服薬コンプライアンス向上のための記事まとめ|Dr.竜平の服薬コンプライアンス

更新日: 2020年2月16日 Dr. 竜平

医師はどのように処方する薬を選ぶのか
〜意図がわからなければ薬剤師は疑義照会を〜

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高齢化が進むにつれて、服薬コンプライアンス不良な患者が急激に増加しています。理由としては本人の病識の無さや認知機能の問題、家族の理解などが挙げられます。
私は内科医として、そういった背景を考慮しつつ、薬剤師と相談し、いかにして内服していただくか、処方を調整することがあります。また一包化や服薬カレンダーを用いて内服忘れや過剰内服を防ぐ指導もしています。
本シリーズでは、クリニックの副院長として働く内科医の私が、日々、診療の現場で考える「服薬コンプライアンスの課題」と、薬剤師に期待することをお伝えします。


前回は「前医の批判ご法度」についてでしたが、今回は「医師が処方薬を決定する過程」についてお話します。この過程がわかっていれば、薬剤師の方も疑義照会などをしやすくなるのではないでしょうか?

医師が薬の情報を得るには3つの方法がある

今回はやや趣向を変えて医師がどのように処方する薬を選ぶかについて話しします。おそらく、薬剤師の方は、医師の処方する薬について「どうしてこの薬を選んだのだろう?」と思う場面は多いのではないでしょうか。私自身の経験を踏まえてお話ししたいと思います(かなり私見も混じりますが、そちらはなにとぞご了承ください)。

医師が薬の情報を得る手段は大きくわけて3つあります。

  • 先輩や同僚医師からの情報
  • 学会、論文・医学雑誌、勉強会などからの情報
  • 製薬会社のDrug informationからの情報

その他にも情報を得る方法はありますが、少なくとも私に関してはこれら3つの方法を選ぶことが多いです。

医師になりたての段階は、先輩からいわれた通りに処方している状態で、徐々に経験を積むにつれて自分の考えで処方を行うようになってきました。今でこそ外来や訪問診療を担当するので、自分で処方の全責任を負いますが、若手時代は正直なところ先輩に相談しつつ薬を出していたこともありました。

次の段階では、疾患ごとにどのような薬を選択するかを考えるようになります。例えば、糖尿病の治療薬にはメトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬などがあります。高血圧症にはカルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬といった薬剤があります。さらにDPP-4阻害薬の中にもシタグリプチンリン酸塩水和物(商品名:ジャヌビア)、リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)というように無数の種類があります。このように疾患ごとに薬剤の選択肢はかなりのバリエーションがあります。

ではどういう思考で医師は薬を選ぶのでしょうか?以下に私なりの選び方を紹介します。確認したことはありませんが、おそらく医師の多くが同じような思考過程を経ていると思います。

作用機序、患者の背景を考え、医師は処方を決める

まず疾患に対して作用機序の薬(例えば糖尿病に対してDPP-4阻害薬という要領です)を使おうと考えます。この段階ではガイドラインや論文などを参考にしています。次に患者背景を確認します。ここで重要な情報は認知機能(年齢)、身体機能、社会的要因などです。
例えば、認知機能が悪い場合は過程が煩雑にならないよう1日1回製剤にします。嚥下が悪ければOD錠や顆粒製剤を選択しますし、また介護者の有無や病気への理解(一包化にするなど)、経済状況(お金の問題はかなり大事で気にする患者さんが多い印象です)なども考慮しています。

このため、患者状況に適した処方だが、医学的には微妙な処方をせざるを得ないことも多々あります。外来では、このような過程を経て処方を行なっていますが、限られた時間内に瞬時に決定しなければなりません。1回の処方ですべてが上手くいくわけでもなく、数回の受診を経て、処方が安定化することもあります。同じく、処方数が多い時は合剤にし、不要な処方を減らすよう心掛けています。外来では忙しいことが多く、病状が落ち着いていれば深く考えずにDO処方(=前医や前回と全く同じ処方。DOは繰り返し、コピーを意味するdittoに由来する)をしてしまうときもあり、反省する次第であります。

もし医師の処方意図が不明なら疑義照会を

上記のような処方決定の過程を経るわけですが、患者さんに説明しても伝わりきらないこともあります。以前経験した例では、嚥下機能の低下を考慮してある降圧薬をOD錠に変更し説明もしましたが、薬局より「本人がいつもと違う薬に勝手に変更されたと言っていますが…」と疑義照会が来たことがあります。結局、もう一度外来に来てもらい説明の紙を患者さんにわたして、事なきを得ました。逆にいえば、この事例は私の説明が十分でなかったケースで、薬局からの疑義照会により勉強になった一例でありました。

このように医師は処方決定にいろいろな考えを巡らせています。もちろん、知識がアップデートされず昔ながらの処方を続ける先生、患者状況をなにも考えずに杓子定規に処方する先生などがいるのは事実です。しかし、いろいろな思索の末に処方を決めている先生も多数います。

もし処方意図がわからない時は積極的に疑義照会してください。個人的な印象ですがまじめな先生であれば意図や患者状況などをしっかり教えてくれます。これにより医師と薬剤師の間で意外な情報を共有できる場合があり、服薬指導にも効果があると思います。医療者は医師に限らず、みんなが忙しく働いています。その中でも、薬剤師の方は処方の意図にほんの少しだけ目を向けてみるとより良い指導に繋がることがあります。疑義照会はそのチャンスのひとつです。ためらわずお電話ください。

次回は「他職種ではなく多職種と連携」についてお伝えします。

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Dr. 竜平
ドクター りゅうへい

地方の医学部を卒業後、大学病院で脳神経内科診療に従事しました。その後、実家のクリニックに副院長として入職し内科診療を行なっています。また在宅医療にも興味を持ち診療業務を行なっています。趣味は格闘技やプロ野球観戦です。

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