『PCR検査の偽陰性が30%だとすると、検査結果が陰性なら70%の確率で「非感染」と言える?』
患者さんからテレビやネットで流れた医療情報について相談を受けたことはありませんか?データに基づいた情報といえども、巧みな拡大解釈により、新薬や健康食品の有効性と安全性は歪曲されて伝わってしまうことがあります。この連載では、患者さんの悩みを解消し、適切な指導をするうえで役に立つ知識を噛み砕いて解説します。
これを読んだらわかる データの読み方のエッセンス
- 偽陰性と陰性的中率の違いを理解しよう
- 有病率(≒検査対象者が実際に感染している確率)によって、陰性的中率は変動するので感染リスクの見積もりが大事
患者さんからのお悩み
市販の風邪薬を購入した患者さん
「取引先との会食が続いたせいか、熱があって咳がでている。新型コロナウイルス感染症だったらまずいので、念のためPCR検査(受診なし)を受けたんだけど、陰性だったから会社に行こうと思っている。大事な商談が控えている!とても忙しいんだ!」
以前は市販の風邪薬のCMで、「風邪でも休めないあなたに!」というキャッチコピーがよく使われていました。風邪をひいても働かなくてはいけないのかぁ…という気持ちになりますね。体調を崩した時はしっかり休みたい私としては「異議あり!」と挙手したいところなのですが、風邪のウイルスにとっては大喜びのキャッチコピーです。ウイルスは自分の意思で自由に動き回ることができないため、感染した宿主(人間)が動き回って大勢の人たちと接触してもらわないと勢力を拡大できません。そのため、ウイルスにとっては、体調が悪い人も出歩いてほしいはずです。今まではさぞかしウイルス天国だったことでしょうね。
新型コロナウイルスの登場
ところが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の登場により、世界はガラッと一変しました。100人に1~2人が死亡する1)というウイルスですから、「高熱でも無理して出勤しなさい!」みたいな悪しき風習は消え去りつつあります。しかし、「コロナじゃなければ、働きたい!or働いてくれ!」という熱血仕事人もいるようです。そういった「自分は新型コロナウイルスに感染しているかどうかを知りたい!」という声が飛び交うなかで台頭してきたのが、民間のPCR検査センターです(なんと、医師の診察なしで検査を受けるだけ!)。しかし、このPCR検査でも一応の結果は得られるものの、その解釈は難しく、必ずしも簡単に白黒つけられるものではありません。
PCR検査で陰性なら、新型コロナウイルスに感染していないと言えるのか?
まず、PCR検査の結果が「陰性」と出たからといって、感染していないことの証明にはなりません。これは一般の方々も周知のことでしょうが、少なからず「偽陰性」となることがあるのです。詳しい方であれば、この偽陰性の割合は30%くらい(=感度70%)だということもご存知かもしれません。しかし、偽陰性の解釈については多くの人が誤解をしているような気がしています。「偽陰性30%ということは、陰性だという検査結果が出た場合に、その結果が間違っている確率が30%(陰性的中率が70%)である」という誤解です。これは誤りですので、患者さんに説明できるように、正確に理解しておきましょう。
感度・特異度とは?
検査の精度を表す指標として、「感度・特異度」があります。
- 感度:感染している人が検査で正しく陽性となる割合
- 特異度:感染してない人が検査で正しく陰性となる割合
文章にするとちょっとわかりにくいので、筆者作図の「ねこイラスト」を用いて解説します。仮に感度70%・特異度90%(キリのいい数字にしました)の検査を、「感染しているねこ」と「感染していないねこ」に実施したらどうなるでしょうか。
図1-A「感染しているねこ」
感度70%であれば、感染者10人のうち7人は正しく陽性と判定できるわけですから、図1-Aのようになります。10人中3人は感染しているのに見逃されてしまうのですね。つまり、偽陰性30%ということになります。
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