漢方薬とプラセボの関係について。薬の専門家として意識しておくこと

日本で用いられている医療用の漢方製剤には、おおよそ半世紀ほどの歴史がある。1967年には6品目の漢方製剤が薬価収載され、1976年には42処方60品目が導入、2000年には148処方848品目にまで拡大した1)。
漢方製剤は、日本の医師の8割以上が処方経験を有しているといわれており、臨床現場でも身近な薬の一つである2)。今回は、漢方製剤の有効性を検討したエビデンスを紐解きながら、その効果に占めるプラセボ的な影響の大きさを見積もり、実臨床における漢方薬の考え方や服薬説明のポイントを考察する。
漢方薬のエビデンスはどれくらい報告されている?
2011年に報告されたレビュー論文3)によれば、1988年から2007年の間に発表された漢方製剤の研究報告は135件であり、プラセボを対照としたランダム化比較試験は22件、標準治療を対照としたランダム化比較試験は53件であった。この論文ではPubMedおよび医学中央雑誌に収載された研究のみをレビュー対象としているが、漢方製剤に関する臨床研究は20年間で135件、つまり年間報告数は平均で1報未満にすぎない。
加えて、漢方製剤の有効性を検討した研究は多くは、小規模症例を対象としたものであり、135件の2/3は症例数が100人未満の研究であった。また、研究の方法論的妥当性も低く、英語で発表された研究は35件である。ちなみに、症例数が少ない研究では、統計的有意な結果が得られたとしても、その妥当性は必ずしも高くないことが知られている4)。
一方で、2021年に報告されたレビュー論文5)では、漢方製剤の研究報告数は2000年以降に増加していることが示された。ただし、ランダム化比較試験に限ると報告件数は増加しておらず、1990年代と同レベルであった。