プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理

更新日: 2022年5月14日 青島 周一

エビデンスの使い方が症状を左右する!?変形性関節症に対するプラセボ効果

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変形性関節症は最も一般的な関節疾患であり、その有病割合は12~22%である1)。関節の痛みやこわばり、機能障害を特徴とする慢性疾患であり、その発症要因は多岐にわたる。年齢は変形性関節症の強い危険因子として知られているが、性別(女性で多い)肥満、遺伝的素因など個人レベルの要因に加え、関節の損傷や器質的な異常、関節にかかる負荷なども、その発症に深くかかわっている1)2)。今回は変形性関節症に対する薬物療法のエビデンスを紐解きながら、関節痛に対するプラセボ効果とエビデンスの使い方について考察する。

ヒアルロン酸の関節内注射はどれほど効くのか?

変形性関節症に対して、どのような治療法が最も効果的なのかを検討した研究論文3)が2015年に報告されている。この研究では、ネットワークメタ分析という手法を用いてランダム化比較試験137研究の解析データから、様々な治療法が間接的に比較された。その結果、プラセボ治療と比較して、アセトアミノフェン、NSAIDs、ヒアルロン酸の関節内注射、いずれも統計学的有意に疼痛を改善した。最も効果の高い治療法はヒアルロン酸の関節内注射であり、最も効果が低い治療法はアセトアミノフェンの投与であった。

即効性や有効性は、内服薬よりも注射薬の方が強いと考えている人は多いと思う。むろん、薬剤の投与頻度や治療内容によっても異なるかもしれない。しかし、人工膝関節置換術を受けた178人を対象とした調査4)によれば、内服薬よりも注射薬を好む要因として、より高い有効性への期待があげられている。そういう意味では、変形性関節症の疼痛管理にヒアルロン酸の関節内注射が最も効果的であるという研究結果は、直観的にも理解しやすいものであろう。

しかし、ヒアルロン酸の関節内注射に関する他の論文報告では、効果に乏しいと結論した研究も少なくない。例えば、2005年に報告されたシステマティックレビュー・メタ分析5)では、関節痛に対する有効性が期待できないどころか、有害事象のリスクが有意に増加した。

この研究では変形性関節症に対するヒアルロン酸関節内注射の効果を検討したランダム化比較試験24研究がレビューの対象となっている。このうち、8つの研究において、安静時疼痛の軽減が報告されたものの、方法論的妥当性が低い研究では結果を過大に評価している可能性が示された。一方で、注射部位の疼痛をはじめとした有害事象は、ヒアルロン酸の関節内注射を受けた人で、統計学的にも有意に増加した(相対危険1.08[95%信頼区間1.01~1.15])。

また、2003年に報告されたシステマティックレビュー・メタ分析6)では、変形性関節症に対するヒアルロン酸の関節内注射で疼痛が有意に改善したものの、その効果の大きさ(効果サイズ)はごくわずかであったと結論されている。

この研究では、ランダム化比較試験22研究の結果がメタ分析された。その結果、効果サイズ(数値が大きいほど効果が大きい)は0.32(95%信頼区間0.17-0.47)と統計学的にも有意な改善が示された。しかし、効果サイズが1.5を超えるような外れ値の2研究を除外して解析すると、効果サイズは0.19(95%信頼区間0.10-0.27)まで低下した。つまり、方法論的妥当性の高い研究のみで検討すれば、ヒアルロン酸による関節注射の効果はほとんど検出できないか、あってもごくわずかということになる。

さらに、変形性関節症に対するヒアルロン酸の関節内注射とNSAIDsの有効性を比較したシステマティックレビュー・メタ分析7)によれば、ヒアルロン酸関節内注射の有効性は、継続的なNSAIDsによる治療と大きな差がないことが示されている。ヒアルロン酸の関節内注射にNSAIDsと同等の有効性が期待できると解釈すべきか、NSAIDsもヒアルロン酸もプラセボとほとんど変わらない効果でしかないと解釈すべきなのか、ますます訳が分からないことになっている。

グルコサミンやコンドロイチンはどれほど効くのか?

