脳梗塞治療の概要(ラクナ梗塞)
現在、脳血管疾患の総患者数は115万人を超え、介護要因の疾患トップとも言われています。在宅医療の現場でも、脳梗塞の患者へ服薬指導を行うケースも多いのではないでしょうか。この連載では、内科医の視点から「薬剤師が知っておくと役立つ」脳梗塞の基礎知識や治療の変遷について、できるだけ分かりやすく解説します。
今回は脳梗塞のパターンの一つ、ラクナ梗塞について解説します。心原性脳梗塞とは考え方が違いますので、その点を説明できたらと思います。
1. ラクナ梗塞の概要
ラクナ梗塞は脳梗塞のパターンの一つです。脳血管の穿通枝(図1)という細い血管に塞栓物質が詰まり脳梗塞の諸症状(構音障害、手足の麻痺など)が生じます。心原性脳梗塞との違いは、簡単に言えば「心臓に原因がない」ということです。このため、「心原性脳梗塞」か「非心原性脳梗塞」かで、大まかに分類する先生もいるくらいです。というのも、当直帯で緊急入院する場合は日中ほど細かい検査をできず、取り急ぎ今ある情報をもとに治療を開始しなければならないからです。少なくとも心原性か否かさえ分かれば、当直帯であっても比較的早く治療を開始できると言えます。
図1. 穿通枝の模式図(循環器内科.comホームページより引用)
2. ラクナ梗塞の臨床経過
症状として多いのは手足の麻痺、構音障害(呂律が回らない)、嚥下障害(上手く飲み込めない)、しびれ感などです。一般にラクナ梗塞は細い血管が詰まるため、心原性脳梗塞より軽い症状が多いです。頭部MRI所見をみると、ラクナ梗塞は点状の梗塞巣が見られます(図2)。
図2. ラクナ梗塞のMRI画像で、黄色で囲った白い部分が脳梗塞巣です。(春山記念病院ホームページより引用)
図2. ラクナ梗塞のMRI画像で、黄色で囲った白い部分が脳梗塞巣です。(春山記念病院ホームページより引用)
ただし、だからと言って油断してはいけません。例えば、脳梗塞の既往がある人の場合、新規の脳梗塞を起こしてしまうと嚥下が急激に悪くなる場合があります。またリハビリテーションをしても麻痺症状が残存してしまい、退院して自宅に戻れても不自由な生活を余儀なくされることもしばしばあります。このように、死亡に至る重篤な症状は多くないものの、生活の質を落とす症状が多いという印象です(もちろん、適切な治療・リハビリテーションによりほとんど後遺症なく退院される方もたくさんいます)。
ちなみに、病院に来る経緯としては「2〜3日前に手の動きが悪くなり様子を見ていたけど治らないから来た」というように発症当日に来院されることはあまり多くない印象です。このため、救急車で来るというよりもクリニックなどの外来で指摘され紹介されるケースが多いと思います(病院勤務時代はそういう印象を持っていました)。本来であれは早期治療が望ましいわけですが、軽微な症状の場合は受診するタイミングを逃してしまうこともありました。そういった意味で、市民への啓発活動は重要と最近は思っています。
3. ラクナ梗塞で入院した後のこと
治療は抗血小板薬を用います。抗血小板薬はいくつかの薬剤がありますが、…