ワルファリンとDOACはどう使い分ける?

現在、脳血管疾患の総患者数は115万人を超え、介護要因の疾患トップとも言われています。在宅医療の現場でも、脳梗塞の患者へ服薬指導を行うケースも多いのではないでしょうか。この連載では、内科医の視点から「薬剤師が知っておくと役立つ」脳梗塞の基礎知識や治療の変遷について、できるだけ分かりやすく解説します。
<参考文献>
1) 『脳梗塞診療読本』(中外医学社 2019) 豊田一則 編
2) 『脳卒中ガイドライン2015 [追補2019対応]』編集:日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会
3) 櫻井 まみ 伊勢 雄也 片山 志郎:直接経口抗凝固薬(DOAC)の特徴と使い分け. 日医大医会誌 2018; 14(3)113.
4) 鶴屋 和彦 : 慢性腎臓病における ワルファリンとDOACの使い方. 日内会誌 107:856~864,2018
1. DOACのおさらい
前回、心原性脳梗塞の予防に重要な薬剤としてDOAC(Direct Oral AntiCoagulants)を紹介しました(参考「脳梗塞治療と薬剤選択vol.4」)。2009年にダビガトラン(商品名:プラザキサ)が論文で発表されて以降、アピキサバン(商品名:エリキュース)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の合計4種類のDOACが登場して日本で使用されています。ちなみに、かつてはNOAC(Novel Oral AntiCoagulants)と呼ばれていましたが国際止血学会の推奨でDOACという呼称で統一されました。
2. ワルファリンとDOACの違い
2-1. 作用機序の違い
ワルファリンとDOACはともに抗凝固薬という分類です。人間の身体には血液凝固カスケードという血液が固まるようにする反応経路があります。抗凝固薬はその反応経路の一部を止めることで「血液が固まりにくい=血液がサラサラになる」という作用を示します。ワルファリンはビタミンKが作用する部位を阻害するビタミンK阻害経口抗凝固薬、DOACはダビガトラン(商品:プラザキサ)が直接トロンビン阻害薬、その他のDOACは第Xa因子阻害薬であり、それぞれの薬剤が作用するポイントが違います(図1・表1)。
図1. 血液凝固カスケードと抗凝固薬の作用点

表1. ワルファリンとDOACの早見表
商品名 | ワーファリン | プラザキサ | イグザレルト | エリキュース | リクシアナ |
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一般名 | ワルファリンカリウム | ダビガトラン | リバーロキサバン | アピキサバン | エドキサバン |
作用 | ビタミンK拮抗 | 抗トロンビン | Xa因子阻害 | ||
代謝経路 | 主に肝代謝 | 主に腎代謝 | |||
剤形 | 粉砕あり | カプセル製剤 | 細粒製剤あり | - | DO錠あり |
2-2. 代謝経路の違い
ワルファリンは主に肝臓の酵素により分解され、DOACは主に腎臓にて分解されます。このため現時点は、高度腎機能障害がある患者に抗凝固薬を使用するときはワルファリンが選択され、DOACは禁忌とされています。ただし、そもそも高度腎不全患者や…