服薬指導とは?薬剤師が押さえておきたいポイントやコツを総まとめ
服薬指導における薬剤師の役割とは?
服薬指導とは、患者さんに適切な薬物治療を提供するため、薬剤師が服薬方法や取り扱いについて説明することです。たとえば、服薬の時間や回数、量、保管方法についての説明に加え、すでに飲んでいる別の薬との飲み合わせや、患者さんの検査数値情報などをもとに、一人一人の患者さんが「安全に」薬物治療を受けられるようにサポートするのが「服薬指導」です。
また、患者さんは薬物治療に対するさまざまな不安を抱えているものです。不安や悩みの解決策を提示するためにも、薬剤師には薬の知識だけでなく、患者さんと良い関係を築くためのコミュニケーション能力も必要と言えるでしょう。医師の前では身構えて「本音を話せない」患者さんも、身近な薬剤師になら、胸に抱えた不安を話してくれる例もあります。
しかし、この服薬指導に苦手意識を持つ薬剤師は少なくありません。ここでは、服薬指導を単なる説明や事務的な手続きで終わらないためのポイントについて解説します。
よい服薬指導のポイントは、「患者さんの生活習慣に興味をもつこと」「開いた質問(オープン・クエスチョン)をすること」「臨床論文を通して知識をアップデートすること」。
服薬指導の基本や患者さんとのコミュニケーションのコツのほか、実践力が身につくe-ラーニング講座についてもご紹介します。
服薬指導の手順
まずはじめに、服薬指導の基本的な手順についておさらいしておきましょう。
1 .患者さんへのお声がけ
患者さんのお名前を呼び、投薬台へ誘導します。その際、足の不自由な方や具合の悪い方への配慮も心がけ、状況によっては薬剤師自らが患者さんの席まで出向きます。名前を名乗り、あいさつをして服薬指導を開始します。2.症状のヒアリング
はじめに現状の症状のヒアリングをおこないます。特に初回来局の患者さんでは、既往歴や併用薬、アレルギーの有無の聞き取りも必要です。既に薬を処方されている方には、経過や副作用についても確認します。3.医薬品の説明
次に医薬品の服用方法や保管方法、飲み合わせや副作用などをご説明します。お薬と一緒に、お薬手帳や領収書、明細書などもお渡しします。説明内容やお渡しするものが多くなりますので、ひとつひとつ忘れずにおこないましょう。4.不明点や質問事項の確認
最後に不明点や質問がないか確認しましょう。また、場合によっては副作用への対応方法や緊急時の連絡先をお伝えします。以上で服薬指導を終了し、患者さんをお見送りします。
患者さんの生活習慣にも注目して服薬指導を
服薬指導がうまくいかないという人のなかには、薬学的な内容を伝えることだけが服薬指導だと思い込んでいる人もいるのではないでしょうか。
薬物療法では、日常生活の何気ないクセや習慣が、治療の成果に大きく関わることも珍しくありません。
たとえば、食生活に関しては、1日の食事回数、時間帯、味付けや料理法などの好み、コーヒーやお茶の摂取頻度などについてうかがいます。その他、薬の飲み方、日常的な運動量、昼寝の有無など、患者さんの生活スタイルを把握したうえで、患者さんが正しく服薬を続けられるようにサポートするのが服薬指導です。特に、糖尿病患者など生活習慣が治療の成果を左右するような場合は、服薬指導が非常に重要といえるでしょう。
また、患者さんの立場に立てば、熱心に話を聞いてくれる薬剤師には、「自分を大切にしてくれる」と感じて安心感や信頼を抱きやすいです。もちろん、患者さん一人当たりに割ける時間に限度はありますが、積極的に患者さんと、会話することでよりよい薬剤治療につながる服薬指導を心がけましょう。
服薬指導では「開いた質問」が対話のきっかけに
薬剤師の皆さんは普段の業務で、服薬指導を一通り終えた後、どんな言葉で締めくくっていますか?
