「他職種ではなく多職種」と連携し、患者のための医療を進める時代
高齢化が進むにつれて、服薬コンプライアンス不良な患者が急激に増加しています。理由としては本人の病識の無さや認知機能の問題、家族の理解などが挙げられます。
私は内科医として、そういった背景を考慮しつつ、薬剤師と相談し、いかにして内服していただくか、処方を調整することがあります。また一包化や服薬カレンダーを用いて内服忘れや過剰内服を防ぐ指導もしています。
本シリーズでは、クリニックの副院長として働く内科医の私が、日々、診療の現場で考える「服薬コンプライアンスの課題」と、薬剤師に期待することをお伝えします。
(参考文献)
『リーダーシップ3.0――カリスマから支援者へ』 (祥伝社 2013) 小杉俊哉
今回は、「他職種ではなく多職種」の方とコミュニケーションを取り、患者さんのために役立てる方法がテーマです。ぜひ薬剤師の方にも積極的な意見交換をお願いしたいです。
職種間のコミュニケーションが患者さんのためになる
先日、救急医療に従事する医師たちを特集したドキュメンタリーがテレビで放映されていました。テレビドラマでも救急医や外科医のスーパードクターはよく取り上げられ、医師の私が見ても「かっこいいな」と思ってしまいます。
しかし、活躍する医師の影にはさまざまな医療従事者の支えがあります。テレビで取り上げられる機会は少ないかもしれませんが、これらの人々がひとりでも欠けてしまえば現代医療は立ち行きません。どの職種の方も患者さんのために献身的に働いています。さらに、服薬コンプライアンスについても、私自身この連載を通じて深く考えるようになりました。やはり最終的に行き着くのは、職種間でのコミュニケーションの重要性です。これからは「他職種ではなく多職種」として関わる機会を積極的に作っていくことが必要といえます。
ヘルパーさんからのひと言で情報共有が進んだ例も
先日経験した90歳を超えた男性患者さんの症例を紹介しましょう。私が外来を担当していましたが、認知症かつさまざまな疾患を抱えていたため、訪問診療に切り替えることになりました。それに伴い担当者会議が開催され、私の知らない情報も含めて多職種の活発な意見交換がありました。
ヘルパーさんから「先日、薬の内容が変わったとき、足りないと思ったのか間違って数日分飲みそうになっていました。あわてて止めてことなきを得ましたが…」と言われたのは、衝撃を受けました。 この報告を元に担当者会議で「訪問薬剤師と密に連携すること」や「処方が変わった時は情報共有を行う」とリスク回避のための認識のすり合わせができました。このように、些細なひと言から動き出すことはたくさんあるのです。
会議で医師に意見をしてください!救われる患者がいます
私はこういった会議の時に医師が自分の意見を話すだけにならないように、参加者全員が発言しやすいような場を作ることを心掛けています。どんな内容にも相槌を打ち、肯定的な意見を返すようにしています。こうすることで、些細なことでも発言しても良いという空気感を作り出し、意見を引き出せます。時として意見がわかれることもありますが、そういった時にうまく仲裁することも大事です。ひとつひとつの意見が意味を持つものであり、大切にしていかなければなりません。
そうして出た意見の中から内服コンプライアンスを向上させる意外な方法が隠れていることがあります。意見を総合し、治療効果はやや劣るものの、飲み間違いのリスクを考えて必要最低限の内服のみにする場合もあります。もちろん、患者さん本人・家族には説明が必要です。そして薬が変更になったことは薬剤師にも連絡し、訪問時の服薬指導をお願いしています。意外に思うかもしれませんが、認知症の患者さんにも懇切丁寧に説明し、書類に残していると覚えてくれていることがあるのです。
担当者会議はこのように、多職種が関わる数少ない場のひとつです。それぞれの立場での患者さんへの思いを感じ取れる機会でもあります。こうしてみると、やはり医療者はみんなが患者さんへの思いを持って仕事をしているとわかります。そして私自身もこの連載を通じて、積極的に薬剤師をはじめとした医療従事者へ意見交換をするようになりました。
「医師には言い出しづらいなぁ…」と思うことは読者である医療関係者、薬剤師の方々も感じたことはあると思います。もちろん、話しにくい医師がいるのは事実です。しかし、その一方で意見交換をしたいと思っている医師もたくさんいます。私は自分のモットーとして「些細なことにも耳を傾ける」を掲げています。それにより救われる患者さんはたくさんいると信じています。
この連載を通じて何度も繰り返しましたが、ぜひともコミュニケーションを取ってください。そのひと言が最終的に患者さんの幸福へつながります。そしてこれからもご指導の程、お願いいたします。