抗血小板薬、手術前は休薬する?しない?~出血リスクと血栓リスクの評価
- 抗血小板薬を休薬するかどうかは、その患者さんの「出血リスク」と「血栓リスク」から考える
- 手術の内容によっては出血リスクが低く、抗血小板薬は休薬しない方が良いことがある
- 抗血小板薬を使っている目的によっては血栓リスクが高く、安易に休薬できないことがある
血を固まりにくくする抗血小板薬の重大な副作用に「出血」があります。そのため、出血を伴うような手術の前には薬を一時的に止めておく「休薬」を行う必要があります。しかし、何か手術をするからといって、必ずしもすべての患者が抗血小板薬を「休薬」する、とは限りません。
薬を続けることにも中止することにも、どちらにもリスクがある
薬剤師であれば、「抗血小板薬」を使っている患者さんの「手術」と聞くと、反射的に「休薬!」と答えたくなりますが、何も考えずに「休薬」を推奨するのは問題があります。確かに、「抗血小板薬」を中止せずに手術を行うと、手術中にひどい出血を起こしてしまう危険性がありますが、逆に安易に薬を中止すると血栓ができやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞などを起こしてしまうリスクが高くなるからです。
つまり、薬を中止せず出血を起こしても、薬を中止して血栓を起こしても、どちらに転んでも致命的になって医療事故に繋がる恐れがある、ということです。
そのため、この判断は画一的に決められるものではなく、個々の患者さんの出血・血栓リスクや、疾患ごとのガイドライン、病院ごとに定められた基本的な内規(取り決め)なども踏まえて慎重に考える必要があります。
「出血リスク」の評価~受ける手術・処置の内容
たとえば、単なる内視鏡検査や抜歯、白内障の手術といったものは、致命的な“大出血”を起こすリスクが低いため、「薬を休薬するデメリット(血栓リスク)」の方が高くなることが多いです。
実際、抗血小板薬を使っている患者さんが抜歯を行う際、確かに出血イベントは増えるものの局所止血だけで十分に制御可能なものしか起こらない1,2)ことが確認されており、軽度の抜歯・口腔手術のためだけに薬は中止すべきでない、とされています。抗血小板薬の中止には、確実に「血栓リスク」の増加というデメリットを伴うからです。