新薬で脳梗塞が半減!これは劇的に効く夢の特効薬?
患者さんからテレビやネットで流れた医療情報について相談を受けたことはありませんか?データに基づいた情報といえども、巧みな拡大解釈により、新薬や健康食品の有効性と安全性は歪曲されて伝わってしまうことがあります。この連載では、患者さんの悩みを解消し、適切な指導をするうえで役に立つ知識を噛み砕いて解説します。
今回は「リスク」の読み解き方です。
これを読んだらわかる データの読み方のエッセンス
- 相対リスクと絶対リスクの違いに注意
- リスクとベネフィットを定量化するにはNNTやNNHが便利
心房細動の患者さんからのご相談
ネットで見たんですけど、新しい血液サラサラの薬がとてもよく効くみたいなんですよ。脳梗塞が半減するんですって!でも、先生にその新薬への変更について相談したら、効果はそんなに変わらないし、副作用も気になるので、新しい薬に変更する必要はないだろうと言われてしまって…。薬剤師さん、どう思いますか?
患者さんが持参したネット記事の印刷資料
「サラサラーナ」(架空の薬です。髪の毛サラサラのシャンプーの名前みたいですが…)
「既存薬と比べて脳梗塞の発症率が半減(50%減)し…」
「一方で脳出血の発症率は0.5%の増加にとどまり…」
▲患者さんのチェックが入っているところを抜粋
この患者さんは持病に心房細動があるため、脳梗塞の予防として抗凝固薬を服用しています。少しでも脳梗塞のリスクを減らしたいはずですから、既存薬よりもリスクが半減するだなんてすごい!と期待が高まることと思います。
しかし、薬で血栓を溶解するということは出血リスクも高まるということなので、脳出血などの有害事象は増えると予想されます。誤解を恐れずに言うならば、抗凝固薬は「もろはのつるぎ」のようなものです。患者さんもそこに着目して「脳出血」の記載部分に赤ペンチェックをつけたのでしょうね。脳出血の発症率は0.5%増えてしまったそうですが、脳梗塞が50%減ることの方が圧倒的に見えますから、「脳梗塞めっちゃ減らす!脳出血はちょっと増えるだけ!」という期待を抱いて医師に新薬への変更を持ちかけたのでしょう。
脳梗塞と脳出血がどのくらい増減するのか研究データをチェック
「新薬は既存薬と比べて、脳梗塞を半減、脳出血は0.5%増加」と簡潔に記載された内容はわかりやすいようでいて、どうも効果の実態を掴みにくいと感じるのは私だけでしょうか。有効性と安全性を評価する上では、やはり根拠となった研究データをチェックする必要があると思います。
ここで重要となるのが、相対リスクと絶対リスクの違いです。私のPCですと、「相対リスク」ではなく「早退リスク」と変換されてしまうのですが、「毎日、一刻も早く帰宅して布団にダイブしたいと願っている主の気持ち」をPCに見透かされているのかもしれません。相対リスクという用語のインプット、ならびに私は安易に早退したりしないということをCPUに叩き込んで欲しいところです。
「相対リスク」とは各群の「発症率の比」をとることで得られる相対的な指標で、「絶対リスク」は各群の「発症率の差」です。簡単に言うと、相対リスクは「割り算」、絶対リスクは「引き算」ですね。では、個々の患者さんにとって重要なのはどちらでしょうか?…