次世代薬剤師になれる「薬歴」の書き方Vol.4
高齢化によって急増する医療ニーズを、増加しない医療人で支えなくてはならない深刻なマンパワー不足。社会保障制度の構造から考えても少子化の問題は極めて大きな影響があり、「体調に不安があれば、すぐに保険証を持って医師に」というのは、もはや最善の策ではなくなってきています。変化する医療の現場において「薬剤師も変わっていく」ためにはどうしたらよいのか?その答えは意外にも毎日の業務の中に隠されているのかもしれません。
わかっちゃいるけど… 対物業務に追われ変われない薬剤師
機械化やICT化が急速に進んだ現在の医療の現場において、“薬剤師が医師の処方せんを応需し、必要な疑義照会を終えた後に、正確・迅速に調剤し、服薬指導とともに薬をお渡しする”という仕事の専門性は、相対的に低下していると言わざるを得ません。“臨床現場で役に立つ医療人を育成する”という薬学教育6年制の理念からも、離れつつあるのかも知れません。
極めつけは「患者のための薬局ビジョン」から続く、2016年度調剤報酬改定です。「立地から機能」「対物から対人」「バラバラから1つ」というキーワードに沿った報酬制度が示され、立地に依存した対物業務を薬剤師が上手にやることのみでは、中長期的な薬局運営は成り立たなくなるのではないかという方向性が示されました。
「薬剤師が薬を揃えて説明するだけではだめ!」「超高齢社会の在宅で、薬物治療を支える重要な役割になっていることはわかっている」「そもそも薬剤師になったのは、薬を渡したかったわけではなく、健康を渡したかったんだ!」といったことを頭ではわかっている薬剤師は、決して少なくないはずです。でも、毎日の業務の中で実行するのはなかなか難しいという方がほとんどではないでしょうか。
私がお話しする講演会やセミナーに出ていただいた方からも、そのようなお話をしばしばお聞きします。「そうだ、対物から対人だ!お薬は飲んだ後が勝負だ!とその時は盛り上がって帰るのですが、翌朝、薬局を開店すると、今まで通りお薬を正しく準備してお渡しするという対物業務に専念せざるを得ない…」というお悩み(?)を打ち明けられる方は結構いらっしゃいます。こんな「わかっているけど、毎日の業務をこなしていると、どうしようもない…」という方に私がお勧めしている方法があります。
薬歴に「過去の記録」を書くか「未来の予測」を書くか
いままでの対物業務から脱却する方法、それは、意外かも知れませんが、薬歴を書く際の考え方を変えてみることです。現状でも、極めて忙しく、集中が要求される仕事をしているのに、新しい作業を組み込んでみるというのは無理があります。新しい作業を増やさずに、違う結果につながる第一歩を踏み出すためには、どうすればよいのか考えたどり着いたのが、薬歴を書く際の考え方を変えてみるということでした。
薬歴は、現在の仕事の内容にも含まれていますから、新しく負担が増えるわけではありません。また、考え方を変えてみるだけですから、これも大きな負担にはなりません。もっとも最初は若干の慣れが必要だと思いますが…。
では、どのように考え方を変えるのか。私は、「過去の記録」を書くことから、「未来の予測」を書くことに変えてみるとよいと考えています。この考え方の変化によって、薬剤師の立ち位置や、果たすべき責任の在り方が大きく変わることに気が付いたのです。
もし、薬剤師自身が薬を渡すまでの「対物業務」に携わっているという認識であれば、薬歴には今日あった出来事を「過去の記録」として詳細に書くことになります。患者とのやりとりの中で得られた情報をもとに、今日は何をしたかという記録を残します。これは、現在の薬剤師が病院・薬局を問わず、広く行っている業務だと思います。
しかし、薬剤師は「患者の体をよくする」ことが目的であると認識すれば、薬歴には今後起こり得る可能性のある「未来の予測」が記されるようになるはずです。薬が体の中に入った後、副作用を出さずにきちんと作用を発現することを目指して投薬するからです。
つまり、降圧剤を渡すことが目的であれば、患者さんにお渡しするまでの出来事をつぶさに記載するが、血圧を下げることが目的であれば、今後起こりうる血圧の変動の可能性や、副作用への注意など、時系列に則ってさまざまな未来の予測を書き付けるようになる、ということです。そして、これはまさに「対物から対人」へ変わることだと言えます。
薬剤師のパラダイムが変わる、そのきっかけは、意外に身近なところにあるのかも知れません。