関節痛を患う人にとって、コンドロイチンやグルコサミンなど、健康食品(サプリメント)に対する関心も決して低くないだろう。オーストラリアの研究ではあるが、45歳以上の266,844人を対象とした調査8)では、グルコサミンを毎日摂取していた人が全体の22%にも上った。

変形性関節症に対するグルコサミンの有効性は、ヒアルロン酸の関節内注射よりもはっきりとしない。2013年に報告されたシステマティックレビュー・メタ分析9)によれば、6か月以上にわたりグルコサミンを服用することで、関節機能の改善を認めるかもしれないが、疼痛軽減には効果が期待できないと結論されている。一方で、2018年に報告されたシステマティックレビュー・メタ分析10)では、関節の機能障害に対する効果は不明であるものの、疼痛の改善にはわずかな有効性が期待できると結論されている。

コンドロイチンについても同様に、疼痛の改善を認めたとする研究11)もある一方で、関節機能の改善や疼痛緩和には全く効果がないと結論した研究12)もあり、解析結果に一貫性を認めない。

ただ、これらの研究結果は、いずれも短期間における疼痛の管理に焦点を当てており、治療開始からの時系列的な変化、すなわち長期的な有効性についても評価すべきではないか、との指摘もできよう。変形性膝関節症に対して、12か月以上の長期にわたる薬物療法の有効性を検討した研究13)では、やや意外な結果が報告されている。

この研究では、ランダム化比較試験47研究(解析対象22037人、平均55〜70歳)の結果をもとに、変形性関節症に対する有効性のランク付けを行っている。その結果、変形性関節症の疼痛に対する治療法として最も優れていたのはグルコサミン硫酸塩であった【図1】。

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【図1】変形性関節症の疼痛に対する治療のランキング(参考文献13より作成)
※数値はSUCRA値(治療効果の順位を表す指標;0~1で評価。最良の治療は1)

ただし、この解析で最良の治療とされたグルコサミンはグルコサミン硫酸塩であり、日本で一般的に市販されているグルコサミン塩酸塩とは異なる。また、本解析は小規模研究に基づくデータであり、大きな不確実性を含むものであること、ランク付けの妥当性やその解釈にも議論の余地があることは、論文著者らも解析のリミテーション(研究手法の限界)としてあげている。しかし、ヒアルロン酸の間接内注射やNSAIDsよりも治療ランクが上位であることに小さくない驚きがあるかもしれない。

変形性関節症治療にプラセボ的効果が与えている影響

薬物療法において、投与経路は症状改善に重要な意味を持つ。変形性関節症の疼痛管理において、投与経路がプラセボ効果の大きさにどのような影響を与えるかを検討したシステマティックレビュー・メタ分析14)によれば、内服よりも注射や外用の方が高いプラセボ効果を期待できるという結果であった。また、プラセボ効果の差異を除外して解析すると、疼痛改善に対する効果はヒアルロン酸の関節内注射よりも、経口非ステロイド性抗炎症薬で優れていた。

さらに、変形性関節症の疼痛管理におけるプラセボ効果の発現要因を検討したメタ分析15)によれば、積極的な治療を行った場合、研究開始時の疼痛が強い場合、注射によって薬剤が投与された場合でプラセボ効果を強めることが明らかとなっている。

つまり、薬理学的な作用機序に基づく直接的な疼痛軽減効果は、ヒアルロン酸の関節内注射よりもNSAIDs経口投与の方が優れている可能性が高い一方で、ヒアルロン酸の関節内注射の方が優れているとした研究結果が散見されるのは、主にプラセボ効果の影響によるものであろう。

グルコサミンの効果に関して研究結果に一貫性を認めない理由は、検討されている製剤の種類や、研究の方法論的妥当性、製造メーカーなどの利益相反が考えられる16)。臨床効果に占めるプラセボ効果の度合いが大きい治療ほど、様々なバイアスが研究結果に織り込まれ、解析の仕方や研究手法によっては過大な効果が示されてしまうことに注意したい。

