抗血小板薬、手術前はどのくらい休薬する?~休薬期間の決め方
- アスピリンやチエノピリジン系抗血小板は、血小板の寿命(7~10日)に応じて休薬期間を考える
- チカグレロルは血小板機能を可逆的に阻害作用するため、休薬期間は短め
- 「イコサペント酸」や「リマプロスト」、「ジピリダモール」のような薬にも抗血小板作用がある
前編で紹介したとおり、手術前に抗血小板薬を休薬するかどうかは、その患者さんの「出血リスク」と「血栓リスク」を踏まえて個々に考える必要があります。もし「休薬する」ことを選択する場合は、今度はその休薬は“どのくらいの期間”行うのか、ということを考える必要がありますが、これは薬の内容によって様々です。
抗血小板薬の、手術前の「休薬」の期間の目安
抗血小板薬には、様々な作用機序を持つ薬があります。そのため、薬によって抗血栓作用を発揮する時間も異なり、手術時の出血リスク抑制のためには薬ごとに異なる休薬期間を設定する必要があります。
一般名 | 代表的な薬剤名 | 休薬期間の目安 | 休薬期間の根拠 |
アスピリン | バイアスピリン | 7~10日 | 血小板の寿命 |
チクロピジン | パナルジン | 5~14日 | 血小板の寿命 |
クロピドグレル | プラビックス | 5~14日 | 血小板の寿命 |
プラスグレル | エフィエント | 5~14日 | 血小板の寿命 |
チカグレロル | ブリリンタ | 3~5日 | 血中濃度の低下 |
※主な抗血小板薬の休薬期間の目安
「アスピリン」の休薬期間が長い理由
抗血小板薬のうち、「アスピリン」は血小板のシクロオキシゲナーゼを不可逆的に阻害することで、血小板の凝集を抑制し、抗血小板作用を発揮します。この阻害作用は不可逆的なため、薬の血中濃度が低下しても消失することはなく、血小板の寿命(7~10日)が続く期間は持続します1)。
ただし、「アスピリン」の休薬は血栓症のリスクを確実に高める2)ため、出血リスクの低い手術の場合は休薬を行わなかったり、血栓リスクの高い患者の場合は手術当日のみ休薬してすぐに再開したり、といった個別の対応を行います。
チエノピリジン系抗血小板薬(チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル)の休薬期間が長い理由
「チクロピジン」や「クロピドグレル」「プラスグレル」といったチエノピリジン系抗血小板薬は、血小板のADP(adenosine 5′-di- phosphate)受容体のサブタイプP2Y12に作用し、ADPとの結合を阻害することによって抗血小板作用を発揮します3)。
この作用も「アスピリン」と同様に不可逆的な作用のため、薬の血中濃度が低下してからも血小板の寿命(7~10日)が続く限り持続します。