プラセボ効果-人と生活と、ときどき薬理

更新日: 2022年6月2日 青島 周一

プラセボで骨折は予防できる?-ビスホスホネート製剤の有効性を最大限に引き出す方法

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ビスホスホネート製剤は、骨密度を高めることで将来的な骨折のリスクを低下させる。それゆえ、同薬の服薬アドヒアランスの維持・改善は、一般的に重要な臨床課題の一つだと認識されている。

いくつかの研究において、経口ビスホスホネート製剤の服薬アドヒアランスが高い人では、骨折リスクが低いと報告されている1)~3)。しかし、このことは薬の薬理作用によって骨折リスクの低下がもたらされていることを意味しているわけではない。今回は経口ビスホスホネート製剤のプラセボ効果について、服薬アドヒアランスの観点から考察し、実臨床での具体的な対応を論じたい。

プラセボ効果に含まれるhealthy adherer effectの影響

「薬剤効果の多因子性」を論じた記事で、プラセボの服薬アドヒアランスが高い人では死亡リスクが低いという研究結果4)を紹介した。この研究結果が示唆している重要なポイントは、プラセボ効果によって死亡リスクが大きく減少したというよりは、服薬アドヒアランスが高い人は、潜在的に長生きである可能性が高いということである。

つまり、服薬アドヒアランスが高い人では、健康や医療に対する関心も高く、健診やワクチン接種などの予防医療を積極的に受ける傾向にあり、服薬アドヒアラスが低いに比べて、もともと健康リスクが低いというわけだ。実際、急性心筋梗塞後の417人を対象とした横断調査5)によれば、服薬アドヒアランスが高い人では、生活習慣を改善した人の割合が高かったと報告されている。

経口ビスホスホネート製剤の服薬アドヒアランスと骨折リスクの関係性も、薬の直接的な効果ではなく、服薬アドヒアランスが高い人の行動が骨折リスクを低下させている可能性を指摘できる。このように、服薬アドヒアランスが高い人の行動が、薬の薬理作用とは独立して健康状態に与える影響をhealthy adherer effectと呼ぶ。

healthy adherer effectは、将来的な合併リスクの管理に用いられるような予防的薬剤おいて、そのプラセボ効果の一部(ないしはほとんど)を担っていると考えられる。予防的薬剤とは心筋梗塞や脳卒中、あるいは死亡など、将来に起こり得る重大な臨床転帰や合併症の発症を先送りするために用いられる薬のことである。

経口ビスホスホネート製剤のhealthy adherer effect

ビスホスホネート製剤は将来に起こり得る骨折を先送りするために用いられる薬剤という意味で、代表的な予防的薬剤の一つである。それゆえ、同薬の効果にはhealthy adherer effectの影響が織り込まれることになる。

経口アレンドロネートとプラセボを比較したランダム化比較試験、Fracture Intervention Trial6)のデータを用いて、プラセボ投与群の服薬アドヒアランスと、骨密度の関連性を検討した研究7)が報告されている。

解析の結果、プラセボ投与群において服薬アドヒアランスが高かった人では、服薬アドヒアランスが低かった人に比べて、骨密度の損失が統計的にも有意に少なかった。残念ながら骨折のリスクについては、服薬アドヒアランスと統計的有意な関連性を認めなかった。しかし、大腿骨頚部骨折についていえば、服薬アドヒアランスが高い人で、骨折リスクが低い傾向にあった【表1】

【表1】低服薬アドヒアランス群と比較した高アドヒアランス群の骨折リスク(参考文献7より引用)

プラセボ投与群
ハザード比[95%信頼区間]
アレンドロネート投与群
ハザード比[95%信頼区間]
大腿骨頚部骨折 0.67[0.30〜1.45] 0.46[0.19〜1.10]
脊椎骨折 1.05[0.53〜2.06] 0.51[0.24〜1.09]
手首骨折 1.18[0.63〜2.23] 1.05[0.57〜1.93]
全臨床的骨折 1.06[0.80〜1.41] 0.87[0.65〜1.15]

服薬アドヒアランスと骨密度の間に統計的有意な関連性が認められる一方で、骨折リスクとの関連性が明確ではない理由は、ランダム化比較試験という実験的環境、そして骨折が発生するメカニズムの複雑さが影響しているものと思われる。ランダム化比較試験のような特殊な環境で服薬を継続することは、一般的な日常生活環境と比較して、健康関連行動に対する関心が高まると考えられる。それゆえ、両群の骨折リスクは低く、統計的有意な差を検出しにくい状況だったのかもしれない。

また、骨折は骨密度の低下だけが原因で発生するわけではない。そもそも骨折が発生するような外部の力が身体に働かなければ骨折は生じないだろう。その最大の原因は転倒であるが、転倒の発生メカニズムも決して単純ではない。年齢や身体機能、服用している薬の種類、生活環境など、膨大な数の危険因子が想定できる。ゆえに、骨折リスクの低減に占めるhealthy adherer effectの影響は、骨密度の維持に占めるhealthy adherer effectの影響に比べて、相対的に小さいといえるかもしれない。

ビスホスホネート製剤は食後に投与しても効く!?

