マイコプラズマ肺炎に「ペニシリン系抗菌薬」を使わない理由って?
- マイコプラズマ肺炎で推奨される抗菌治療薬の知識をおさらい
- ペニシリンが使われるのはなんで?
- 小児と成人での抗菌薬治療の違い
- 服薬指導時に伝えることや注意事項は?
マイコプラズマ肺炎が大流行しています。以前より3~7年程度の間隔で流行を起こしていましたが、2020年以降はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行に伴い呼吸器感染症への感染対策が推奨されたこともあり、その報告数は減少していました。
しかし、COVID-19への感染対策が緩和されて以降、国内では2024年春頃から報告数の増加がみられていました。また、都道府県によっては既に患者数が過去最多を更新していますが、秋から冬にかけてさらに流行することが予想されるので、マイコプラズマ肺炎に使われる抗菌薬とその注意点について整理しましょう。
【おさらい】マイコプラズマ肺炎とは?
マイコプラズマ肺炎は、Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニア)による細菌感染症です。マイコプラズマ ニューモニアは細胞壁を持たない0.1~数μm程度の非常に小さな細菌であるため、顕微鏡でのグラム染色での推定は困難です。
マイコプラズマ肺炎の患者は、通常の市中肺炎とは異なり、ウイルス感染を示唆するような咽頭痛や鼻汁から始まることがあります。当初はこの病態がウイルス感染によるものと考えられていましたが、1963年にマイコプラズマ ニューモニアが細菌であることが確認されました。
ちなみに、「M.pneumoniae」という名前は、「真菌のような形態」を意味するギリシャ語のmykes(fungus)とplasma(formed)に由来します。
国内の過去の疫学調査によると、3~7年に1回の周期で大きな流行が発生しています。マイコプラズマ肺炎は市中肺炎の代表的な原因の1つで、特に基礎疾患のない若年層(小児や若い成人)に多く見られ、患者の約6~8割は14歳以下です。
多くの場合、入院は必要なく2~3週間の潜伏期間の後に頭痛、倦怠感、発熱、咳嗽などの症状が現れますが、全身状態が良好で活動性が保たれることも少なくありません。
特徴的な症状は乾性咳嗽が続くことで、解熱後も咳が長期間残ることがあります。まれに脳症などの重篤な合併症を発症し、致命的な経過をたどることもありますが、一般的には症状は軽度で、予後は良好です。
通常は約3週間で自然治癒する疾患です。
マイコプラズマ肺炎に処方される抗菌薬
マクロライドが治療の第1選択薬ですが、成人と小児で選択が異なる部分があるので、分けて考えましょう。
<成人>
マクロライド系抗菌薬が第1選択薬とされています。
しかし、マクロライド耐性マイコプラズマ ニューモニアの場合、約70%の症例で解熱が得られない可能性があるため、マクロライド系抗菌薬投与後48~72時間以内に解熱が見られない場合は、テトラサイクリン系抗菌薬またはキノロン系抗菌薬への変更が推奨されます。
<小児>
成人と同様に、マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシンを除く)が第1選択薬とされています。投与後2~3日以内の解熱で治療効果を評価します。
ただし、マクロライド系抗菌薬が無効な場合は、トスフロキサシンやテトラサイクリン系抗菌薬の使用が考慮されます。
一方、小児では自然治癒することが多く、抗菌薬の使用は必ずしも必要ではありません。また、キノロン系抗菌薬の安易な投与は、腸内細菌など標的としない細菌叢の薬剤耐性化を助長する恐れがあるため、慎重な使用が求められます。