力はフェキソフェナジンよりも優れる1)。加えて同薬は、肥満細胞からのインターロイキンや腫瘍壊死因子の放出を抑制することによる、抗炎症作用も期待できる2)

またビラスチンは、優れた薬物動態学的特性を有し、最大血漿濃度到達までの時間は、経口投与から約1時間である3)。加えて、半減期は14時間と長く、持続的な効果も期待できる4)。そのため、1日1回の服用で済み、服薬アドヒアランスの観点からもアドバンテージの大きな薬剤である。

ビラスチンはヒスタミンH1受容体に対する選択制が極めて高く、抗ヒスタミン薬で発生しやすい傾眠や鎮静作用はほとんどないとされる5)。実際、脳内のヒスタミン受容体における同薬の影響は他の抗ヒスタミン薬と比べて低く6)、ドライビング・シミュレーターを用いた実験的な研究においても、運転パフォーマンスに影響を与えないことが報告されている7)

一方で、ビラスチンのバイオアベイラビリティは脂肪を多く含む食品と併用すると、顕著に低下することが知られている。健常ボランティアを対象とした研究では、ビラスチンのバイオアベイラビリティは高脂肪食との併用で30%低下、標準脂肪食であっても25%低下した4)。それゆえビラスチンの用法は「空腹時に経口投与」となっている。

服薬タイミングに注意が必要なものの、ビラスチンは即効性、持続性、有効性、忍容性、いずれの観点から、「理想の経口抗ヒスタミン薬」の条件を概ね満たしているといえるだろう。したがって、ビラスチンが最も優れた治療薬の一つとして考慮される可能性は大いにある。

ビラスチンと他の抗ヒスタミン薬の比較

ところが、季節性アレルギー性鼻炎に対する有効性を検討した論文情報を紐解くと、ビラスチンの効果は他の経口抗ヒスタミン薬とさほど変わらない事実が浮き彫りとなる。例えば、セチリジン10mgと比較したランダム化比較試験8)、デスロラタジンと比較したランダム化比較試験9)が報告されているが、どちらの研究においても、ビラスチンの方が有効性に優れるとした結果は得られていない。2022年に報告されたシステマティックレビュー10)においても、ビラスチンの効果は他の抗ヒスタミン薬とほぼ同等であったことが報告されている。

有害事象についてはどうだろうか。前述のとおり、ビラスチンは眠気の副作用が出にくいという薬理学的特徴を有する。しかし、抗ヒスタミン薬に生じるとされる眠気は、本当に抗ヒスタミン薬によるものだけなのだろうか。

経口抗ヒスタミン薬の鎮静作用を比較した研究が報告されていないわけではない。このうちのいくつかの研究では、いわゆる非鎮静性と分類される抗ヒスタミン薬で鎮静作用が低いことを報告している11)12)。しかし、ノセボ効果について考察を重ねてきた僕たちにとって、抗ヒスタミン薬による鎮静作用でさえ、薬剤の直接的な影響ではない可能性を指摘することができるだろう。

鎮静作用が強いと考えられている第1世代抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミンに関して、興味深い研究13)が報告されている。この研究は18〜50歳の健常男性15人を対象としたランダム化比較試験(クロスオーバーデザイン)である。被験者はジフェンヒドラミン50mgを1日2回、またはプラセボを1日2回、それぞれ4日間にわたり投与される群にランダム化され、傾眠症状の客観的および主観的評価が比較された。

解析の結果、投与1日目の傾眠症状は、プラセボと比較してジフェンヒドラミンで統計学的にも有意に増加した。しかし、ジフェンヒドラミンによる傾眠症状は、投与4日目でプラセボと差が認められなくなった。つまり、抗ヒスタミン薬の服用を開始した当初は傾眠の副作用が出やすいかもしれないが、その効果は一過性のもので、服用を継続するに従い日常生活に対する影響力は低下するということだ。第1世代抗ヒスタミン薬の鎮静作用がこの程度であれば、第2世代抗ヒスタミン薬の間で、鎮静作用の差異を見出すことはほぼ不可能であろう。

