薬剤師体験に来てくれた子どもから教わった、薬剤師にとって大事なこと
私は“子ども向けの薬剤師体験”を色々な薬局で開催してきました。初めて入る薬局の調剤室や、薬が壁一面に並ぶ世界に子どもたちは興奮し、薬剤師の仕事を楽しく体験してくれます。そんなイベントを行っている時に出会った一人の男の子が、薬剤師にとって大切なことを気づかせてくれたので紹介します。
男の子が教えてくれたこと
その日も私は、いつものようにカラフルなチョコレートを取り出し、模擬処方箋を子どもたちに見せながら「一包化体験」を開始しました。薬に見立てた様々な色のお菓子を子どもたちは、赤を3つ、黄色を6つと楽しそうに集めてくれます。すると、一人の男の子が目を近づけてじっとチョコレートを見つめていました。
「食べても良い?」
「いくつだっけ?」
このように聞いてくる子どもは多かったのですが、じっとチョコレートを見つめたまま動かない子は初めてでした。声をかけようとしたその時、お母さんから「すみません、この子は色を見分ける力が弱くて…」と教えてもらいました。
皿の上には赤色や黄色、緑色などカラフルなチョコレートがあったのですが、その中に茶色がいくつか混ざっていたので、赤色との判別が難しいとのことでした。
「できるから大丈夫」とその子は答え、チョコレートを自分に近づけてゆっくり確認すれば問題ない様子と私も判断したので、「ゆっくりでいいよ」と声をかけながら集めてもらいました。集め終わった後は、とても手際良く一包化の作業を進めていきます。その後に行った「軟膏の混合体験」や「水剤の混合体験」なども無難にこなして、とても楽しんでくれているようでした。
体験が終わった後、お母さんや子どもたちに私が薬局や薬剤師の説明をしていると、その男の子のお母さんから「色を見分けるのが難しくても薬剤師になれますか?」と質問がありました。薬剤師にはなれるが、薬を用意してチェックする際に少し時間がかかるかもしれないことを伝えた後、「薬剤師は薬も大切だけどそれ以上に目の前の患者さんを見ることが大切なので、たくさん勉強して薬剤師になったら一緒に働きましょう」と答えました。
その男の子との出会いがきっかけになり、「私が認識して生活している場所はごく一般的な世界であり、色が判別しづらい世界や、病気で大変な思いをしている世界もある」ということを改めて気付かされました。
色覚異常について
以前は「色盲」と呼ばれることもありましたが、現在は「色覚異常」という表現がされています。色盲と表現すると「色が全く見えない?」と考えてしまいますが、白黒の世界が見えているのではなく正常な色の見え方と異なる色が見えている、ということです。
また、“色覚異常”というのは正常ではないような印象を与えてしまいますが、色覚に個人差があることを表しています。色覚異常を抱えている本人が、精神的にも負担を感じさせないような適切な表現がまだ見つかっていないようです。
先天性の色覚異常は日常生活で困ることは少なく、悪化していくこともありません。「暗い環境」「小さい対象物」「鮮やかでない色」などの場合に、色を見間違えてしまうことがあるので、明るい場所に持って行って確認したり、ゆっくりと観察することで色を判別することができます。