「柴朴湯」と「柴苓湯」は何が違うの?どう使い分ける?
~調剤や服薬指導で注意したいポイント~
- 添付文書から見る「柴朴湯」と「柴苓湯」の効能
- 「柴朴湯」と「柴苓湯」の構成と、共通する生薬(漢方薬)「小柴胡湯」の特徴
- 「柴朴湯」と「柴苓湯」の効能の違いは、「半夏厚朴湯」と「五苓散」の特徴にあり
- 調剤時の取り違いミスは併用薬から推測できる
- 体質や容態に合わせて処方されるのが漢方薬。服薬指導時には副作用の確認も必須
よく似た名前の漢方薬、「柴朴湯」と「柴苓湯」について解説します。
名前はそっくりだけど、効能効果がまったく異なるこの2剤。さて、似ているのは名前だけでしょうか?
漢方薬の薬効は丸暗記ではありません。構成生薬を理解すれば、調剤の取り間違いも副作用発現の見落としも防ぐことができます。2剤の共通点と違いを比較しながら、服薬指導のポイントについて解説します。
「柴朴湯」と「柴苓湯」の添付文書で比較しよう
まずは、添付文書でそれぞれの効能効果がどのように記載されているか比較してみましょう。
「柴朴湯(さいぼくとう)」
気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、時に動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症: 小児ぜんそく、気管支ぜんそく、気管支炎、せき、不安神経症
「柴苓湯(さいれいとう)」
吐き気、食欲不振、のどのかわき、排尿が少ないなどの次の諸症: 水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ
[各添付文書「ツムラ」より抜粋]
比べてみると、2剤はまったく違う症状に用いられることがわかります。
では、共通点はなんでしょう。実は、どちらも2種類の漢方薬の合剤で、そのうち1種類の漢方薬が共通しています。
「柴朴湯」と「柴苓湯」を構成生薬で比較しよう
次に、どのような生薬から構成されているか比較してみましょう。
「柴朴湯」;柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草、厚朴、茯苓、蘇葉
「柴苓湯」;柴胡、黄芩、半夏、生姜、大棗、人参、甘草、沢瀉、茯苓、猪苓、蒼朮、桂皮
共通している生薬は一目瞭然ですね。
上記の下線は、「小柴胡湯(しょうさいことう)」という漢方薬を構成している生薬です。
柴朴湯は「小柴胡湯」+「半夏厚朴湯(半夏、生姜、厚朴、茯苓、蘇葉)」の合剤で、
柴苓湯は「小柴胡湯」+「五苓散(沢瀉、茯苓、猪苓、蒼朮、桂皮)」の合剤です。
小柴胡湯は、炎症の改善や体の免疫機能の調整を目標に、肝炎や胃炎、こじれた咳などに用いられますが、その薬効をひもとくと、さまざまな性質をもった構成生薬に由来します。
具体的には、柴胡、黄芩で熱を冷まし、半夏で胸のつかえ感や吐き気をおさえます。さらに半夏は生姜と共に胃腸の動きを促し、人参、甘草、大棗で弱った体力や胃腸機能を高めるといった作用です。
薬理学的には、免疫調整作用の関与にマクロファージ活性化やサイトカイン産生調整、NK細胞活性化などが知られており、他にも抗アレルギー作用や肝再生促進作用、肝繊維化抑制作用、活性酸素抑制作用などが明らかになっています。
小柴胡湯が処方される所見では、胸脇苦満(きょうきょうくまん)(脇腹からみぞおちあたりにかけて苦しくなること)が特徴です。ですから、「柴朴湯」や「柴苓湯」が適応する病態でも、この胸脇苦満がみられることが多いのです。
このように2剤は「小柴胡湯」が共通しています。
つまり、前項で示した効能効果の違いは、柴朴湯を構成している『半夏厚朴湯』と、柴苓湯を構成している『五苓散』にあることがわかります。
「柴朴湯」と「柴苓湯」を症状で比較しよう
添付文でも確認したように、治療目標は2剤で大きく異なります。詳しく見てみましょう。