ポリファーマシーとは?対策方法や症状を起こしやすい薬剤についても解説
ポリファーマシーとは、「多くの薬剤の併用によっておこる副作用や有害事象」を表す言葉です。
ポリファーマシーを「多剤処方」と勘違いされるケースがありますが、問題は多剤処方ではなく、それによって引き起こされる有害事象。服用する薬の数が多くても治療に効果が出る場合はポリファーマシーには当たりません。薬剤数だけをもってポリファーマシーとは言えません。
とはいえ、薬剤数が増えることは副作用が出やすくなったり、自己判断での服薬中断や飲み忘れが発生しやすくなったりする恐れがあるのは事実。単に服用する薬の数を減らすのではなく、薬物有害事象のリスク増加、服薬アドヒアランスの低下を回避する「適正な処方内容への見直し」という視点が重要です。ここでは、「医師が働く現場の実情」「ポリファーマシー対策での薬剤師の役割」「エビデンスの活用法」に関する記事をご紹介します。是非ポリファーマシーへの理解を深め臨床の現場へ役立ててください。
ポリファーマシーはなぜ起きるのか?
医師は毎日多くの外来患者に対応しており、忙しさからこれまでの処方との重複や相互作用まで気が回らずに薬を増やしてしまうこともあります。
では、このような処方箋を受け取ったとき、薬剤師はどのような提案をすれば医師は受け入れやすいのでしょうか。
老年病医の杉山先生は、「医師に提案する際は、分4より分3、分3より分2と『処方薬の数』よりも『服薬回数』を意識して話すのが効果的」と言います。特に高齢者の場合、服薬回数を増やすと飲み忘れなどが起こりやすいですし、服薬を管理する同居家族をはじめとした協力者への負担も増えるからです。
また、「処方薬が多すぎて服薬できていない」や「大量の服薬で食事が摂れていない」など、医師の前ではなかなか言いにくい患者の本音を、薬剤師が医師に届けることも大切です。
薬剤師は、多くの外来から処方される薬の情報を集約して、服薬コンプライアンス向上と、アドヒアランス向上を図る「医療の舵取り役」です。記事を読んで是非参考にしてください。
ポリファーマシーを起こしやすい薬剤とは?
ポリファーマシーを起こしやすい薬剤はあるのでしょうか?杉山先生は「医師が増やしてしまいがちな薬剤」について「中止しないと効果が検証できない薬剤」、「効果・効能に固執しやすい薬剤」と話します。
前者の代表例として挙げられるのが「鎮痛剤」。疼痛がないならば中止できますが、患者さんに「薬を中止したら、やっぱり痛くなった」という思いをさせてしまうわけにはいけません。疼痛が出現したとしても「自制内」のレベルであればいいかもしれませんし、他の薬剤への置換もできるかもしれません。とにかく徐々に、慎重に減らしていく必要があります。
後者は「睡眠」に関する薬剤や「便通」に関する薬剤が代表格です。たとえば「便秘」といっても、「毎日 便が出ていないから便秘!」と考える患者も多い。しかし、毎日出ても少量なら便秘になりうるし、2日に1回でも充分量ならOKということもあります。
これらのケースは医師・薬剤師が傾聴することで処方薬の減量や中止が可能になる場合が多くみられます。「不眠」の自覚のない方々以上に治療していないか、「便秘」を訴えない方々よりも執拗に便通に介入しすぎていないか、意識的に治療にあたる必要があるのです。
ポリファーマシーへの対策例は?
ポリファーマシー対策の事例や、現場の薬剤師の取り組みについてさらに見ていきましょう。
高齢者は複数の疾患を抱える人が多く、疾患ごとに異なる医療機関を受診している人も珍しくありません。そのため、薬剤師によって病院ごとに処方された薬が適切に把握されていないと、飲み合わせや多剤併用へと繋がるリスクを抱えています。
また認知機能が低下していると、ポリファーマシー対策で介入したとしても、減薬に同意したこと自体を忘れてしまうケースもあります。
減薬は担当医が変わった、訪問診療に切り替わった、入院したなど、患者さんになんらかの変化があるときが良いタイミングです。このとき、受診する医療機関や処方する薬局を集約できると、重複薬の発見や減薬につながりやすくなります。
さまざまな事例を紹介してきましたが、現場の薬剤師からは「アプローチしても減薬になかなかつながらない」という声も届いています。m3.com薬剤師会員に『ポリファーマシー対策』について調査したアンケート結果も合わせてご覧ください。
ポリファーマシー対策を学ぶには?
ポリファーマシー対策を学びたい、という薬剤師には「薬剤師専用e-ラーニング<m3ラーニング>」もおすすめです。13年の薬剤師経験をお持ちの薬剤師さんに実際に受講していただきました。
【講座で学べること】
- 高齢者に対する薬物治療での問題点について学ぶことができる
- ポリファーマシーをめぐる問題点や関連事項を理解できるようになる
- 臨床研究結果を理解しエビデンスとして活用できるようになる
- 処方薬の適切性について評価できるようになる
- 処方提案のコツがわかるようになる
講座では、ポリファーマシーについて、関連用語や概念なども詳細に説明しているほか、さまざまな医薬品の高齢者に対する臨床研究結果が豊富に示されます。臨床統計学が苦手な先生でも、「医薬品の試験結果をMRさんの説明通りに捉えるのではなく、自分なりに掘り下げられるようになった」と好評です。
「もう一度ポリファーマシーについて体系的に勉強したい」「実践的な介入の仕方を知りたい」「より自信をもって処方薬の適切性を評価できるようになりたい」という薬剤師は是非一度ご覧ください。
ポリファーマシーについて、背景から対策事例までさまざまな記事をご紹介しました。
患者の複数の医療機関受診や、医師の多忙といった多剤処方の原因は容易に解決できる問題ではありません。だからこそ、ポリファーマシーを防ぐ薬剤師の役割は非常に大きなものです。
ポリファーマシーは、患者さんへの健康被害を引き起こすことが一番の問題ですが、昨今の医療費増大にも関わる問題です。ポリファーマシー対策に取り組むことで、不要な処方薬を減らし、ムダな医療費・薬剤費を減らすことにつながります。薬剤師一人ひとりのポリファーマシー対策が積み重なることで、日本の医療提供体制を継続していく大きな力になります。
患者さんの安全な薬物治療にも、日本の医療財源にとっても効果の大きいポリファーマシー対策。ぜひ服薬指導で意識してみてください。