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医師が読み解く処方箋

更新日: 2020年6月14日

長期化した膝の痛みにNSAIDsを処方した意図とは?

長期化した膝の痛みにNSAIDsを処方した意図とは?の画像

同じ処方内容でも医師によってさまざまな意図があります。処方医はなぜそう書いたのか?薬剤師の疑問とともに、どのような症例が考えられるのかを医師へうかがいました。

この処方箋の意味はなんだろう?そんな薬剤師の疑問に答える、シリーズ「処方箋の裏側」。毎回、一つの症例をもとに、薬剤師の疑問に対して数名の医師が処方医の意図を読み解きます。

整形外科の患者の症例

「この処方意図は?」薬剤師なら誰もが経験する場面ではないでしょうか。一つの処方箋から医師の意図を読み解く、シリーズ「医師が読み解く処方箋」。第3回は、整形外科の処方科目です。同じ処方内容でも、患者さんの症状とそれに対する医師の処方はさまざま。処方箋の裏側に隠れる医師の処方意図をさっそく見てみましょう。
第1回は「ニキビ治療に塗り薬なし 処方医の意図は?」
第2回は「腹部の張りとイライラ症状。医師の判断は?」

年代・症状 30代女性・ひざの痛みを長期抱えている
処方 トラマールOD25㎎を服用していた
↓ 「効き目が弱くなってきた」との患者の訴え
処方変更(1):サインバルタ20㎎を分1で投与
↓ 2日後 副作用により中止
処方変更(2):ツムラ28+ノイロトロピン+
ジクロフェナク37.5㎎×2+ガスターD10㎎×2

整形外科の医師の見解

整形外科の医師の見解の画像1
男性 50才 整形外科

炎症性疾患を考え、NSAIDsを処方

30代女性の膝の痛みだと変形によるものとは考えにくく、ヒアルロン酸の適応もないため、長期使用も考えトラマールを使用開始した。 その後、痛みは改善したが、再度痛みが出現、原因がはっきりせず不安要素も強いため慢性疼痛緩和にてサインバルタを使用した。しかし、サインバルタも副作用で合わず。
リウマチを含めた炎症性疾患を考え、NSAIDs、漢方薬を処方した。

整形外科の医師の見解の画像2
男性 51才 整形外科

トラマドールへの耐性の懸念があるため、ブプレノルフィンを優先

効き目が弱くなってきたということからノルスパンテープへ変更。用量の問題ではなく、血中濃度の不安定さにより「効果が弱まった」と感じた可能性があるので、持効性の薬剤であるワントラムもしくはノルスパンテープへの変更が妥当と判断。しかし、トラマドールへの耐性の懸念もあるので、ワントラムではなく、ブプレノルフィンを優先した。ただし、皮膚障害に十分な配慮は必要。

整形外科の医師の見解の画像3
男性 63才 整形外科

抗うつ剤と慢性疼痛の両方の薬としてサインバルタを処方

慢性の膝の痛みということで、リハビリ、装具など試したのであろうが、効果が十分でなかったのであろう。トラマールを少量投与してきたが、オピオイドなので、効果が弱くなってきた場合、これを増量するよりは、サインバルタでやってみたらどうだろうと考えたのではないか?
サインバルタはその作用機序から、抗うつ剤と慢性疼痛の両方の薬として使われており、現在はうつと関係なく疼痛閾値を下げる薬としても使用されている。副作用が出ない患者さんには慢性疼痛にけっこういい薬だが、眠気、吐き気などの副作用が出る事があり、まったく受け入れられない患者さんが一定数ある。私見では5人に一人くらい副作用が出るような気はする。
次の処方はその時の膝の所見によるが、あるいは関節炎症状が出たのかもしれない。ただ、ジクロフェナックナトリウムは長期処方には向かないので、そのうち変更するのでは?

