『ロコアテープ以外のシップなら、胃に負担がかかることはない?』

患者さんからテレビやネットで流れた医療情報について相談を受けたことはありませんか?データに基づいた情報といえども、巧みな拡大解釈により、新薬や健康食品の有効性と安全性は歪曲されて伝わってしまうことがあります。この連載では、患者さんの悩みを解消し、適切な指導をするうえで役に立つ知識を噛み砕いて解説します。
これを読んだらわかる データの読み方のエッセンス
- 局所作用のシップでも過量使用により血中濃度が上昇し、副作用を起こすことがある
- 使用枚数ごとの血中濃度の推移をデータから読み取ろう
患者さんの薬に関するお悩み

胃薬を処方された患者さん:
「最近、胃の調子が悪いのよね。もともと胃が弱くて、痛み止めを飲むと胃の調子が悪くなるんだけど、今はとくに飲んでいる薬はないし…。痛み止めのシップは使っているけど、シップなら胃を荒らすことはないわよね?」
イマモルーネ(架空の薬):胃酸分泌抑制薬
イタミトレールテープL(架空の薬): NSAIDs経皮吸収型貼付剤
NSAIDs経皮吸収型貼付剤でも胃に負担がかかるのか?
胃薬を処方された患者さんが来局しました。「痛み止めを飲むと胃の調子が悪くなる」ということですので、もともと胃が弱い体質なのでしょうか。痛み止めのNSAIDsはピロリ菌と並んで、消化性潰瘍の2大要因ですから、NSAIDsの服用有無は要チェックですよね。この患者さんは「とくに飲んでいる薬はない」とのことなのですが、整形外科で処方されているシップを使用しているようです。
余談ですが、「他に飲んでいる薬はありますか?」と聞いて「ありません」と言われた場合でも、お薬手帳をチェックしたら(内服薬は併用していないけれど)点眼薬、塗り薬、貼り薬などの外用薬は使用していた!ということは“薬局あるある”ではないでしょうか。
たしかに、他に“飲んでいる薬”はないので、患者さんが悪いわけではありません。語弊のない問診を心掛けなくてはいけませんね。
さて、経皮吸収型貼付剤(以下「シップ」と略す)の中には、エスフルルビプロフェン・ハッカ油配合テープ(商品名「ロコアテープ」)のように、経皮吸収率が高く、内服薬に匹敵するほど血中濃度が上昇する製剤もあります。「1日貼付枚数は2枚を超えないこと」と添付文書に使用枚数制限が明記されており、「他の全身作用を期待する消炎鎮痛剤との併用は可能な限り避ける」との注意書きも記載されています。シップとはいえ油断禁物です。
吸収率が低いシップなら心配ない?
この患者さんが使用している「イタミトレールテープL」(架空の薬)の添付文書を見てみると、1日使用枚数の制限についての記載はなく、内服薬との併用を避けるとの文言もありませんでした。「ロコアテープ」のような吸収率が高い製剤ではないようなので、「薬物の血中への移行はナシ!胃への負担は心配ナシ!」と判断してよいのでしょうか?ここはひとつ、データに基づいてしっかりと検証してみましょう。
本剤はとくに吸収率が高いシップではないようなのですが、だからと言って、血中にはまったく移行しない(吸収量ゼロ)と判断していいのでしょうか?添付文書とインタビューフォームで確認してみると、最高血中濃度(Cmax)や血中濃度時間曲線下面積(AUC)のデータが記載されており、まったく吸収されないというわけではないようです。ついでに、同成分の内服薬「イタミトレール徐放錠」(用法:1日1回1錠)のデータと比較してみると、意外なことがわかりました。
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