もし、薬剤師からの説明の後、すぐに会計に移っているのであれば、説明後、患者さんへ開いた質問(オープン・クエスチョン)の時間を設けてみると良いでしょう。
オープン・クエスチョンとは、「はい」「いいえ」で回答するような質問(クローズド・クエスチョン)ではなく、回答者が自由な形式で回答できるような質問のことです。
たとえば、「何か質問はございませんか?」「お困りのことはございませんか?」といった質問です。服薬指導の後、薬剤師からこうした質問をするだけで、それまで話をあまりしてくださらなかった患者さんが、「実は...」と、相談してくれるケースがあるのです。
たった一つの質問を加えるだけで、患者さんとの会話が増え、患者さんと薬剤師の距離が近づくことも少なくありません。患者さんがいまどんな不安を抱えているのか、患者さんの感情に注目して、寄り添うことを心掛けてみてください。
患者さんから発せられる悩みや質問は、薬剤師が服薬指導をするための多くの情報を含んでいます。患者さんとの会話から情報をキャッし、最適な服薬指導をめざしましょう。
良い服薬指導には知識のアップデートも不可欠
よりよい服薬指導には、コミュニケーション能力を高めることに加えて、薬学の知識をアップデートしていくことも大切です。
たとえば、「ワルファリンを服薬しているけれど納豆を食べたい」という患者さんに対して、どのような服薬指導が最適でしょうか。薬剤師が曖昧な回答をすると、「ひと口なら大丈夫」「巻きずし程度なら大丈夫」など患者さんが自己判断をしかねません。薬の専門家である薬剤師がエビデンスに基づいた回答をすることで、患者さんの安全な薬剤治療を守るだけでなく、薬剤師への信頼感を得ることができます。
とはいえ、膨大な臨床論文を一つずつチェックするのは大変です。ここでは、薬剤師の児島先生が「服薬指導でよくあるシーン」をテーマに、臨床論文をエビデンスとした服薬指導を会話形式で解説しています。臨床論文で示されたデータをもとに、患者さんの不安を解消するような服薬指導にチャレンジしてみましょう。
今回は「ワルファリン」と「ステロイドと保湿剤」に関する2つのケースについて、患者さんとの会話例をもとに紹介します。
服薬指導のポイントを動画で学ぶ
「コミュニケーションについて具体的な事例をもとに学びたい」という方におすすめなのが、「薬剤師専用e-ラーニング<m3ラーニング>」です。m3ラーニングには、研修認定薬剤師対応講座などさまざまな講座を用意していますが、その中から、服薬指導をテーマにした動画講座をご紹介します。薬学的な視点だけでなく、患者さんの価値観や性格なども踏まえた服薬指導を紹介していますので、ぜひ現場で生かしてみてください。
服薬指導に関する講座で扱う症例は以下の7つです。現場ですぐに役立つ服薬指導のコツを学べます。
- 症例1:糖尿病(薬や健康に対する興味が高い患者様の場合)
- 症例2:心不全(疾患や治療に対し辛く感じている患者様の場
- 症例3:高血圧(生活習慣改善の意思が低い患者様の場合)
- 症例4:糖尿病・高血圧(症状安定のため干渉されたくない患者様の場合)
- 症例5:脂質異常症(話し相手を欲している患者様の場合)
- 症例6:糖尿病(コンプライアンス不良である患者様の場合)
- 症例7:脂質異常症(生活習慣に対する指導が必要な患者様の場合)
患者さんの不安を緩和し、安全に治療を行うための服薬指導は、薬剤師が患者さんとの信頼関係を構築できる貴重なタイミングでもあります。
そのためには、「患者さんの生活習慣に興味をもつこと」「開いた質問(オープン・クエスチョン)をすること」「臨床論文を通して知識をアップデートすること」が重要です。よい服薬指導によって患者さんと信頼関係が築くことができれば、服薬アドヒアランスが向上するのはもちろん、「医師には気後れしてしまって話せなかったんだけど…」と患者さんの本音をうかがえることもあるのです。
こうした患者さんへの服薬指導で得た情報はチーム医療にも役立ちます。地域医療の現場では、薬剤師、医師、看護師など各医療従事者が患者さんから得た情報を他職種と共有して、患者さん一人ひとりに適した薬物治療を検討しています。チーム医療に貢献し、患者さんによりよい治療を提供するためにも、薬剤師による服薬指導の重要性が見直されています。