脳梗塞治療の実際(1)(心原性脳梗塞)
現在、脳血管疾患の総患者数は115万人を超え、介護要因の疾患トップとも言われています。在宅医療の現場でも、脳梗塞の患者へ服薬指導を行うケースも多いのではないでしょうか。この連載では、内科医の視点から「薬剤師が知っておくと役立つ」脳梗塞の基礎知識や治療の変遷について、できるだけ分かりやすく解説します。
<参考文献>
1) 『脳梗塞診療読本』(中外医学社 2019) 豊田一則 編
2) 『脳卒中ガイドライン2015 [追補2019対応]』編集:日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会
3) 古和 久典, 安井 建一, 瀧川 洋史, 山脇 美香, 中島 健二:神経MRI検査の進歩. 日内会誌 99 : 1366~1373,2010
4) 大川弥生、上田敏. 脳卒中片麻痺患者の廃用性筋萎縮に関する研究--「健側」の筋力低下について. リハビリテーション医学 1988 ; 25 : 143-147.
5) Cerebral Embolism Study Group. Immediate anticoagulation of embolic stroke: a randomized trial. Stroke. 1983 Sep-Oct;14(5):668-76.
6) 櫻井 まみ 伊勢 雄也 片山 志郎:直接経口抗凝固薬(DOAC)の特徴と使い分け. 日医大医会誌 2018; 14(3)113.
1. 心原性脳梗塞の概要
心原性脳梗塞は心臓にできた血栓が巡り巡って脳の血管を詰めてしまう脳梗塞のパターンです。心臓にできた血栓は比較的太い脳の血管を詰めてしまうことが多く、片麻痺、認知機能低下、失語症といった重篤な機能障害を残し得ます。救急搬送される脳梗塞の中でも重症度が高いという印象です。
2. 心原性脳梗塞の臨床経過
心原性脳梗塞の多くは比較的太い血管を詰めてしまうため、結果として重症な患者として救急車で運ばれてくることが多いです。搬送後は速やかに診断できるよう、採血、心電図検査、MRI検査・CT検査などを行います(参考画像:図1、図2)。アルテプラーゼ静注療法の適応があれば、速やかに投与ができるように対応します。
また、血管内治療が必要であれば担当部署に連絡のうえ、カテーテル治療を実施します。なお、心原性脳梗塞であっても軽症例はあります。この適切な見極めが脳卒中内科医の仕事の一つです。そしてこの見極めと初期対応が、入院ベッドに至る過程と言えます。
3. 心原性塞栓症で入院した後の流れ
アルテプラーゼ静注療法やカテーテル治療がうまくいけば後遺症を減らせる、もしくは完全回復を得ることができます。一方で残念ながら効果を得られず重い後遺症が残る方が多数います。また、アルテプラーゼ静注療法やカテーテル治療の適応にない軽症例ももちろんあります。ここでは入院した後の流れを説明したいと思います(施設により多少の違いはあります)。
3-1.症状が比較的軽い場合
脳梗塞の範囲が狭く麻痺の程度が比較的軽いなどの場合、嚥下能力に問題が無ければ抗凝固薬の内服を開始します。よく勘違いされることが多いですが、脳梗塞に対して抗凝固薬を含めた内服を開始するのは根治目的ではなく、再発予防目的です。…