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医師が読み解く処方箋

更新日: 2020年4月13日

ニキビ治療に塗り薬なし 処方医の意図は?

ニキビ治療に塗り薬なし 処方医の意図は?の画像

同じ処方内容でも医師によってさまざまな意図があります。処方医はなぜそう書いたのか?薬剤師の疑問とともに、どのような症例が考えられるのかを医師へうかがいました。

この処方箋の意味はなんだろう?そんな薬剤師の疑問に答える、シリーズ「処方箋の裏側」。毎回、一つの症例をもとに、薬剤師の疑問に対して数名の医師が処方医の意図を読み解きます。

皮膚科の患者の症例

「この処方意図は?」薬剤師なら誰もが経験する場面ではないでしょうか。一つの処方箋から医師の意図を読み解く、シリーズ「処方箋の裏側」。第1回は、皮膚科の処方科目です。同じ処方内容でも、患者さんの症状とそれに対する医師の処方はさまざま。処方箋の裏側に隠れる医師の処方意図をさっそく見てみましょう。

年代・症状 10代男性・ニキビ
処方 イトラコナゾール250㎎とミノマイシン100㎎の朝夕28日処方
※塗り薬なし

皮膚科の医師の見解

ニキビ治療に塗り薬なし 処方医の意図は? 皮膚科の医師の見解の画像1
男性42才皮膚科

胸部背部にマラセチア毛包炎を合併していたのでは

一般に面皰があり炎症が強いニキビ患者には、ミノマイシンと面皰治療外用剤を併用して処方します。この処方例の場合、面皰があまり目立たなかったため外用は処方されなかった、そして胸部背部などにマラセチア毛包炎を合併していた。もしくはニキビと判断がつかないような毛包炎がありイトラコナゾールを併用した。以上なことが考えられます。

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女性52才皮膚科

外用剤がすでに処方されていたため

患者さんはアトピー性皮膚炎があり、顔は尋常性ざ瘡だが、躯幹はマラセチア毛包炎で、顔に対し、ミノマイシン内服、躯幹に対して、イトラコナゾールが処方された。塗り薬が処方されなかったのは、今回の内服が処方される前にすでに、顔、躯幹それぞれに対して外用剤が処方されており、患者さんからまだあるといわれたため、今回は内服薬のみ処方したということではないでしょうか。

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男性37才皮膚科

アトピー性皮膚炎であり、外用剤や保温材が残っていたため

もともとアトピー性皮膚炎がベースにあるのではないか。とすれば、すでにステロイド外用剤や保湿剤は十分に残っていた可能性があります。通常の顔のニキビであれば、抗菌外用剤やベピオゲルなどの処方もされるが、アトピー性皮膚炎の患者では廃部に毛包炎が多発するマラセチア毛包炎が好発する。

今回は、マラセチア毛包炎を疑ったのではないでしょうか。通常のざ瘡なのかマラセチアなのかの鑑別が難しいケースもあり、イトラコナゾールとミノマイシンの両方を処方したと思われます。特に、マラセチア毛包炎は治癒までの期間が長くなる傾向にあるため、28日と長期処方となったのだと考えられます。
なお、マラセチア毛包炎に対する抗真菌外用剤の効果は乏しく、むしろステロイド外用剤を用いて湿疹などの炎症を抑える場合もあります。それが、外用剤を処方しなかった理由だろうと思われます。

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女性56才皮膚科

尋常性ざ瘡とマラセチア毛包炎の可能性

頸部前胸部背部のニキビ様の発疹にて受診。他院でニキビといわれ、アクアチムクリーム外用するもよくならず、ベピオゲルに変更して処方され、外用するもさらに悪化した。ちがう他院を受診して外用薬のかぶれといわれ、リンデロンVG軟膏処方された。

かゆみは軽快したが、皮疹はよくならない。そしてちがう当院(処方箋の医師のもと)を受診した。これまでの経過を本人と親が説明、インターネットで調べたら、カビでにきび様の発疹ができるとかいてあったから、カビではないのか?医師の診断は尋常性ざ瘡。

しかし、マラセチア毛包炎の可能性もある。外用薬を処方しようとしたが、本人が忙しい、患部の範囲が広い、これまでの外用でまったくよくならないかかえって悪化した等の理由で、外用薬の使用は拒否。親と本人の希望は「これまでさんざん通ったのによくならない、本人は部活で忙しいので、なかなか受診できない。はやくよくしてほしい」と主張した。尋常性ざ瘡とマラセチア毛包炎の混在ということで、イトラコナゾールとミノマイシン併用の内服を28日分で処方した。

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男性54才皮膚科

外用剤がなくても不思議じゃない

病名がニキビで処方薬が抗真菌剤イトラコナゾールの内服と抗生剤ミノマイシンの内服のみ処方されている10代男性はマラセチア毛包炎と思われます。当疾患は、皮脂分の多い若い男性がスポーツなどで汗をかきやすい状態で発症するもので、通常は前胸部の毛穴に一致した紅色丘疹が多数生じます。
原因は皮膚に常在するマラセチアという酵母状真菌でいわゆる「でんぷう」の病原菌です。この病気では真菌が毛穴内部にいるので、外用剤は効果なく通常1~2ヶ月間、イトラコナゾール100mg/日内服となります。細菌感染も混在することが多いのでミノマイシンを併用することもあります。
夏場のシーズンにこのような処方は皮膚科診療でよく見かけますので外用剤がなくても不思議ではありません。

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男性44才皮膚科

夏場にマラセチア毛包炎を生じた可能性

顔面のニキビにはイトラコナゾールを使用することはまれだと思いますが、躯幹、特に胸部であれば、若い男性の場合、特に夏場の汗をかきやすい時期にマラセチア毛包炎が生じ、イトラコナゾールを処方することはよくあります。

ミノマイシンも同時に処方されていますので、通常の細菌性のざ瘡・毛包炎とマラセチア毛包炎とが混在している、もしくは臨床所見的にどちらかはっきりしなかったため両方同時投与されていることが考えられます。

また、個人的には確かに外用剤を同時に処方するのが普通だと思います。マラセチアならニゾラール、細菌性のざ瘡・毛包炎ならダラシンやアクアチムなどを併用します。 なぜ外用剤が処方されていないのかははっきりしませんが、もしかすると外用の併用により保険で査定される可能性を懸念したのかもしれません。
また、もし細菌性のざ瘡で反復しているのであればベピオゲルなども予防的に併用すべきでしょう。ざ瘡のガイドラインでも耐性菌予防のためベピオやディフェリン(ディフェリンは顔面しか適応がありませんが)の併用が強く推奨されています。

まとめ

今回の皮膚科の処方内容からは、マラセチア毛包炎の疑いを示した医師がほとんどでした。薬物治療を施すうえで、医師の記した処方の意図を読み解くヒントにしてください。

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