DOAC(ドアック)とワルファリンはどう使い分ける?【2025年改訂版】
脳血管疾患の患者数は増加傾向にあり、心原性脳梗塞の予防薬としてDOAC(ドアック)に注目が集まっています。この記事では従来の薬剤・ワルファリンとDOACの使い分け方、作用機序や代謝経路、適応疾患の違いなどを詳しく解説してきます。薬の注意点や最新の情報にも目を通しておきましょう。
<参考文献>
1)齋藤英彦 抗凝固薬の歴史と展望 血栓止血誌 19(2) : 284~291, 2008
2)平野照之 血栓を防ぐ(後編):脳梗塞の抗凝固療法 血栓止血誌 2017; 28(3): 335-344
3)山下武志 抗凝固療法の新時代 日内会誌 105:2245~2250, 2016
4)De Caterina R, et al : New oral anticoagulants in atrial fibrillation and acute coronary syndromes : ESC Working Group on Thrombosis-Task Force on Anticoagulants in Heart Disease position paper. J Am Coll Cardiol 59 : 1413―1425, 2012.
5)吉田智治, 白井保之 門脈血栓症の治療〜DOACを中心に〜 日門亢会誌 2019; 25: 117─ 122
6)鶴屋 和彦 慢性腎臓病における ワルファリンとDOACの使い方 日内会誌 107:856~864,2018
7)Chan KE, et al : Warfarin use associates with increased risk for stroke in hemodialysis patients with atrial fibril- lation. J Am Soc Nephrol 20 : 2223―2233, 2009.
8)Olesen JB, et al : Stroke and bleeding in atrial fibrillation with chronic kidney disease. N Engl J Med 367 : 625― 635, 2012.
9)矢島利高,東森光雄,髙田知江,笹邊俊和 直接作用型第Xa 因子阻害薬に対する中和薬 アンデキサネット アルファ(オンデキサ®静注用 200 mg)の薬理学的特性と臨床試験成績 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)158,89~100(2023)
10)矢坂正弘 抗凝固療法中の出血と中和剤 血栓止血誌 2020; 31(6): 584-590
1. DOAC(ドアック)とは?基礎知識を知ろう
心原性脳梗塞の予防に重要な薬剤としてDOAC(ドアック:Direct Oral AntiCoagulants)があります。
DOACとは、日本語で直接経口抗凝固薬と表記され、凝固因子を直接阻害することのできる経口投与薬の総称です。
もともと抗凝固薬はワルファリン(1920年代に発見、1940年代に開発)やヘパリン(1916年に発見、1950年代に臨床応用)が長らく使われていました1), 2)。その後 2011年にダビガトラン(商品名:プラザキサ)が本邦で発売されて以降、アピキサバン(商品名:エリキュース)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の合計4種類のDOACが登場して臨床の現場で使用されています3), 4)。
ちなみに、かつてはNOAC(Novel Oral AntiCoagulants)と呼ばれていましたが国際止血学会の推奨でDOACという呼称で統一されました。
2.DOACとワルファリンの違い、使い分けは?
2-1. 作用機序の違い
DOACとワルファリンはともに抗凝固薬という分類です。人間の身体には血液凝固カスケードという血液が固まるようにする反応経路があります。抗凝固薬はその反応経路の一部を止めることで「血液が固まりにくい=血液がサラサラになる」という作用を示します(図1)。
DOACはダビガトラン(商品:プラザキサ)が直接トロンビン阻害薬、その他のDOACは第Xa因子阻害薬であり、一方でワルファリンはビタミンKが作用する部位を阻害するビタミンK阻害経口抗凝固薬です。それぞれの薬剤が作用するポイントが違います5)。
図1. 血液凝固カスケードと抗凝固薬の作用点
筆者作成
2-2. 代謝経路の違い
DOACは主に腎臓にて分解され、ワルファリンは主に肝臓の酵素により分解されます。このため腎機能や肝機能などは事前に確認しておく必要があるでしょう。
またどのDOACを選択するかも、患者の病状、年齢、体格、腎機能や社会的状況(介護者の有無や病識の程度)により異なります。担当医は患者、ご家族の状況を踏まえて決定しているので、疑問点があれば疑義照会しましょう。
なお高度腎機能障害がある患者に抗凝固薬を使用するときはワルファリンが選択され、DOACは禁忌です。
ただし、そもそも高度腎不全患者や 透析患者にワルファリンによる抗凝固薬療法を実施すべきかの議論は依然として決着がついていません(投与に否定的な報告、投与の有用性を示した報告いずれも存在します)6)~8)。
このため専門の医師が患者状況やご家族の意向を踏まえて処方を検討すべきであると言えます。
2-3. 適応疾患について
DOACで注意すべきは「非弁膜症性心房細動(Non-valvular atrial fibrillation:NVAF)」に対して適応があることです。心臓弁膜症で弁置換術を受けた患者にDOACは適応がありませんのでご注意ください(ワルファリンは適応があります)。
2-4. 剤形の違い
脳卒中患者は嚥下障害を有することが多く、どのような剤形があるかは薬剤選択において非常に重要です。ワルファリンは粉砕可能で、DOACも種類によってOD錠や顆粒製剤があります。投与に際しては嚥下能やコンプライアンスを含めて薬剤選択がなされます。
2-5. 拮抗薬、中和剤について
2020年時点では、ワルファリンに拮抗薬、DOACの中ではダビガトランのみ中和剤がありました。その後2022年にアピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンに対する中和剤が発売されました9)。
この発売により全てのDOACに対して中和作用を持つ薬剤が出揃ったことになります。
ワルファリンはビタミンK拮抗薬であり、緊急時にビタミンK製剤(商品名:ケイツーN)の静注を行うことがあります。
また2017年に発売されたプロトロンビン複合体製剤(商品名:ケイセントラ)がワルファリンの拮抗薬として使用されています。