高齢者の“多剤併用(ポリファーマシー)”対応に失敗しない方法
- 多剤併用に対して、医師・患者と薬剤師の認識のどこにズレがあるか
- 減薬提案を失敗する原因にとなるそのズレを埋めるためには、どういう考え方が必要か
受診する診療科が増える高齢者は、服用する薬も多くなる傾向にあります。いま、日本の75歳以上の高齢者の7割は、5種以上の薬を併用している1)、というデータもあるほどです。しかし、薬の数が増えればそれだけ服薬の手間、経済的な負担、副作用リスクも増えてしまうため、患者さんにとってあまり好ましいものではありません。
薬剤師であれば、こうした高齢者の多剤併用(ポリファーマシー)に対しては、なるべく不要な薬を減らし、できるだけ負担やリスクの少ない薬物治療に調整していきたいところですが、ここで薬剤師がよくやってしまう“失敗”があります。今回は、この多剤併用(ポリファーマシー)への対応で失敗しないためのポイントを解説します。
ポイント①医師とのズレ:多剤併用は、「善意」と「最善」によって生まれる
高齢者の多剤併用は、血圧が高いので循環器内科、胃の調子が悪いので消化器内科、膝が痛むので整形外科、皮膚が乾燥するので皮膚科、目がかすむので眼科……と多くの病院を巡るうちに、いつの間にか薬の数がどんどん増えてしまった、というケースがよくあります。
実際に高齢者の薬物治療では、特に薬を積極的に追加しようとしていなくても、各疾患のガイドラインの推奨に従っているだけで、簡単に多剤併用の状況になってしまう2)こともわかっています。
つまり、基本的に高齢者の多剤併用というのは誰かが悪意を持ってつくり上げているわけではなく、各々の診療科でそれぞれの医師が“最善”の薬物治療を行おうとしたところ、結果としてトータルで見たときに“あまり良くない状況”になってしまった、という性質のものがほとんどだ、ということです。
ここを押さえずに、特定の薬をまるで最初から余計なもの、“悪いもの”のように扱った疑義照会をすれば、それは医師からの心証は悪くなって当然です。薬剤師から減薬を提案する際には、まずはその薬も「善意」と「最善」の対応によって処方されたものだ、という認識で対応することが大切です。
- 医師が各々の診療科で“最善”の薬物治療を行おうとした結果、“多剤併用”の状況になってしまう
(悪意を持って余計な薬や不要な薬を処方しているわけではない)
ポイント②患者とのズレ:多剤併用には良いものと悪いものがある
最近は多剤併用が「ポリファーマシー」という言葉とともに一般メディアでも広く取り沙汰されるため、「薬が多い=悪」と画一的に思い込んでしまっている患者さんも多いようです。
しかし、薬には必要な併用、有意義な組み合わせというものもたくさんあり、必ずしも“薬の数”が増えることが悪いこととは限りません。