服薬コンプライアンス向上のための記事まとめ|Dr.竜平の服薬コンプライアンス

更新日: 2020年2月9日 Dr. 竜平

昨日の敵は今日の友!?患者さんやご家族と関係を築くには

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高齢化が進むにつれて、服薬コンプライアンス不良な患者が急激に増加しています。理由としては本人の病識の無さや認知機能の問題、家族の理解などが挙げられます。
私は内科医として、そういった背景を考慮しつつ、薬剤師と相談し、いかにして内服していただくか、処方を調整することがあります。また一包化や服薬カレンダーを用いて内服忘れや過剰内服を防ぐ指導もしています。
本シリーズでは、クリニックの副院長として働く内科医の私が、日々、診療の現場で考える「服薬コンプライアンスの課題」と、薬剤師に期待することをお伝えします。


前回は「前医の批判ご法度」についてでしたが、今回は患者さんやそのご家族との関係についてです。言うまでもないですが、患者さんのみならず患者さんの家族との信頼関係は非常に重要です。とはいえ、私の学生時代に患者さんへの接遇については講義があったと記憶していますが、患者さんのご家族への対応は医師になってから勉強しました。
患者さんの治療方針に重要な決定権を持っているのがご家族ですが、必ずしも医療者側に協力的ではありません。これは、同じ家族とはいえ、ひとりひとりが自分なりの人生観を持ち、疾患や治療に対する受け止め方が違うためです。もちろん、家族が医療者に対して友好的という例はたくさんあります。私自身の体験でこじれたケースはわずかですが、実際に遭遇したときは対応に苦慮しました。また、はじめは非協力的であってもひょんなことから信頼を得て、以降の診療に非常に協力的になることもあります。

降圧薬で血圧が下がらない!思わぬ食生活の実態と家族の苦労

以前、私が経験した症例をご紹介しましょう。患者さんは認知症の90代女性で娘さんとふたり暮らし。かねてから、娘さんに付き添われて外来に通っていました。病状は認知症に加えて高血圧があり、薬は娘さんがちゃんと内服させているというものの、診察時の血圧が160〜180mmHg前後とコントロール不良でした。
生活指導や降圧薬の調整が必要と何度も説明しましたが、娘さんが頑として受け入れてくれず「今の薬さえ出してくれればいい!!」と毎回強い口調で言われて対応が大変でした。
その後、訪問診療に切り替えることになり、ご自宅に訪問して驚きました。なんとインスタント食品の容器が大量にゴミ箱に捨ててありました。塩分の多い食事していたため血圧が高かったのです!
お話を伺うと患者さんご本人、娘さんともに家事をすることが苦手で長年インスタント食品を愛用し、ここ数年は一切料理をしていなかったとのことでした。この状況を踏まえ、介護用の宅配弁当サービスを提案し、かつ降圧薬の調整も合わせて行うことで同意を得ました。
翌週、定期往診へ伺うと、患者さんの血圧は130程度にまで下がり「調子いいの」と繰り返していました。加えて娘さんも表情が穏やかで「実は、母は夜中に叫ぶことがありました…ここ1週間は体調がいいのかそういうことがまったくなくて。本当に助かりました」と言われました。
これ以降は信頼関係ができ、診察や投薬調整にも理解を得られるようになりました。別件で薬局へ電話をしたとき「そういえば、〇〇さんのこと助かりました。薬を届けるたびに娘さんから文句を言われて困っていました。最近は穏やかになり服薬指導もしっかり受けてくれるようになりました」と薬剤師さんに言われ、それは良かったと思ったものでした。

「傾聴」で患者さんやご家族が抱える問題を見つけよう

このように、一見治療に非協力的なご家族であっても、介護や生活における負担のため、正しい判断ができなくなってしまっている例があります。そうした時、医療者の介入で状況が改善され、信頼関係を築くことが可能です。服薬コンプライアンスを守る上でもとても重要で、だからこそ私は患者さんのみならずご家族への声掛けも積極的に行うようにしています(時間的・物理的に難しいことも多く、悩みは尽きませんが…)。
これは私見ですが、当初非協力的な患者さんやご家族でも、一度味方に付ければ心強い存在になります。恐らくそのような方は孤立する傾向が強く、ひとつのきっかけが関係構築につながるからだと思います。
もちろん、患者さんの要望すべてをそのまま聞くことはできませんし、時として厳しい内容を伝えることも必要です。ただ、患者さんやご家族の中には本人の意図とは関係なく苦行を強いられ、二進も三進も行かないケースもあるのです。そういった背景をなるべく早期に発見するため、あえてそうした患者さんやその家族と時間を取り、傾聴することがあります。ただ話を聞けばよいのではなく、その中で問題点を抽出することが大切です。慣れてくれば短時間でも患者さんの満足感を保ちつつ、問題点を明らかにできるようになります。コツは頷きや笑顔など適切な非言語コミュニケーションを取ることでしょう。
「この患者さんは非協力的だ…」と決めつけず、「何か理由があるのでは?」と考えてみるとよいと思います。なかなか難しいですが、ひょんなことから信頼を得られることがあると心に留めてもらえれば幸いです。

次回は「医師はどのように処方する薬を選ぶのか」についてお伝えします。

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Dr. 竜平
ドクター りゅうへい

地方の医学部を卒業後、大学病院で脳神経内科診療に従事しました。その後、実家のクリニックに副院長として入職し内科診療を行なっています。また在宅医療にも興味を持ち診療業務を行なっています。趣味は格闘技やプロ野球観戦です。

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