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医師が読み解く処方箋

更新日: 2020年5月27日

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は?

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は?の画像

同じ処方内容でも医師によってさまざまな意図があります。処方医はなぜそう書いたのか?薬剤師の疑問とともに、どのような症例が考えられるのかを医師へうかがいました。

この処方箋の意味はなんだろう?そんな薬剤師の疑問に答える、シリーズ「処方箋の裏側」。毎回、一つの症例をもとに、薬剤師の疑問に対して数名の医師が処方医の意図を読み解きます。

神経内科の患者の症例

「この処方意図は?」薬剤師なら誰もが経験する場面ではないでしょうか。一つの処方箋から医師の意図を読み解くシリーズ「医師が読み解く処方箋」。第2回は、神経内科の処方科目です。同じ処方内容でも、患者さんの症状とそれに対する医師の処方はさまざま。処方箋の裏側に隠れる医師の処方意図をさっそく見てみましょう。

年代 81歳男性
症状 3年ほど前に同神経内科へ来院。
その時はリフレックス1/2錠を処方されたが服用を中止した。
他院の内科にて腹部膨満感、ガスのたまりがひどくガスコン40㎎×3を処方してもらったが改善せず、倍量にするもお腹の張りは治らず。
3年ぶりに同神経内科に来院。
お腹の張りがひどく、肩こりが激しくなり、少しイライラする。
※ガスコンは現在使用していない
処方 ドグマチール50mgとアンプリット25mgを毎食後
テトラミド10㎎を就寝前に処方

医師の見解

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は? 医師男性の画像1
男性 40才 
脳神経内科

患者は食欲低下を伴ううつ状態と推定

イライラ感と腹部膨満感は別の病態と考えています。
以前にリフレックスを処方し、今回ドグマチールを処方されたのであれば、その神経内科医は「食欲低下を伴ううつ状態・うつ病」と診断していると推定します。
そのために抗うつ効果・食欲増進作用を有する薬剤を選択されているものと思われます。ドグマチールだけでは抗うつ効果が不十分であったため、日中は鎮静作用の弱いアンプリットを併用し、就眠時には鎮静作用やイライラ感の軽減を期待してテトラミドを併用したのではないでしょうか。腹部膨満感を自律神経障害ととらえると、うつ状態とあわせた全体像としてはレビー小体型認知症やパーキンソン病などの錐体外路疾患と考えているように思われます。

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は? 医師男性の画像2
男性61才 
神経内科

腹部と精神症状の悪循環を断ち切るための処方

腹部症状と精神症状の間で悪循環になっており、これを断ち切るための処方と思われます。中核は、整腸作用と精神安定作用を合わせ持つドグマチールとし、これに比較的少量の抗うつ剤を加えたものでしょう。質問の内容が異なりますが、私なりの処方を考えた場合、飲水量をチェックし便性を調整する指導も加えたいところです。

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は? 医師男性の画像3
男性39才 
神経内科

腹部症状はうつ病によるもの

解釈としてリフレックスを以前処方していることからも「うつ病」を考えている。
腹部症状はガスコンなどで改善がないことからも腹部の器質的なものではないと判断した。
以上より一元的にイライラ・腹部症状は「うつ病」に伴うものと考えている。

メイン処方のアンプリット25㎎はうつ病に対して。
 ドグマチール50㎎は腹部症状+うつ症状 を狙っている(高齢者なのでパーキンソニズムを考慮して減量)。

 テトラミド10㎎は夜間眠れるように+うつ症状 (ベンゾジアゼピン系は慣れや依存があるので使いにくい)。

処方意図はこう解釈します。便秘などの腹部症状は、抗うつ薬の抗コリン作用としても起こりえるので、患者の訴えは許容範囲と考えているのではないでしょうか。イライラからくるか、腹部膨満感からくるかは、経過はどちらもあり得ると思います。ただ、始まりは「うつ」ということを重視しているのではないでしょうか。

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は? 医師男性の画像4
男性35才 
一般内科

イライラが胃腸障害につながった可能性も

お腹の張り(腹部膨満感)については、ガスコンが効果を示してほしかったが、残念ながら、臨床的にもそのエビデンスは乏しいと考えます。(臨床でも、効能に記載されている程の良い効果は期待できない。)
イライラしている点から、胃腸障害につながる可能性はあります。場合によっては、胃十二指腸潰瘍をきたすこともあり得ます。

ドグマチールは慢性胃炎に対して処方できる。マグネシウムが含有され、胃粘膜保護効果も期待できる。
イライラ(うつ状態)に対してはアンプリット、テトラミドといったうつ病に対する適用を有する薬剤を処方する。
ドグマチールも心理面の問題に多少の効果が期待できる薬剤である。
もし、今後にも症状が続くなら、PPI・PCABを処方する可能性はある。

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は? 医師男性の画像5
男性49才 
消化器内科

筋緊張型頭痛によるイライラと肩こり

アンプリット(三環系)の抗コリン作用に伴う便秘により腹部膨満感が生じているが対処療法のガスコンが効果を得られない。ドグマチールによる錐体外路症状もあわさり筋緊張型頭痛となってしまい、イライラと肩こりを起こしていることが推測される。三環系と四環系の変更も考慮されるが、まずは対処療法で大建中湯やガスモチン、酸化マグネシウム、モビコールで排便を促してみる。それでも改善が不良な場合には三環系を他剤(たとえばリフレックスなど)への変更を考慮する。ドグマチールに関しては高齢者における錐体外路症状の要因になるため可能なら中止を考える。

腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は? 医師男性の画像6
男性54才 
救急医療科

消化器系の薬を中断しているため精神症状の治療を優先

まず、受診したのが消化器科ではなく神経内科ですから、患者さんの治療して欲しい症状はイライラだと思います。主治医が「腹部症状が中心」と考えれば、照会するか消化器系の薬(中断していたガスコンなど)を出すと思いますが、全く出していません。アンプリットも10mgではなく25mgを使用していますので、精神症状の治療を優先したのだと思います。
お腹の薬を出していませんが、患者さんからの希望があれば、多少は出したと思います。あるいは、ドグマチールを上腹部症状に対して処方したのかもしれません。
薬局で患者さんの訴えが変わることもあります、患者さんから消化器薬の希望があれば照会してもいいかもしれません。

まとめ

多くの医師がイライラの原因を心因性のものと判断しました。また、患者が81歳と高齢であることを考慮して、経過観察ののちに処方変更を提案する意見も集まりました。一つの処方でも医師によってさまざまな処方意図があることがわかります。次回は「整形外科の症例」についてご紹介します。

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