「風邪薬が欲しい」と妊婦や授乳婦が相談に来たら?OTC医薬品販売のポイント
1.妊娠中・授乳中だけど風邪薬が欲しい!その理由を聞いてみると…?
とくに寒い時期になってくると、ドラッグストアには風邪薬を求めて来店される方が増えてきます。妊娠中や授乳中の方が相談に来られることも珍しくありません。
1-1.妊婦や授乳婦からの相談を受けたときの対応
「妊娠中なんですけど、どの風邪薬なら飲んでも大丈夫ですか?」
と相談された場合、あなたならどう対応するでしょうか。この場合、患者さんが求めているのはほとんどの場合、総合風邪薬です。
市販の総合風邪薬といえば解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン薬、鎮咳薬などが複数配合されているものばかり。中には10種類前後もの成分が配合されている風邪薬もあるため、服用の可否を瞬時に判断できないことも多いでしょう。
そのためか、妊娠中や授乳中の方が来られたら「かかりつけ医に相談してください」と一蹴している光景をよく見かけます。私も妊娠中にドラッグストアで試しに風邪薬の相談をしたところ、やはり「かかりつけ医に…」と言われてしまいました。
万が一、胎児や子どもに何かあったらと考えると「責任を負えない」「販売するリスクが高くて怖い」と思ってしまう気持ちはわかります。しかしこれでは、妊婦や授乳婦に対して正しい対応ができているとは言えません。
1-2.掘り下げて話を聞くと解決策が見えてくる
まず大事なのは、なぜ風邪薬を欲しいと思っているのか、そして具体的にどのような症状に困っているのかを聞くことです。
よくよく話を聞くと「早く風邪を治したいから風邪薬が欲しい」と言われる方がいます。もちろん、風邪薬に風邪を治す効果はありません。
この場合は「風邪薬は症状を楽にする効果しかなく、飲んでも早く治ることはない」とお伝えしましょう。私たちが想像している以上に風邪薬を飲むと風邪が治ると思われている方は多いので、この一言はとても大事です。
それでも風邪薬が欲しいと言われた場合は、総合風邪薬ではなく個々の症状に合わせて解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン薬、うがい薬やトローチなどを提案します。総合風邪薬だとどうしても妊婦や授乳中には避けるべき成分が何かしら入っていることが多く、提案できるものがほとんどないためです。
2.妊婦や授乳婦にも販売できるOTC医薬品
では、どのような薬であれば妊婦や授乳婦に販売できるのでしょうか。風邪の症状として出やすい頭痛や熱、のどの痛み、鼻水に対処できる薬の一例をそれぞれご紹介します。
タイレノールA1)
配合されている成分はアセトアミノフェンのみです。アセトアミノフェンは妊娠中に飲める解熱鎮痛剤の中でも第一選択薬となります。
アセトアミノフェンを服用しても胎児の先天性異常の増加には影響しない2)ことが確認済みです。また授乳中の服用に関しても安全に使用できる3)と考えられています。
アイストローチ4)
セチルピリジニウム塩化物水和物が配合されているトローチです。オーストラリア医薬品評価委員会の評価ではA5)とされており、妊娠中でも使用できるとされています。また授乳中に使用した際のリスクについては特に報告されていません。
レスタミンコーワ糖衣錠6)
ジフェンヒドラミン塩酸塩が配合されている薬です。ジフェンヒドラミンは妊娠中に服用しても先天異常の増加には影響しない7)ことが分かっています。また「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」3)に記載があるため、授乳中の服用も可能です。
3.妊婦や授乳婦に風邪薬を販売するときの注意ポイント
妊娠中や授乳中に飲んでも良いとされている薬でも、すべての方に服用が向いているわけではありません。
妊娠中は便秘しやすい
妊娠中は子宮が腸を圧迫し、さらに黄体ホルモンの分泌増加により腸の動きがにぶくなって便秘しやすくなります。便秘がちな妊婦がジフェンヒドラミン塩酸塩のような抗ヒスタミン薬を服用すると、副作用によりさらに便秘がひどくなってしまう可能性があるので注意しましょう。
カフェインの過剰摂取に注意
解熱鎮痛剤の多くはカフェインを含んでいます。もしカフェイン配合の薬を販売する際は、患者さんが普段どれくらいカフェインを含む飲料を飲んでいるかもあわせて確認しましょう。
諸説ありますが、1日に200mg以上のカフェインを摂取すると流産のリスクが上がる8)と言われています。コーヒー1杯(100ml)におよそ60mgのカフェインが含まれています9)ので、場合によってはカフェイン飲料を控えてもらうなどの対処が必要です。
風邪ではない可能性も考慮する
本当はアレルギー性鼻炎(花粉症)なのに、風邪だと思い込んで相談に来られる方も大勢います。
花粉症といえばスギ花粉が代表的なため、2月から4月頃にしか発症しないと思い込んでいる方が多いのです。「えっ?花粉症って春以外でもあるんですか?」と驚かれる患者さんにこれまで何人もお会いしたことがあります。
もしもアレルギー性鼻炎の場合は、全身移行性が少なく抗ヒスタミン薬より効果が高いステロイドの点鼻薬も選択肢となりますので、本当に風邪なのかどうかよくヒアリングしましょう。
4.妊婦や授乳婦の不安を取り除くコミュニケーションのコツ
妊娠中や授乳中に薬を服用するのは、とても大きな不安がつきまといます。たとえ薬剤師から飲んでも良いと言われた薬であっても「本当に大丈夫なの?」「飲まないほうが良いのでは?」と必要以上に不安がってしまうものです。もしも胎児や子どもに何かあったらと考えると、不安になってしまうのも仕方ありません。
薬の説明をするときに「異常」や「奇形」などネガティブなワードを使うと、その言葉だけが頭に残って薬は危ないという印象だけが患者さんに残ってしまう可能性があります。そのため説明時には「妊娠中や授乳中の方にもよく使われている」「安全性が確認されている」など患者さんを安心させる言葉を選んで伝えるのがベストです。
もちろん「絶対に安全」など、安全性の保証をすることは避けなければいけませんが、使う言葉のチョイスで妊婦や授乳婦の不安を取り除くことができます。
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7)First-Trimester Drug Use and Congenital Disorders
8)
9)全日本コーヒー協会