実は、変形性関節症の治療効果に占めるプラセボ効果の割合は70%以上であるといわれている18)。薬理学的な作用機序に基づく直接的な薬剤効果の影響は極めて小さいのだ。このことはまた、コンドロイチンでもグルコサミンでも、その販売の仕方や説明の仕方によって、得られる効果の出方は大きく変わるということに他ならない。

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【図3】変形性関節症の治療効果に占めるプラセボ効果の割合(参考文献17より作成)

ある治療の有効性について複数の論文報告があり、それぞれの論文結果に一貫性を認めないことは多い。その場合、どの論文結果を重視するかは医療者の置かれた立場や関心に依存している(参考記事→薬剤師のための論文活用-情報の取捨選択と薬剤師の専門性)。むろん、医療従事者であれば、方法論的妥当性の高い研究結果を最重視すべきであろう。しかし、ヒアルロン酸の関節内注射や健康食品に、はっきりとした有効性のエビデンスがないからといって、その治療を否定的に説明したのでは、得られるはずのプラセボ効果も大きく減弱してしまう。

臨床効果の多くをプラセボ効果が占めるということは、患者に提供する情報(エビデンス)の選び方や伝え方そのものが、臨床効果を左右する強い要因になるということだ。このような場合において、より小さな害で、より大きな利益が想定されるのであれば、方法論的妥当性の低い研究結果であっても、その情報を効果的に使うことこそがEBM(Evidence-based Medicine)であろう。むろん、質の高い研究で、一定の効果が示されている(プラセボ効果の影響が少ない)ような状況では、また別の配慮が必要かもしれない。ただ、EBMとはエビデンスそのものことでなく、エビデンスの使い方に関するものであることを忘れてはいけない。

まとめ

ある薬の効果について、複数の研究で一貫した結果が得られていないことは多い。特に臨床効果に占めるプラセボ効果の割合が大きい治療法ほど、被験者の背景や研究手法、利益粗飯など、様々な要因によって、効果の大きさにばらつきが生じてしまう。

臨床判断をする際に、有効性があると結論したエビデンスと、有効性は不明であると結論したエビデンスのどちらを重視すべきかは、医療者の置かれた立場や状況に依存する。しかし、臨床に従事する医療者としては、エビデンスの妥当性の高さだけでなく、より小さな害でより大きな利益が得られるのであれば、どのようなエビデンスでも、プラセボ効果を最大限に引き出せるよう、情報の活用や説明の仕方を模索すべきであろう。

【参考文献】
1) Ann Phys Rehabil Med. 2016 Jun;59(3):134-138. PMID: 26904959
2) Bone Res. 2017 Jan 17;5:16044.PMID: 28149655
3) Ann Intern Med. 2015 Jan 6;162(1):46-54.PMID: 25560713
4) Z Orthop Unfall. 2012 Sep;150(4):397-403. PMID: 22422352
5) CMAJ. 2005 Apr 12;172(8):1039-43. PMID: 15824412
6) JAMA. 2003 Dec 17;290(23):3115-21. PMID: 14679274
7) Semin Arthritis Rheum. 2014 Apr;43(5):593-9.PMID: 24216297
8) PLoS One. 2012;7(7):e41540. PMID: 22859995
9) Int J Clin Pract. 2013 Jun;67(6):585-94. PMID: 23679910
10) Clin Rheumatol. 2018 Sep;37(9):2479-2487. PMID: 29713967
11) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jan 28;1:CD005614. PMID: 25629804
12) BMJ. 2010 Sep 16;341:c4675. PMID: 20847017
13) JAMA. 2018 Dec 25;320(24):2564-2579.PMID: 30575881
14) Ann Intern Med. 2015 Sep 1;163(5):365-72.PMID: 26215539
15) Ann Rheum Dis. 2008 Dec;67(12):1716-23. PMID: 18541604
16) Arthritis Rheum. 2007 Jul;56(7):2267-77. PMID: 17599746
17) Clin Exp Rheumatol. Sep-Oct 2019;37 Suppl 120(5):118-123. PMID: 31621561

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青島 周一
あおしま しゅういち

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。特定非営利活動法人アヘッドマップ共同代表。
主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

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