薬剤間の効果差はプラセボ/ノセボ効果による可能性

結論を先取りすれば、アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の有効性は、薬剤間で大きな差異はない。このことは、アレルギー性鼻炎患者を対象としたオープンラベルプラセボ試験14)の結果にも裏打ちされている。

この研究では、18〜60歳のアレルギー性鼻炎患者47人が対象となっている。被験者は非盲検化でプラセボを服用する群と、何も治療しない群にランダム化され、アレルギー症状の度合いが比較された。その結果、治療をしなかった群では症状の度合いに変化を認めなかったが、プラセボを投与された群では、服用前に比べて統計学的にも有意に症状の度合いが改善した。

薬理学的な作用機序に基づいて、その効果特性を表現することはできるかもしれない。しかし実際には、ある特定の薬が他の薬よりも効くと感じる人がいる一方で、どの薬もそれほど変わらないと感じている人も存在する。薬理学では言葉にできない薬の作用こそがプラセボ効果(眠気等の副作用であればノセボ効果)に他ならない。アレルギー性鼻炎における抗ヒスタミン薬間での効果差は、各薬剤の薬力学的・薬物動態学的な特性というよりはむしろ、プラセボ効果の出方の違いであろう【図】。

プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理の画像2

画像を拡大する

【図】季節性アレルギー性鼻炎に対する異なる抗ヒスタミン薬間での効果差のイメージ

どの薬も大差がないと言ってしまえば、やや否定的なイメージもあるかもしれない。しかし、こうした事実はより肯定的に捉えられるべきである。複数の治療が考慮できる場合、有効性や忍容性に大きな差がないからこそ、患者の価値観や生活状況に合わせた薬剤選択が可能となる。この場合、ある種の非科学的な選択基準(例えば患者の嗜好やイメージ)で薬を選んでも、合理的な治療選択を否定するものではない。薬剤効果に占めるプラセボ効果のウェイトが大きいということを知るだけで、服薬説明における薬剤師の視点や関心は、薬学的知見から患者の生活に則したものへとシフトすることが可能になる。

まとめ

複数の薬物治療が考慮できる場合、「どの薬が一番に有効か?」という問いの前提として、有効性に優れる薬の実在が想定されている。しかし、季節性アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬についていえば、その前提は成立しない。

論文情報を紐解けば、抗ヒスタミン薬の理想形ともいえるビラスチンでさえ、その有効性は他の抗ヒスタミン薬とほぼ同等である。したがって、薬剤間の効果差が実在するのであれば、その多くはプラセボ効果によるものである。

複数の薬剤間で効果に差がないことは、決してネガティブなことではない。効果に差がないからこそ、患者のライフスタイルに合わせて服薬説明や薬剤選択ができるからだ。薬剤効果に占めるプラセボ効果のウェイトが大きいということを知るだけで、服薬説明における薬剤師の視点や関心は、薬学的知見から、患者の生活に則したものへとシフトすることが可能になる。

【参考文献】
1) Drugs R D. 2006;7(4):219-31. PMID: 16784247
2) Clin Mol Allergy. 2015 Apr 15;13(1):1. PMID: 25878559
3) Clin Pharmacokinet. 2009;48(8):543-54. PMID: 19705924
4) Ther Clin Risk Manag. 2013;9:197-205. PMID: 23667312
5) Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2012 Dec;16(14):1999-2005. PMID: 23242729
6) Expert Opin Drug Saf. 2016 Jan;15(1):89-98. PMID: 26571227
7) Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2018 Feb;22(3):820-828. PMID: 29461615
8) Clin Exp Allergy. 2009 Sep;39(9):1338-47. PMID: 19438584
9) Allergy. 2009 Jan;64(1):158-65. PMID: 19132976
10) Front Pharmacol. 2022 Jan 10;12:731201. PMID: 35082662
11) BMJ. 2000 Apr 29;320(7243):1184-6. PMID: 10784544
12) Hum Psychopharmacol. 2016 May;31(3):167-77. PMID: 26999510
13) J Clin Psychopharmacol. 2002 Oct;22(5):511-5. PMID: 12352276
14) PLoS One. 2018 Mar 7;13(3):e0192758. PMID: 29513699

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青島 周一
あおしま しゅういち

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。特定非営利活動法人アヘッドマップ共同代表。
主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

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