「ゾフルーザ」と「タミフル」の違いは?インフルエンザ治療薬の使い分け方法
- 「オセルタミビル」と「バロキサビル」で、臨床的な効果やよくある副作用はあまり変わらない
- 通常、使用実績が豊富な「オセルタミビル」が“第一選択”になる(特に子どもの場合は推奨)
- 服薬アドヒアランスが悪い患者さんの場合、1回飲み切りという「バロキサビル」の特徴が活きる可能性
インフルエンザ治療薬は飲み薬・吸入薬・点滴薬と色々なものがありますが、飲み薬には「オセルタミビル(先発:タミフル)」と「バロキサビル(先発:ゾフルーザ)」の2種があります。飲み薬は、デバイスを適切に扱うための複雑な手技などもなく、服用方法が非常にわかりやすいのが最大の利点ですが、その中で「オセルタミビル」と「バロキサビル」の2剤はどのように使い分けが行われているのか、薬の長所・短所を踏まえた基本的なポイントを、最新の情報も踏まえておさらいします。
オセルタミビル | バロキサビル | |
先発医薬品 | タミフル | ゾフルーザ |
作用機序 | ノイラミニダーゼ阻害薬 | キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 |
投与経路 | 内服(カプセル/ドライシロップ) | 内服(錠) |
服用回数 | 1日2回、5日間 | 1回 |
半減期 | 5.1~7.0時間 | 95.8~99.6時間 |
適用年齢 | 生後2週から | 10kg以上 |
薬価収載 | 2001年2月 | 2018年3月 |
使い分け① 基本~症状緩和の効果やよくある副作用は“同じ”だが、安全重視であれば「オセルタミビル」
「オセルタミビル」と「バロキサビル」は作用メカニズムの全く異なる薬ですが、臨床的にはインフルエンザの症状緩和までの時間を24時間ほど短縮する、という意味で効果はほぼ“同じ”です1)。
また、「オセルタミビル」や「バロキサビル」で高頻度に起こる副作用も吐き気や下痢といった消化器症状でだいたい同じです。そのため、「オセルタミビル」と「バロキサビル」は、“値段”や“服用回数”といった薬学面以外の要素が選択基準になることも少なくありません。
しかし、2018年に登場した「バロキサビル」に比べると、2001年から使われている「オセルタミビル」の方が使用実績は圧倒的に豊富で、有効性・安全性のデータもたくさん揃っています。
また、半減期が95.8~99.6時間と長い「バロキサビル」に比べると、半減期が5~7時間程度の「オセルタミビル」は服薬を中断すれば血中濃度もすぐに下がるため、副作用が現れた際の対応が簡単という点もメリットだと言えます。
このことから、通常のインフルエンザの治療においては「オセルタミビル」の方が優先的に選ばれます。
重症化抑制の効果は「バロキサビル」優位とする報告もあるが…
インフルエンザ治療薬に求められる効果としては、症状緩和だけでなく重症化抑制も挙げられます。通常、外来治療で済ませられるような人の場合はそもそもインフルエンザがあまり重症化しないため、「オセルタミビル」でも「バロキサビル」でも重症化抑制効果は大して期待できません。
一方で、重症化リスクの高い入院患者などに限れば、「オセルタミビル」も「バロキサビル」もインフルエンザの重症化を抑制してくれることがわかっていますが、この重症化抑制効果に関して、2024年に「バロキサビル」の方がやや高いとする報告2)がありました。
ただし、この研究の質はそこまで高いものではなく、“バイアス(偏り)”の影響も指摘されている3)ため、重症化リスクの高い患者さんには「バロキサビル」を優先的に使おう、というような状況にまではなっていません。
使い分け② 子ども~推奨される治療は「オセルタミビル」
「オセルタミビル」は生後2週の新生児から使える4)ため、よくインフルエンザに罹患する小さな子どもにとって非常に重要な薬になります。
一方、「バロキサビル」も体重10kg以上の子どもから使えるようになっていますが、低年齢になるほど耐性が生じやすい可能性がある5)、小児を対象にした臨床試験データがまだまだ乏しい、といった点から、特に子どもへの使用は慎重に考えなければなりません。
昨シーズンの「インフルエンザ治療・予防指針」においても、全年齢に「推奨」されている「オセルタミビル」に対し、「バロキサビル」は12歳未満の子どもに対しては「積極的には推奨しない」や「慎重に判断」といった表現に留まっている6)、という点に注意が必要です。