睡眠薬の長期内服と認知症リスクの関係

寄せられた質問に専門医が回答する人気動画「千葉悠平のお悩み相談 by Docpedia」を記事でも読めるようにしました。テーマは「睡眠薬の長期使用と睡眠不足における認知症リスク」についてです。専門医がエビデンスをもとにして安全な睡眠薬の使い方、睡眠について解説します。
回答する医師・積愛会横浜舞岡病院認知症疾患医療センター副センター長・千葉悠平
医学博士・精神保健指定医・日本精神神経学会専門医 指導医・日本認知症学会専門医 指導医・中小企業診断士・YUAD代表
認知症と不眠のリスクはどちらが高い?
今回の質問は「睡眠薬の長期内服は認知症リスクになると言われる反面、不眠も認知症リスクと言われています。この場合、長期内服による認知症リスクよりも不眠によるリスクの方がやはり高いのでしょうか」です。
睡眠と認知症の関係というのは非常に興味深いものです。そのあたりからお話していきましょう。
グリンパティックシステムが認知症と睡眠の関係の鍵!?
エビデンスを挙げながら、以下の順番で解説していきます。
- 認知症と睡眠の関係について
- 睡眠障害と認知症の関係について
- 睡眠薬の使用と認知症の発症について
睡眠と認知症がなぜ関係するのかには、いろいろな説がありますが、そのひとつが「グリンパティックシステム(glymphatic system)」という脳の機構です。脳の中にはリンパ系が存在し、脳の老廃物を排出するシステムになっています。具体的には深い睡眠をとると、動脈から静脈にかけて水の流れが発生し、その流れに乗ってアミロイドを含んだ老廃物が脳外に排出されていくという仕組みがあります。いわば睡眠によって毎日脳が掃除されているといえます。睡眠の時間が短いとか、眠れていないということが続くと、老廃物が脳に溜まり、やがて神経変性を起こすという仮説があります。深い睡眠というのがいかに重要かわかりますね。
1.認知症と睡眠の関係について
質問の回答ですが、正直なところ、どちらのリスクが高いともいえません。解説の詳細を見ていきましょう。
睡眠時間と認知症については大規模な調査が行われています。その結果、適切な睡眠時間は7時間程度とされています。8時間以上の過眠、6時間未満の睡眠不足の方の場合は死亡率が上がります。特に8.5時間以上の過眠、4.5時間未満の睡眠不足の場合、7時間睡眠に比べて15%以上死亡率が増加しています。そこまでの過眠、睡眠不足ではない、6時間以下睡眠や8時間以上睡眠の方に、認知機能低下とか認知症発症の有意なリスクになることが知られています。つまり睡眠負債は、認知症のリスクを高めます。
2.睡眠障害と認知症の関係について
睡眠障害は、認知症のリスクが有意であり、アルツハイマー型認知症や血管性認知症などのリスクにもなってきます。不眠症があると、アルツハイマー型認知症のみ有意です。いびきやスリープディソーダーブレシング(睡眠障害)も認知症発症のリスクになります。
睡眠障害だけでなく、睡眠の質の構築が重要です。深いノンレム睡眠、レム睡眠が少なくなっている方を長期で追いかけていくと、認知症の発症リスクが高まっていました。質の良い睡眠の大切さがわかりますね。
3.睡眠薬の使用と認知症の発症について
睡眠薬に関しては、ベンゾジアゼピン系の現時点での使用と過去の使用歴は、認知症発症のリスクとなります。また、容量依存性も指摘されています。
ただ、睡眠薬を飲んですぐ認知症になるものではありません。ベンゾジアゼピン系の中でも長時間型、短時間型での差、ベンゾジアゼピン系以外の睡眠薬などが、認知症のリスクになるのかは、まだ十分に判明していません。