『それって副作用?~添付文書に記載されている副作用症状が発現~』

患者さんからテレビやネットで流れた医療情報について相談を受けたことはありませんか?データに基づいた情報といえども、巧みな拡大解釈により、新薬や健康食品の有効性と安全性は歪曲されて伝わってしまうことがあります。この連載では、患者さんの悩みを解消し、適切な指導をするうえで役に立つ知識を噛み砕いて解説します。
これを読んだらわかる データの読み方のエッセンス
- 添付文書の副作用情報には、因果関係があきらかではない有害事象も含まれる
- 副作用かどうかは、作用機序や疫学データ、現場の状況や病歴も確認して個別に評価しよう
患者さんからの電話
「昨日、『ウイルスリープ』というインフルエンザの吸入薬(※)をもらったんですけど、気持ち悪くて吐いてしまったんです。以前、飲み薬で吐いてしまったことがあったので、医師に伝えたら「吸入薬なら大丈夫だよ」と説明を受けたのですが、ネットで調べたら副作用項目に“嘔吐”って書いてあったんです。医師の説明と違うのですが、吸入薬でも吐き気の副作用が出るものなのでしょうか?」
※ウイルスリープ(架空の薬。居眠りしているウィル・スミスのことではない)

インターネット全盛のいま、知りたいことがあったら、とりあえずググればたいていの情報は手に入ります。私自身、Google先生に頼らないと生きていけないくらい依存しており、日常生活で困ったことがあったらすぐに「OK!Google」です。
ネットで入手できる情報は幅広く、それは薬についても例外ではありません。「薬の名前+副作用」で検索すれば、添付文書に記載された副作用情報を調べることができます。「副作用かも!?」と不安になったとき、ググって該当の症状が載っていたら「副作用に違いない!」と感じるのも無理はないですね。
それって副作用?→薬剤師としての対応は?
『ウイルスリープ』の添付文書を調べてみると、患者さんの言うとおり、副作用項目として「嘔吐(1.0%)」の記載がありました。では、今回の事例は副作用なのでしょうか?さまざまな意見があるでしょうけど、思いつく限り挙げてみました。
- 添付文書に載っているのだから副作用に違いない!
- 副作用は100人に1人(1.0%)しか起きないんだから副作用じゃない!
- 吸入薬で吐き気なんてでるわけがない!
- 副作用の可能性は否定できない…
さて、いかがでしょう。①と②は同じデータ(添付文書)に基づいて、真逆の意見になるのが興味深いですが、ちょっと安易に決めつけすぎでしょう。③は一見、なるほどと思わせますが、根拠としてはちょっと弱いかもしれません。たしかに吸入薬の多くは気道内で効果を発揮する局所作用薬であり、胃腸から吸収されて効果を発揮するわけではありません。しかし、β2刺激薬(SABA)のように血中へ移行し、不整脈などの副作用を起こす吸入薬もあります。薬理作用によっては血中に移行して、嘔吐を引き起こす可能性も考えられます。
結局のところ、現時点で得られた情報だけで判断すると、④になってしまうのですが、これでは「まったくわからない…」と言っているのと同義です。患者さんとしても副作用の可能性が否定できないと思ったから相談してきたわけで、薬剤師としてもう一歩踏み込んだアセスメントが必要でしょう。