ポリファーマシー対策で薬剤師ができることとは
参考資料:
高齢者の医薬品適正仕様の指針2018(厚生労働省)
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)
平成30年度診療報酬改定の概要 (厚生労働省)
高齢化が進むにつれて、服薬コンプライアンス不良な患者が急激に増加しています。理由としては本人の病識の無さや認知機能の問題、家族の理解などが挙げられます。
私は内科医として、そういった背景を考慮しつつ、薬剤師と相談し、いかにして内服していただくか、処方を調整することがあります。また一包化や服薬カレンダーを用いて内服忘れや過剰内服を防ぐ指導もしています。
本シリーズでは、クリニックの副院長として働く内科医の私が、日々、診療の現場で考える「服薬コンプライアンスの課題」と、薬剤師に期待することをお伝えします。
ポリファーマシーに関するまとめ記事はこちら
前回は「医師が知りたいお薬手帳の中身」についてでしたが、今回は、ポリファーマシーの対策について語ります。私自身も訪問診療に関わり、ポリファーマシーの問題点を見つめるようになりました。患者さんのことを考えると、医師だけでなく、薬剤師、医療関係者の協力も必要です。
たくさんの薬を飲むポリファーマシーには有害な事象リスクがある
75歳以上の高齢者が増加するにつれて、多剤服用がさまざまな問題を引き起こすことが明らかになりました。ポリファーマシーは「単に服用する薬剤数が多いことだけではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランスの低下などの問題につながる状態」と定義されます。実際に何剤以上内服している状態をポリファーマシーとするかは議論がありますが、6剤以上で有害事象が増えたというデータがあります。
個人的にも患者さんが内服薬を5〜6剤内服していると、多いなという印象を受けます。私が経験した症例では、1日20剤以上も(!)内服している方がいました。それだけの量の薬を飲むのが苦にならないか心配してしまいます。
では、それらの薬が本当に必要かというと…実はそんなこともないのです。「それなら不要な薬や重複している薬をどんどん削れば良いのでは?」と思うでしょうが、そううまくいかないのが臨床現場です。
患者さんの性格を見て、減薬を進めましょう
こんな症例がありました。90代の女性で、認知症を筆頭に高血圧、脂質異常症や心房細動など多数の疾患を有する方です。それぞれの疾患に対して合わせて10剤以上の薬を前医から処方されていました。しかし、歩行が困難となり訪問診療に切り替わり、担当医も私に変わりました。私は、本人と相談し(といっても認知症のためやり取りは限定的ですが)、大勢に影響はないと思われた3種類ほどの薬を中止することにしました。
ところが、数日後に患者さん本人から「薬が足りないようですが、ちゃんと出してもらわないと困ります!」と電話がありました。患者さん本人に認知症があっても、ずっと飲み続けてきた薬は覚えているものです。その後の往診で何度か説明をしましたが、患者さんは頑として譲らず、結局は減らした薬を再度処方することになりました。その後、患者を訪問した薬剤師から「戸棚を開けたら大量に薬が余っていたので当面処方はしなくて大丈夫かと思いますよ」と報告を受け、あのせめぎ合いはなんだったのかとガックリしましたが…。
このような認知症の患者さんでは、そのときには同意を得られても、同意したことを忘れてしまうこともあります。減薬だけでなく、治療方針でも同じように同意を忘れられて、苦労することもあります。一方、そもそも自分が飲んでいる薬にあまり関心がなく、なんとなく内服していたという方なら減薬を気にせずスムーズに進むことがあります。もちろん患者さんによっては、説明や説得で減薬ができるケースもありますので、患者さんのキャラクターを見極めることも重要です。
重複薬の発見、減薬には薬剤師など多職種の連携が必要
ちなみに減薬は担当医が変わった、訪問診療に切り替わった、入院したなど、患者さんになんらかの変化があるときが良いタイミングです。また、薬剤師の介入も非常に重要であることはいうまでもありません。
特に近年増加傾向にある訪問診療において、担当者会議に参加している薬剤師と直接やり取りするよう心がけています。そして患者さんの中には疾患ごとに受診する医師、処方する薬局が違うときがあります。例えば、〇〇の薬はA薬局、△△の薬はB薬局というように。このようなケースでは、医師を一元化すると同時に、薬局も一元化していくと、重複薬の発見や減薬につながります。
意外と医師は自分の担当以外の疾患に目が行き届いていないこともあるため、薬剤師からの連絡で気がつくこともあります。とても大事なことなので積極的に報告してもらうと助かります。これら減薬への取り組みは、2020年度調剤報酬改定でも評価対象になるとされています。医師、薬剤師など多職種の連携で減薬を通し、患者負担を減らすように努力したいと思います。
次回は「前医の批判ご法度」についてお伝えします。