脳梗塞の最新の話題
脳梗塞は遭遇する頻度の多い疾患であり、内科医であれば必ず経験すべき疾患の一つです。とはいえ、脳梗塞の治療は日々変化しており、2019年にはガイドラインに新たな知見が加わった『脳卒中ガイドライン2015(2019追補)』が刊行されるほどです。全てを網羅することはできませんが、この連載で薬剤師が知っておくべき基礎知識や治療の変遷を解説したいと思います。なお、分かりやすさを追求するため大雑把な表現や不足の箇所もあるかと思います。温かい目で見守って頂ければ幸いです。
脳梗塞の治療法は日進月歩であり、私が最前線にいた頃から比べたら本当に変化しています。今回は2020年に発表され、恐らく今後の治療方針に大きく影響するであろう話題についてお話ししたいと思います。
(1) アルテプラーゼ静注療法 (t-PA療法) をして良い時間が変わる?
アルテプラーゼ静注療法 (t-PA療法) は投与禁忌事項に該当しない、脳梗塞発症4.5時間以内に投与することができる急性機治療の一つです(vol.3参照)。かつての発症3.0時間以内から4.5時間以内と適応が拡大され現在に至りますが、この“4.5時間以内”という枠組みがさらに拡大される可能性があります。
2018年に発表された論文(通称WAKE-UP試験)で「発症時間が不明の脳卒中患者に対しMRI画像で一定の条件を満たした場合に、アルテプラーゼ静注(=t-PA療法)を行うと90日後の転帰は良好であったが、頭蓋内出血が数値的には多く発症した」という結果が出ました。ざっくり言えば「今まで発症時間がわからないという理由のみでt-PA療法ができなかった症例も、一定の条件を満たせばt-PA療法の実施を考慮して良い」ということです。
詳細な適応条件は(結構難しいので)割愛しますが、今まで発症時間がわからないのでt-PA療法ができない患者さんを何人も目にしていただけに、非常に驚きのデータが出たといえます。日本はTHAWS試験で同じような結果が出たので、今後のガイドライン改定で「発症時刻が不明でも一定の条件下であればt-PA療法実施を考慮して良い」となる可能性が(まだ推測の段階ではありますが)高いと思います。適応拡大があれば、今後救急病院でt-PA療法を実施する機会は確実に増えてきますので、是非とも頭に留めて置いて頂けたらと思います。