片頭痛治療に対する「ラスミジタン」とCGRP関連薬の長所・短所、使いどころ
- 「トリプタン」で治らなかった片頭痛に効果が期待できる新薬「ラスミジタン」
- 「ラスミジタン」に禁忌がなく主力治療薬になりうるが、使用実績が乏しいのが課題
- 薬物乱用頭痛を伴う慢性片頭痛改善に期待できる「ガルカネズマブ」
- ほとんど使用されなくなった、第5の選択「エルゴタミン製剤」を使う状況とは?
後編の今回は、2021年以降に新しく登場したセロトニン5-HT1F受容体作動薬(ラスミジタン)とCGRP関連薬、そして古くから使われているエルゴタミン製剤について解説します。
片頭痛治療薬③:ラスミジタン(セロトニン5-HT1F受容体作動薬)
- 長所:トリプタンが効かない/トリプタンが禁忌の人でも使える
- 短所:有害事象がやや多め
「ラスミジタン」はセロトニン5-HT1F受容体に作用することで片頭痛の症状を緩和する片頭痛治療薬です。
現在の片頭痛治療の主力である「トリプタン」に比べると、効果はやや劣り、有害事象も多め1)とされているため、「トリプタン」にとって代わって片頭痛治療の第一選択薬になる、というような立ち位置の薬ではありません。
しかし、「トリプタン」ではほとんど治らなかった片頭痛患者であっても「ラスミジタン」は効果を期待できる2)ため、これまでの治療に難航していた人にとっては貴重な選択肢になります。また、「トリプタン」は血管収縮作用を持つため脳血管障害や虚血性心疾患を持つ人に対して禁忌に指定されていましたが、「ラスミジタン」にはこうした禁忌の指定がありません3)。
そのため、これまで「トリプタン」を使いづらかった、あるいは使えなかった片頭痛患者にとっては“主力”の治療薬となります。
「ラスミジタン」のガイドラインでの扱い
なお、「ラスミジタン」は2022年に登場した新しい薬ですが、海外では2019年に承認されているため、2021年版の頭痛診療ガイドラインにも治療薬の1つとして掲載されています(※英語表記の「lasmiditan」で)。
ただし、治療の推奨度としては、いずれも“強く推奨”されている「トリプタン」に対し、「ラスミジタン」はまだ使用実績が乏しいこともあって未記載になっているなど、第一選択薬として用いられる「トリプタン」とは明確に異なる扱いがされています。
薬剤 | 推奨の強さ |
5種のトリプタン(経口) | 強い |
アセトアミノフェン | 強い |
イブプロフェン、ロキソプロフェン | 強い |
ラスミジタン | - |
※ガイドラインでの推奨度
片頭痛治療薬④:CGRP関連薬(ガルカネズマブ、フレマネズマブ、エレヌマブ)
- 長所:これまでの薬が効きにくかった人/薬物乱用頭痛にも効果
- 短所:注射剤しかない、値段が高い
CGRP関連薬は、片頭痛の病態に深くかかわる「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)」の働きを抑制する薬です。
「トリプタン」や「ラスミジタン」とは全く異なる作用機序を持つ薬のため、従来の薬があまり効かなかった人でも効果を期待できますが、いずれも注射薬のため投与の手間がかかること、また薬の値段も高いというデメリットがあります。
そのため、現在でも片頭痛治療の第一選択薬には使用実績が豊富で投与も簡単な「トリプタン」が選ばれるのが一般的ですが、この「トリプタン」では十分に効果が得られない場合に、これまでのように「トリプタン」を増量・併用するだけでなく、CGRP関連薬を使うという方法も試せるようになっています。
日本では、抗CGRP抗体(ガルカネズマブ、フレマネズマブ)と、抗CGRP受容体抗体(エレヌマブ)の3種が承認されています。特にこれら3剤で有効性や安全性に目立った違いは確認されていませんが、ネットワークメタ解析では最良の治療となる可能性が最も高いのは「ガルカネズマブ」240mg、次いで「フレネズマブ(毎月投与)」と評価されています4)。