「なぜ風邪に抗菌薬はいらない?」患者から聞かれた時の服薬指導法
- 「風邪」に抗菌薬を使ったときに期待できる効果
- 昔は「風邪」に抗菌薬がよく使われていたのはなぜか
「風邪をひいたので抗菌薬を処方してもらう」。これは、ひと昔前までは当たり前のように見られた考え方です。しかし現在では、風邪に抗菌薬を使うことは全く推奨されておらず、保険診療上も適応を認めないと通知が出されているなど、大きく方向は転換しています。こうした事情を知らない患者さんから「風邪だから抗菌薬を出してもらいたい」と相談された際、薬剤師として適切に対応することは、抗菌薬の適正使用の観点からも非常に重要です。
「風邪」に抗菌薬を使わないのはなぜ?
ヒトに感染症を引き起こす病原体には、細菌・ウイルス・真菌・寄生虫などさまざまなものがあります。これらは全て全く異なる大きさ・構造・増殖方法をしているため、治療にはそれぞれの病原体に適した薬を使う必要があります。
| 細菌 | 大腸菌、結核菌、緑膿菌、破傷風菌など |
| ウイルス | インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、ノロウイルスなど |
| 真菌 | 白癬菌、カンジダなど |
| 寄生虫 | アニサキス、マラリア、エキノコックスなど |
「抗菌薬」にはペニシリン系、セフェム系、マクロライド系などいろいろな種類のものがありますが、いずれも効果を発揮するのは「細菌」だけです。他の病原体には、基本的に何ら作用することはありません。つまり、「抗菌薬」が有効なのは細菌感染症に限る、ということです。
では、一般的に「風邪」というのはどの病原体によって引き起こされているのか、というと、基本的に「ウイルス」が原因です1)。そのため、「風邪」に細菌を退治する抗菌薬を使っても、特に意味はありません。
実際、風邪の人に「抗菌薬」を使っても、発熱や咳などの臨床症状は改善せず2)、むしろ下痢などの副作用だけが増える3)ことが確認されています。