頭がよくなるサプリ？不思議なパラドックスに仰天（後編）

患者さんからテレビやネットで流れた医療情報について相談を受けたことはありませんか？データに基づいた情報といえども、巧みな拡大解釈により、新薬や健康食品の有効性と安全性は歪曲されて伝わってしまうことがあります。この連載では、患者さんの悩みを解消し、適切な指導をするうえで役に立つ知識を噛み砕いて解説します。
前編はこちらからご覧ください『頭がよくなるサプリ？不思議なパラドックスに仰天』

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これを読んだらわかるデータの読み方のエッセンス

グループ分けした比較データの方が正しいとは限らない
様々なものが「交絡因子」になり得るので、各群の背景の違いは細かくチェックしよう！

患者の誤解『有効性が“確からしい”サプリメントがある』

サプリメントの広告を手にしたご婦人が来局されました。

先日、カシコクナールDXというサプリメントについてお伺いした者ですけど、ちょっとよろしいですか？この前、持参した広告の有効性データには交絡っていうバイアスの可能性があると伺ったのですが（前編参照）、カシコクナールの新商品が出たんです。今回のデータはもっともらしい気がするので、ちょっとこの広告を見てくださいます？

チラシの文言

―「カシコクナールDXプレミアム」を服用すると学力アップが期待できます！実際、これを服用している子どもが多い塾は合格率が高いのです！―
（↑めちゃくちゃ目立つフォントでデカデカと書いてあるのが目に飛び込んできた！）

先日も相談に来られた、中学受験を控えた子どものお母様が来局されました。なんとあの怪しさ満点のネーミングセンスを誇る「カシコクナールDX」の新商品が発売されたそうです。前回の商品は食用キノコに含まれる「カシコタケ」が成分でしたが、今回の「カシコクナールDXプレミアム」は「カシコタケ」に加えて、タケノコに含まれる「カシコノコ」が配合されており、学力アップが期待できるとのこと（すべて架空の商品/成分である）。どうやら、塾の生徒の合格率に基づいて、有効性をアピールしているようですが、チラシの文言だけではどういうことなのかちょっとわかりにくいですね。有効性を示唆する具体的なデータも掲載されているようなので見てみましょう！

『またもやシンプソンのパラドックスが！？』

	合格	不合格	合格率
タケノコ塾	240人	160人	60％
キノコ塾	160人	240人	40％

表１　タケノコ塾とキノコ塾の合格率

塾に通っている生徒の名門中学校の合格率の調査結果が載っています（表１）。「キノコ塾」よりも「タケノコ塾」の合格率の方が20％も高いですね。ふむ…、「タケノコ塾」の方が良い塾なのだろうか、それがどうしたって感じですが、ちょっとお待ちを。それぞれの塾の生徒を、「カシコクナールDXプレミアム」を服用しているかどうかでグループ分けをして解析してみたところ、なんと結果が逆転してしまうのです（表２-A,B）。前編に引き続き、またまたパラドックスが起きてしまいました。

	合格	不合格	合格率
タケノコ塾	230人	142人	61.8％
キノコ塾	18人	10人	64.3％

表２-A　「カシコクナールDXプレミアム」を服用している生徒のみ解析

	合格	不合格	合格率
タケノコ塾	10人	18人	35.7％
キノコ塾	142人	230人	38.2％

表2-B　「カシコクナールDXプレミアム」を服用していない生徒のみ解析

パラドックスが起きた際には、2つの集団に何か交絡因子が影響している可能性があるというのが前編のお話でしたが、実は今回も、「カシコクナールDXプレミアム」を服用している生徒の方が合格率は高く（表2-A,B）、その服用率を比較してみると、「タケノコ塾」で93％、「キノコ塾」で7％と大きく偏っています（表3）。