NSAIDsを「多めの水」で服用することに、どんな理由がある?
前回の記事で、NSAIDsの代表的な副作用である胃粘膜障害は、主に「プロスタグランジン」を介するものと、「胃粘膜の細胞を直接傷害するもの」の2つがあることを紹介しました。その中で、「多めの水で服用する」ことは、胃粘膜障害を避けるためにも一定の意義があると解説しましたが、実はこれには他にももっと重要な意味があります。今回は、この「多めの水」が持つ意義を、改めて考えます。
意外と知られていない、NSAIDsによる急性腎障害
周知のとおり、NSAIDsには「プロスタグランジン」の産生を阻害する作用がありますが、この「プロスタグランジン」は胃粘膜を保護することだけでなく、“腎臓の動脈を拡張させること”にも関係しています。そのためNSAIDsを服用すると、腎動脈が収縮して腎臓に流れ込む血液量が減少することになります(※これを利用して夜間頻尿の治療に用いることもあります)。
しかし、このとき腎臓に流れ込む血流量が大きく減ると腎臓が虚血状態になり、腎前性の急性腎障害を起こすことがあります。これは、もともと腎臓が弱っている人1)や、脱水状態の人2)、他にも腎臓に負担をかける薬を服用している人(特にRAS阻害薬や利尿薬との併用3))では、特にリスクが高くなるため、注意が必要です。
☞腎前性急性腎障害とは
急性腎障害は、大きく「腎前性」「腎性」「腎後性」に分類されます。通常、NSAIDsによる急性腎障害は「腎前性」に該当します。
- 腎前性:腎臓への血流量が少なくなって起こるもの
- 腎性:腎臓自体に原因があるもの
- 腎後性:腎臓より下部の尿路(尿管や膀胱など)に原因があるもの
なお、このNSAIDsによる急性腎障害は、患者だけでなく医療従事者でもあまり広くは知られていません。たとえば、一般用医薬品のNSAIDsを取り扱っている登録販売者ですら、7割以上の人は腎臓へのリスクを認識していないという調査もある4)ため、薬剤師がしっかりと対処・教育していく必要があります。