物忘れスコアが改善したというグラフ、縦軸に注意!
~臨床的に意義のある最小変化量を意識しよう
患者さんからテレビやネットで流れた医療情報について相談を受けたことはありませんか?データに基づいた情報といえども、巧みな拡大解釈により、新薬や健康食品の有効性と安全性は歪曲されて伝わってしまうことがあります。この連載では、患者さんの悩みを解消し、適切な指導をするうえで役に立つ知識を噛み砕いて解説します。
これを読んだらわかる データの読み方のエッセンス
- グラフのパッと見の印象は、縦軸のとり方で大きく変わる
- 症状スコアの変化を見る際は、「臨床的に意義のある最小変化量:MCID」を意識
患者さんからの相談
「ワスレナリンという健康食品についてお伺いしたいのですが、ネットの広告を見ると、物忘れに対する効果がすごいみたいなんです。これは認知症の予防になるのでしょうか?」
患者さんが持参したネット広告の印刷資料
ワスレナリン(架空の商品)
成分:天然の植物エキス配合
キャッチコピー:「加齢による物忘れ防止に!」
「ワスレナリン」という名の健康食品についてのご相談です。認知症の予防を期待させるようなキャッチコピーですが、「ほんとに効くのかなぁ?」と、疑いの目を向けたくなります。最近はこうした健康食品に関して、プラセボと比較して有効性を検証したデータがきちんと公開されているので安心・・・と思いきや、そのデータの見せ方が不適切と言わざるを得ないことがあるのでしっかりと確認する必要があります。
グラフは、「小さな差」を「より大きく」見せるように描かれていることがある
さっそく該当のデータを検証していきます。物忘れの指標とされる「ドワスレールスコア」(架空の症状スコア)がどのように変化したのかがグラフで表されています。まずは棒グラフを見てみましょう(図1-A)。
図1-A プラセボと比較したワスレナリンのドワスレールスコアの結果
「おっ!すごく効いてる!」と思いますが、縦軸の数値を見ると、0から始まっていない「縦軸が途切れたグラフ」になっており、「ワスレナリン」と「プラセボ」のスコアの差を目立たせていることがわかります。これを縦軸の開始点を0からのグラフに直すと、図1-Bのようになります。
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