整形外科の医師の見解の画像4
男性 46才 整形外科

副作用はセロトニン投与急性期に生じ得る吐き気

NSAIDSは、急性期のみに効果があり長期投与は避けるべきである。本患者は長期に渡る慢性疼痛を主訴に受診した。すでにNSAIDS含有のトラマールの効果が薄れていることから、慢性疼痛に効果的な鎮痛剤としてエビデンスのあるサインバルタに変更することになる。SNRIであるサインバルタはSSRIと異なり鎮痛作用を主として開発された薬剤であると理解している。副作用のひとつであるうつ症状増強効果は開始直後に生じるものではなく増量後、急に減量した際に生じるセロトニン血中濃度に依存すると考えられ、低用量での投与開始後すぐに生じるものではないだろう。
よって本例で生じた副作用はセロトニン投与急性期に生じ得る吐き気あるいは眠気と考える。特に吐き気はサインバルタの最もコンプライアンスを妨げる副作用であるため、中止はやむを得ない。トラマール、サインバルタの効果がないとすれば、既存の鎮痛剤をいくつか使用し効果のあるものを継続することになる。これらの処方に加えて運動療法を実施できればさらに効果が望めるだろう。なお、運動療法のエビデンスはNSAIDsよりも高いことを知っておくべきである。

整形外科の医師の見解の画像5
男性 44才 整形外科

感作改善の期待からサインバルタを処方

サインバルタは慢性疼痛治療薬であり、変形性関節症に伴う疼痛に適応のある薬剤ですので、最新のガイドラインからも長期処方・高用量は推奨されていないトラマドール製剤から一定期間を経て変更されたと思います。その際、患者さんの訴えが痛みや刺激に敏感になっている「感作」という状態であれば、サインバルタは下行性疼痛抑制系を最も賦活化する薬剤であり、感作改善に効果が期待できるので処方されたと思います。心因性疼痛の要素が疑われれば、処方される先生もいらっしゃいます。
また通常は受診初期にNSAIDsは使用しておられるはずですが、本症例は神経障害性疼痛ではなく、侵害受容性疼痛であり、現実問題としてトラマドール製剤及びSNRI薬使用後やむなく再度漢方などにアドオンしたと思います。

整形外科の医師の見解の画像6
男性 35才 整形外科

トラマールが効きにくくなったのは、炎症の再熱の可能性

そもそも患者背景として30代女性の膝痛という限定的な情報ですが、痛みの性状としては慢性かつ侵害受容性の疼痛であると考えます。 処方変更(1)についてトラマールは慢性疼痛ガイドラインでも推奨されています。「効き目が弱くなってきた」との訴えなので、同じ薬剤の増量も選択肢になると思いますが、ここで主治医は薬剤自体を変更しています。サインバルタ(デュロキセチン)は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI) の一つで、抗うつ薬としてもともと使用されていましたが、下行性疼痛抑制系の賦活により直接の鎮痛効果があることがわかり、現在は侵害受容性の慢性疼痛にも推奨されています。なお、長期間疼痛に悩まされている患者の大部分に潜在性の「抑うつ状態」があることも知られておりますので、サインバルタはそのような状態に対して鎮痛効果+抗うつ効果で一石二鳥を狙ったのではないかと考えます。
処方変更(2)についてですが、サインバルタに変更してわずか2日で副作用のために変更を余儀なくされています。ここで、主治医は過去の処方歴を一度見直したものと考えます。NSAIDsは通常急性期に使用することが多く、慢性疼痛のコントロールで長期間使用することは薬剤性の消化管潰瘍の発生の点からも避けるべきです。膝の痛みの原因が何かにもよりますが、変形性関節症などでは慢性疼痛と言えども炎症が増悪寛解を繰り返すものです。トラマールが効きにくくなったのが、「一時的な炎症の再燃」と判断すれば、以前に使っていない(あるいは暫く使っていなかった)NSAIDsを短期間使う選択を取る可能性があります。なお、ツムラ28(越婢加朮湯)やノイロトロピンについては、鎮痛効果自体は弱いものの、副作用が少なく安全に足せる薬剤といった位置付けになり、併用での利便性が高い薬剤です。

まとめ

慢性疼痛に効果的な鎮痛剤としてサインバルタを処方。また、炎症性疾患のためにNSAIDsを処方したのではないかと推察する医師が多くいました。医師の意図を読み解く臨床事例の参考になればと思います。

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