良薬は口に甘し?薬の味と服薬コンプライアンス
高齢化が進むにつれて、服薬コンプライアンス不良な患者が急激に増加しています。理由としては本人の病識の無さや認知機能の問題、家族の理解などが挙げられます。
私は内科医として、そういった背景を考慮しつつ、薬剤師と相談し、いかにして内服していただくか、処方を調整することがあります。また一包化や服薬カレンダーを用いて内服忘れや過剰内服を防ぐ指導もしています。
本シリーズでは、クリニックの副院長として働く内科医の私が、日々、診療の現場で考える「服薬コンプライアンスの課題」と、薬剤師に期待することをお伝えします。
参考資料:
『漢方診療のレッスン』(金原出版 2003年)花輪壽彦
前回は「薬剤師が医師とうまく付き合う方法」についてでしたが、今回は、薬の味、飲みやすさについてです。薬の味を理由に投薬を自己中断する患者さんもいます。薬の味について服薬コンプライアンスの観点から考えます。
薬の味で投薬を自己中断する患者さん
「良薬は口に苦し」という故事は子どものころによく親に聞かされました。これは「よく効く薬ほど苦いが病気を治してくれる、転じて自分への忠告は素直に聞きにくい」という意味です。故事が作られた当時は漢方薬による治療が行われ、薬の種類により味は千差万別でした。現代になり西洋薬を用いるようになると、必ずしも味と薬効を結びつけることはなく、薬効の方を重視しています。しかし、人間は今も昔も変わらず「美味しい」「不味い」には敏感です。
先日、こんなエピソードがありました。パーキンソン病の70代の患者さんが、「最近便秘がひどい」と訴え、外来に来たときのことです。顆粒剤を処方し、次回の診察で経過を教えてもらうことになりました。ところがその次の診察では「先生、粉薬って嫌なものだね。舌全体に変な味がして、水を飲んでも口の中に薬が残っている感じがして…。申し訳ないけど、何回かで飲むのやめちゃったよ」と言われてしまいました。
また別の患者さんには、漢方薬を処方したところ「苦くてびっくりした。もう漢方なんか飲みたくない!」とお叱りを受けたこともあります。
良薬は口に甘し?飲んでもらうことが治療の一歩
このように、成人の患者さんでも、薬の味や飲みやすさを理由に、内服を自己中断される方が少なからずいます。味を理由に薬の変更を相談されることもあります。良い効果が出ている場合もあり、判断が悩ましい症例もあります。とはいえ、「飲みたくない!」とはっきり言われ、飲んでもらえないとなると医師としても変更せざるを得ないのではないでしょうか。
漢方の大家である花輪壽彦(はなわ としひこ)先生は、小児の漢方処方に際し、患児と相性の良い漢方は「甘い」「美味しい」と処方した小児から言われるもの、と著書で述べています。とくに小児は味に敏感なため、成人に比べて味に対する訴えは多いといえます。とくに、子どもには薬を飲んでもらわないことには治療が進まないこともあり、臨床の経験からすると「良薬は口に甘し」という場面が意外と良く見られるシーンなのかもしれません。
医師と薬剤師は、薬の味について情報共有を
医師は薬の味、飲みやすさをあまり意識していないことが多いです。自分が処方している薬の大半は飲んだことがなく、また現物を見たことがない薬も数多くあります。このため薬剤師には患者さんに薬の味(特に苦味、酸味など)をひと言お伝えいただけると助かります。また実際に内服している患者さんから薬の味にいて聴取し、「苦味が強い」などの感想を、医師と薬剤師の間で情報共有することも大切ではないか、と考えています。
盲点かもしれませんが、患者さんは薬の味もしっかり意識しています。特に薬を飲むタイミングは「食後」が多くをしめます。美味しい食事の後に不味い薬を飲みたくない気持ちはよくわかります。「薬効」だけでなく「薬の味」は、服薬コンプライアンスを遵守するための重要な要素のひとつです。医師も薬剤師も処方を出すときに薬効とともに味を考慮することも大切ではないでしょうか。
次回は「医師が知りたいお薬手帳の中身」についてお伝えします。