服薬コンプライアンス向上のための記事まとめ|Dr.竜平の服薬コンプライアンス

更新日: 2019年12月15日 Dr. 竜平

家族の思い込みが命に関わることも!患者さんの家族の服薬コンプライアンス

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高齢化が進むにつれて、服薬コンプライアンス不良な患者が急激に増加しています。理由としては本人の病識の無さや認知機能の問題、家族の理解などが挙げられます。
私は内科医として、そういった背景を考慮しつつ、薬剤師と相談し、いかにして内服していただくか、処方を調整することがあります。また一包化や服薬カレンダーを用いて内服忘れや過剰内服を防ぐ指導もしています。
本シリーズでは、クリニックの副院長として働く内科医の私が、日々、診療の現場で考える「服薬コンプライアンスの課題」と、薬剤師に期待することをお伝えします。


前回は「医師が意識しにくい、一包化の落とし穴」についてでしたが、今回は私が病院に勤務していた頃、患者さんのご家族が、良かれと思って飲ませた薬を聞いて、凍り付いた事例です。

脳出血で救急搬送された患者さん。家族がアスピリンを飲ませていた

患者さんは当時50代の女性で、右手の麻痺を主訴に当時勤めていた病院に救急搬送されました。診察すると顔面を含む右半身の麻痺があり、収縮期血圧が200mmHgと異常高値でした。頭部CTを施行すると典型的な脳出血の症状を呈しており、治療のため緊急入院となりました。一通りの救急処置を終えた段階でご家族に状況説明をすることになりました。

ご家族は患者さんのお母様お一人で、恐らく80歳を越えていると思われました。病状、治療方針、今後の流れを一通り説明し、患者さんに面会してもらおうとしたときのことでした。

お母様が「そういえば先生、私は数年前に脳梗塞で入院したことがあります。その時からアスピリンという薬を飲んでいます。娘も同じような症状だったので救急車を呼んで乗る前にアスピリンを飲ませておきました。大丈夫だったでしょうか?」と発言されました。

聞いた瞬間、私は凍り付きました。アスピリンは抗血栓薬でいわゆる“血液をサラサラ”にする薬剤です。脳出血に使用すれば出血が拡大する可能性があり、最悪の場合は死亡することもあります。このため、血圧管理を徹底し、頻回の診察で異常を速やかに発見するよう努めました。幸いにも出血の拡大はなく、徐々に患者さんの状態は安定し事なきを得ました。

患者さんに伝えてほしい「処方薬は他者にあげないで」

このように自分が飲んでいる薬を他の家族に飲ませてしまうことがあります。そして今回のようにその薬が真逆の作用を及ぼすケースも現実として起こり得るのです。幸運にも今回は重篤な状態にはなりませんでしたが、一歩間違えれば大変な事態になっていたことでしょう。

医師は患者さんに処方した薬剤を自分でしっかり飲んでくれていると信じています。処方薬は、それぞれの患者さんの病態に合わせて処方するため、仮に効果の弱い薬剤であっても他者へ譲渡・流用することは絶対にダメです。しかし現実はきちんと守られていないこともあり、処方薬が他者に使われてしまう可能性も頭の片隅に置いておかねばなりません。

薬剤師には患者さんにひと言「お薬はご自身だけで使用し、他者には絶対に使わないでください」と伝えていただければ助かります。またポスターなどで視覚的に注意喚起することも効果的だと思います。このような指導だけでも防げる事故、事例は多数あると思っています。

今の時代はいろいろなことに気をつけながら臨床をする必要があるため大変ですが、このような命に関わる事例もあることを留意していただければ幸いです。

次回は「チーム医療の情報共有は申し送りノート」についてお伝えします。

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Dr. 竜平
ドクター りゅうへい

地方の医学部を卒業後、大学病院で脳神経内科診療に従事しました。その後、実家のクリニックに副院長として入職し内科診療を行なっています。また在宅医療にも興味を持ち診療業務を行なっています。趣味は格闘技やプロ野球観戦です。

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