プラセボで骨折は予防できる?-ビスホスホネート製剤の有効性を最大限に引き出す方法

ビスホスホネート製剤は、骨密度を高めることで将来的な骨折のリスクを低下させる。それゆえ、同薬の服薬アドヒアランスの維持・改善は、一般的に重要な臨床課題の一つだと認識されている。
いくつかの研究において、経口ビスホスホネート製剤の服薬アドヒアランスが高い人では、骨折リスクが低いと報告されている1)~3)。しかし、このことは薬の薬理作用によって骨折リスクの低下がもたらされていることを意味しているわけではない。今回は経口ビスホスホネート製剤のプラセボ効果について、服薬アドヒアランスの観点から考察し、実臨床での具体的な対応を論じたい。
プラセボ効果に含まれるhealthy adherer effectの影響
「薬剤効果の多因子性」を論じた記事で、プラセボの服薬アドヒアランスが高い人では死亡リスクが低いという研究結果4)を紹介した。この研究結果が示唆している重要なポイントは、プラセボ効果によって死亡リスクが大きく減少したというよりは、服薬アドヒアランスが高い人は、潜在的に長生きである可能性が高いということである。
つまり、服薬アドヒアランスが高い人では、健康や医療に対する関心も高く、健診やワクチン接種などの予防医療を積極的に受ける傾向にあり、服薬アドヒアラスが低いに比べて、もともと健康リスクが低いというわけだ。実際、急性心筋梗塞後の417人を対象とした横断調査5)によれば、服薬アドヒアランスが高い人では、生活習慣を改善した人の割合が高かったと報告されている。
経口ビスホスホネート製剤の服薬アドヒアランスと骨折リスクの関係性も、薬の直接的な効果ではなく、服薬アドヒアランスが高い人の行動が骨折リスクを低下させている可能性を指摘できる。このように、服薬アドヒアランスが高い人の行動が、薬の薬理作用とは独立して健康状態に与える影響をhealthy adherer effectと呼ぶ。
healthy adherer effectは、将来的な合併リスクの管理に用いられるような予防的薬剤おいて、そのプラセボ効果の一部(ないしはほとんど)を担っていると考えられる。予防的薬剤とは心筋梗塞や脳卒中、あるいは死亡など、将来に起こり得る重大な臨床転帰や合併症の発症を先送りするために用いられる薬のことである。