経口ビスホスホネート製剤はバイオアベイラビリティが低く、また、食品や清涼飲料などと同時に服用すると薬剤成分の吸収がさらに低下する。加えて同薬は、食道炎や食道潰瘍など粘膜生涯を引き起こしやすい。そのため、「起床後、最初の飲食前に服用し、かつ服用後少なくとも30分は水以外の飲食を避ける」「立位あるいは坐位で、十分量(約180mL)の水とともに服用し、服用後30分は横たわらない」「噛まずに、なめずに服用する」といった特殊な用法で服薬することが要請されており、一般的に経口ビスホスホネート製剤の服薬アドヒアランスや服薬継続率は不良である8)

日本では未承認のアレンドロネート5mg とカルシトリオール0.5μgの合剤について、食後投与と食前投与を比較したランダム化比較試験9)の結果が報告されている。この研究では60歳以上の骨粗鬆症患者300人が対象となっている。被験者は一般的な用法(起床時)で服用する群150人と、食後に服用する群150人に分類され、1年間にわたる追跡調査が行われた。

解析の結果、大腿骨と腰椎の骨密度は、研究開始時と比べて2群とも統計的有意に改善していた。この結果は、食後の投与ではビスホスホネート製剤の吸収率が低下し、その有効性が期待できないとする一般的な認識と相違するものであろう。なお、服薬継続率や服薬アドヒアランスは一般的な用法群と比べて、食後服用群で統計的にも有意に高いことが示されている。

本研究はランダム化比較試験ではないため、結果の妥当性については議論の余地も多い。しかし、バイオアベイラビリティが大きく低下するはずの食後服用でも、一般的な用法で服用した場合と同じように骨密度の改善を認めており、骨密度の維持・改善におけるhealthy adherer effectの影響を指摘できるかもしれない。

ビスホスホネート製剤のプラセボ的効果を最大限に高めるには?

ビスホスホネート製剤の長期服用は骨折リスクの増加と関連しており10)、3~5年ほど服用したのち休薬を考慮することが推奨されている11)。一方で、2年を超えてビスホスホネート製剤を中止すると、骨折リスクが再び増加することも報告されている12)

これまでの考察を踏まえれば、ビスホスホネート製剤の休薬期間中における骨折リスク増加は、同薬の薬理作用が途絶えていることだけが理由ではないように思われる。服薬行動の中止によってもたらされる生活環境の変化もまた、骨折リスクに小さくない影響を与えているはずだからだ。そういう意味では、薬剤師による服薬説明は、ビスホスホネート製剤の有効性や用法用量の説明に終始することなく、骨折が極めて多因子的な要因で発生することに加え、骨折リスク低減のために必要な生活への配慮はどのようなものなのかを具体的に提示できると良いように思う。とはいえ、日常生活にかかる負荷が強いものであれば、骨折に対する継続的な配慮は難しい。誰でもできる容易なことから提案できると良い。

例えば、目覚まし時計の活用は経口ビスホスホネート製剤の服薬アドヒアランスを改善させることが報告されている13)。むろん、このことが直ちに骨折リスクを低下させるわけではないが、薬剤師の服薬説明きっかけに、患者が無理なく骨折リスクに配慮できると良いかもしれない。ただ、注意すべきは服薬アドヒアランスが低いからといって、週1回製剤を月1回に変更することが、必ずしも骨折リスクの観点からベストな選択肢とは限らないことである。むろん患者の好みや生活状況に応じて柔軟な対応が求められることは言うまでもない14)。ただ、薬を定期的に服用するという日常の何気ない行為そのものが、人の将来的な健康リスクに小さくない影響を与えていることに自覚的でいることは、ビスホスホネート製剤に限らず、多くの予防的薬剤のプラセボ効果を最大限に引き出すための前提条件である。

まとめ

服薬アドヒアランスが高い人では、健康や医療に対する関心も高く、健診やワクチン接種などの予防医療を積極的に受ける傾向にあり、服薬アドヒアラスが低いに比べて、もともと健康リスクが低い。そして、服薬アドヒアランスが高い人の行動が、薬の薬理作用とは独立して健康状態に与える影響をhealthy adherer effectと呼ぶ。

healthy adherer effectは、将来的な合併リスクの管理に用いられるような予防的薬剤おいて、そのプラセボ効果の一部を担っていると考えられる。そういう意味では、薬を定期的に服用するという日常の何気ない行為そのものが、人の将来的な健康リスクに小さくない影響を与えている。このことは、予防的薬剤のプラセボ効果を最大限に引き出すための前提条件である。

【参考文献】
1) Am J Med. 2009 Feb;122(2 Suppl):S3-13. PMID: 19187810
2) Osteoporos Int. 2007 Mar;18(3):271-7. PMID: 17021945
3) Mayo Clin Proc. 2006 Aug;81(8):1013-22. PMID: 16901023
4) BMJ. 2006 Jul 1;333(7557):15.PMID: 16790458
5) Health Qual Life Outcomes. 2018 May 22;16(1):100. PMID: 29788961
6) Lancet. 1996 Dec 7;348(9041):1535-41. PMID: 8950879
7) Bone Miner Res. 2011 Apr;26(4):683-8. PMID: 20939064
8) BMJ Open. 2019 Apr 14;9(4):e027049. PMID: 30987990
9) J Bone Metab. 2019 Feb;26(1):39-44. PMID: 30899723
10) N Engl J Med. 2020 Aug 20;383(8):743-753. PMID:32813950
11) Arch Osteoporos. 2017 Dec;12(1):43. PMID: 28425085
12) Med Care. 2020 May;58(5):419-426. PMID: 31985584
13) J Bone Metab. 2016 May;23(2):51-4. PMID: 27294076
14) J Bone Miner Metab. 2016 Mar;34(2):201-8. PMID:25794468

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青島 周一
あおしま しゅういち

2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。特定非営利活動法人アヘッドマップ共同代表。
主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医療情報を見る、医療情報から見る エビデンスと向き合うための10のスキル(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』

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