改定内容を理解するための3つの変化Vol.3
近年、検討が繰り返されている「薬剤師の在り方」。その背景には、薬学教育が6年制に変わったこと、我が国の人口・疾病構造が変わったこと、医療ニーズが急増する一方で医療従事者は急増しないということなど、様々な要素が複雑に絡み合っています。
もし、2016年度の調剤報酬改定が晴天のへきれきのように感じられたとしたら、それは現在の「調剤薬局」の日常業務の中では、その「変化」が感じづらいからかもしれません。しかし、以下3つの変化を俯瞰してみるとで、おぼろげながらも「2016年度調剤報酬改定」の意味、求められている薬剤師像が見えてくるはずです。
薬剤師の在り方が変わることを確信させる3つの変化
(1)チーム医療推進にかかる医政局長通知(2010年4月)
チーム医療を推進する上で、薬剤師がその専門性を活かしさらに活躍することを目的とした具体的な連携の在り方が例示されました。中でも一番目に記された内容が衝撃的でした。そこには、「医師と薬剤師によって事前に作成・合意されたプロトコルに基づく」「医師等との協働実施」という2つの要件を満たせば、薬剤師が処方の内容を変更しても差し支えないと記されていました。
これは、薬剤師が基本的には「医師の処方通りに調剤する」という受動的な立場から、「医師と連携して能動的に患者の状態を判断し、その後の薬物治療の適正化により積極的に参画すべきだ」ということを明示したものです。今までの薬剤師の在り方を大きく変えようとしたものだと感じました。
(2)「調剤指針第13改訂」における調剤の概念(2011年11月)
これは日本薬剤師会がまとめたものですが、この改訂で初めて「調剤とは?」という問いに対する見解が明らかになりました。
ここでは、調剤とは薬剤師が薬学的専門性に基づいて薬物治療の個別最適化を行うことであり、投与した後も患者の状態や病状の経過を確認し、適切な薬物治療に必要な情報を患者やその家族、医療従事者に伝えるところまでも含んだものであると示されました。
医師の処方に大きな疑義がなければ、基本的にはその通りに薬剤を準備し、用法・用量や副作用の情報とともに患者さんにお渡しすれば仕事は終わるということでは「ない」ということを、日本薬剤師会という公的な団体が明記したことのインパクトは決して小さくないと思います。
(3)薬剤師法25条の2の改正(2013年12月)
さらに2年後、薬剤師法25条の2が改正されました。これは、自分が調剤した薬剤について適切な情報提供を行うという従来の薬剤師の義務に加え、さらに「指導義務」を加えたものです。患者に対する指導義務というのは、医師法23条にも明記されています。
医師にとって「自らの診察を終えた後も、患者のことを継続的に診ていくべき」という意味ですから、薬剤師においても、「お薬の説明とお渡しが終わった後も、患者のことを継続的に診ていくべき」ということが示されたと言えます。
店頭でお薬を正しく早くお渡ししてしまえば、後は関係がないという仕事から、患者と併走して様子を診るという仕事になりました。これは、従来の多くの「門前薬局」の業務から考えると、少なからず隔たりがあるものだったのではないでしょうか。
「患者のための薬局ビジョン」から「2016年度調剤報酬改定」へ
これらを踏まえて、2015年10月に厚生労働省から公表されたのが「患者のための薬局ビジョン」です。この内容には、さまざまな議論があり、承服しかねるという意見も少なからずあったと思うのですが、やはり、今後の薬局や薬剤師の在り方を考える上で、厚生労働省が示したビジョンという意義を考えると重要な方向性だと言えます。
この中で、すべての薬局をかかりつけにするとした上で「対物から対人」「立地から機能」「バラバラから1つ」というキーワードが明記されました。中でも「対物から対人」というのは、先ほどの3つ変化いずれにも共通しているキーワードです。
つまり、医師の指示通り薬という「物」を扱う仕事をするのではなく、患者の状態をよくするという「人」を対象とした仕事をするのが、「薬剤師の在り方である」ということを明確に表しているのではないでしょうか。
このビジョンが発表される前には、厚生労働大臣が「薬局前の景色を変える」と発言し、それがセンセーショナルに取り上げられたこともありました。
ですがやはり、薬局が「門前薬局」の「計数調剤」をこなすだけでは、医療における社会資源として薬局や薬剤師がその役割を十二分に果たすと言いづらいことは、これまでの変化を追ってみれば明確です。
そして、それを実現するために出てきたのが2016年度調剤報酬改定なのです。こう考えれば、今回のドラスティックな変化も腑に落ちるのではないでしょうか。