脳梗塞の基礎知識、疫学とリスクファクター
現在、脳血管疾患の総患者数は115万人を超え、介護要因の疾患トップとも言われています。在宅医療の現場でも、脳梗塞の患者へ服薬指導を行うケースも多いのではないでしょうか。この連載では、内科医の視点から「薬剤師が知っておくと役立つ」脳梗塞の基礎知識や治療の変遷について、できるだけ分かりやすく解説します。
<参考文献>
1) 小久保喜弘. 国内外の脳卒中の推移. 日循予防誌 2017 ; 52 : 223-232.
2) 厚生労働省「平成26年 患者調査の概況」
3) 脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019対応]
1.脳梗塞の疫学
(1)発症率
脳梗塞は有名な病気ですが、これは患者数の多さによるところだと思います。例えばテレビでも、プロ野球監督、元内閣総理大臣、大物歌手など有名人の脳梗塞に関するニュースは挙げればきりがありません。おそらく、身近にも脳梗塞を(程度の差はあれ)患ったことがある方がいらっしゃるのではないでしょうか?
脳梗塞の疫学ですが、1951年当時10万人あたりの患者数は、男性8.9人、女性7.1人でした。しかし1970年代に男性115.5人、女性77.1人と激増しています。その後は予防法が示されたため、2013年には男性21.0人、女性10.8人に減少しています(それでも1951年の統計の2倍前後ではあります)。
表1 脳梗塞の疫学
男性(10万人あたり) | 女性(10万人あたり) | |
---|---|---|
1951年 | 8.9人 | 7.1人 |
1970年 | 115.5人 | 77.1人 |
2013年 | 21.0人 | 10.8人 |
ちなみに、脳出血は1950年〜1960年の統計データで人口10万人あたり男性266.7人、女性213.9人と脳梗塞よりも圧倒的に多い患者数でした。その後2013年の統計では男性15.9人、女性6.9人と急激な減少を認めます。このように脳梗塞、脳出血の減少の背景には、治療法や予防法の確立があります。
表2 脳出血の疫学
男性(10万人あたり) | 女性(10万人あたり) | |
---|---|---|
1951年 | -人 | 213.9人 |
1960年 | 266.7人 | -人 |
2013年 | 15.9人 | 6.9人 |
(2)患者数、死亡数
厚生省の発表によれば、継続的に治療が必要な脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の患者総数は111万5,000人とされています。そして年間死亡者数は脳梗塞単独で6万2,122人、脳血管障害全体で10万9,880人。つまり、約55%が脳梗塞での死亡です。寝たきりの原因第1位が脳血管障害であることも考えれば、しっかりとした予防や治療がいかに重要かわかります。
(3)なぜ恐ろしい?
脳梗塞の治療はここ数年で劇的に変化しており、ひと昔前に比べれば社会復帰する例が増えているとはいえ、残念ながら社会復帰を果たすことができない方が多数いるのも現実です。また、高齢化社会を迎え、寝たきりの原因となる脳梗塞は莫大な医療費がかかります(脳血管生涯全体での年間医療費は約1.8兆円!)。近年は法案制定など国家プロジェクトとして脳血管障害の制圧が叫ばれています。