ハイリスク薬の基本と薬歴のコツが丸ごと分かる!
ハイリスク薬とは?定義をおさらい
日本病院薬剤師会『ハイリスク薬に関する業務ガイドライン(Ver.2.1)』 によるとハイリスク薬は次のように定義されています
1 厚生労働科学研究「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアルにおいて、「ハイリスク薬」とされているもの。
- 投与量等に注意が必要な医薬品
- 休薬期間の設けられている医薬品や服用期間の管理が必要な医薬品
- 併用禁忌や多くの薬剤との相互作用に注意を要する医薬品
- 特定の疾病や妊婦等に禁忌である医薬品
- 重篤な副作用回避のために、定期的な検査が必要な医薬品
- 心停止等に注意が必要な医薬品
- 呼吸抑制に注意が必要な注射剤
- 投与量が単位(Unit)で設定されている注射剤
- 漏出により皮膚障害を起こす注射剤
2 平成20年度の診療報酬改定により定められた、薬剤管理指導料の「2」に関わる診療報酬算定上の「ハイリスク薬」
- 抗悪性腫瘍剤
- 免疫抑制剤
- 不整脈用剤
- 抗てんかん剤
- 血液凝固阻止剤
- ジギタリス製剤
- テオフィリン製剤
- カリウム製剤(注射薬に限る)
- 精神神経用剤
- 糖尿病用剤
- 膵臓ホルモン剤
- 抗HIV薬
3 上記以外で、薬剤業務委員会において指定した「ハイリスク薬」
- 治療有効域の狭い医薬品
- 中毒域と有効域が接近し、投与方法・投与量の管理が難しい医薬品
- 体内動態に個人差が大きい医薬品
- 生理的要因(肝障害、腎障害、高齢者、小児等)で個人差が大きい医薬品
- 不適切な使用によって患者に重大な害をもたらす可能性がある医薬品
- 医療事故やインシデントが多数報告されている医薬品
- その他、適正使用が強く求められる医薬品
患者に対する処方内容や服用患者のアドヒアランス確認、副作用のモニタリングを確実に行ってください。また、一般用医薬品やサプリメント等を含め、併用薬及び食事との相互作用の確認も必要です。
具体的なハイリスク薬は、国立がん研究センターが「院内採用ハイリスク薬一覧」 としてまとめています。
ハイリスク薬の服薬指導のコツ
ハイリスク薬の服薬指導には、どんな注意点があるのでしょうか?
ハイリスク薬は中毒域と有効域が接近しており、治療有効域が狭いのが特徴。それゆえ投与方法や投与量の管理が重要です。不適切に使用すれば医療事故や重大なインシデントにつながりかねません。
服薬指導においては、最初にアウトカムを明らかにしておきましょう。患者さんと一緒に治療の目的、目標を話し合っておくことが大切です。副作用発生時の対処も、患者さんとの合意をとっておくべきでしょう。
また、対面で服薬指導される患者さんにとっては、同じ話を繰り返されることになります。「このお薬はとても大切な薬なので、ご面倒ですがいくつか確認をお願いします」と声をかけるなどの対策が有効です。
服薬効果は、患者さんの自覚症状の聞き取りが肝要です。一般医薬品、サプリメントとの相互作用は、個々の薬剤によりかなり幅がありますので、経過にも細心の注意を払いましょう。また、観察計画は時系列でみていきますので、薬歴の記載も慎重に行いましょう。
ハイリスク薬の薬学的管理指導については「注意すべき事項」として、日本薬剤師会が一覧を提示 しています。
薬剤タイプ別に「処方内容の確認」「アドヒアランスの確認」「副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処法の教育」「効果の確認」「相互作用の確認」「麻薬管理」など、細かくチェック項目を紹介しています。ぜひ参考にしてください。
ハイリスク薬の薬歴の書き方3つポイント
ハイリスク薬の加算算定には、毎回処方されているすべてのハイリスク薬に対して、指導、薬歴記載の必要があります。その際、副作用の確認、指導した内容の記載も必要です。
シリーズ『薬歴ビフォー・アフター』で岡村先生は、ハイリスク薬の薬歴記載について「ハイリスク薬についての記載は、特にその薬に対するプロブレムが想定された場合を除き、SOAPとは別に箇条書きにしてください。また、この処方のように複数のハイリスク薬が処方されている場合は、すべての薬に対して指導をする必要がありますので、薬歴の記載も薬品名を明記して別々にした方がよいでしょう。」とアドバイスしています。
また、岡村先生によると、薬歴を書く際のポイントは以下の3つ。
- ハイリスク薬については、その日のプロブレムに関するSOAPとは別に箇条書きで書く。
- 複数のハイリスク薬がある場合は、すべてのハイリスク薬について指導して、薬剤名を明記して記載する。
- 副作用の確認、指導した事柄も、そのすべての内容を記載する(指導した旨の記載だけではNG)。
(参照「ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?」 )
ハイリスク薬を処方された場合は、これらのポイントを念頭に薬歴を記載しましょう。
ハイリスク薬のヒヤリ・ハットケース
ハイリスク薬に関するヒヤリ・ハット事例についてm3.com薬剤師会員にアンケートを実施しました。仕事でハイリスク薬を取り扱う頻度を聞いたところ、半数以上の薬剤師が「ほぼ毎日」と回答しました。次に、ハイリスク薬の取り扱いに関しては、25%の薬剤師が「不安がある」と回答。
「不安がある」と回答した薬剤師にその内容を聞いたところ、「きちんと服薬指導が出来ているのか心配になる」「情報の変化が多い。昨日の情報が今日役に立たないことも」といった服薬指導に関する不安や、副作用が起きた時の問い合わせ対応の他、「仕事が煩雑なうえほとんどの方がハイリスク薬があるので神経的疲労が蓄積する」といった取り扱いの注意が必要なことへの精神的ストレス、「抗がん剤において病院でのケモの状況・レジメンの詳細が分からず、服薬指導が十分に行えていない」「曝露が不安」など、病院との連携や薬剤師の安全などに関する不安が寄せられました。
Q1.仕事でハイリスク薬を取り扱う頻度はどれくらいですか?
Q2.ハイリスク薬の取り扱いに不安はありますか?
ヒヤリ・ハットの経験について聞いたところ、「ヒヤリ・ハットな経験がある」と回答したのは31%。具体的な内容には、薬の規格や数量の取り間違いが多いですが、医師や看護師など他職種とのやりとりのなかでヒヤリ・ハットが発生するケースもあるようです。
Q3.ハイリスク薬に関してヒヤリ・ハットな経験はありますか?
薬剤師側の体制の見直し
- 錠剤を戻す際はダブルチェックをしていたが、トリプルチェックに変更した。
- 糖尿病患者さんにセロクエルを調剤したこと。レセコンに糖尿病患者注意を登録しセロクエルを入力したらポップアップするように改善した。
- インスリンの注射の単位の変更があったとき、前回doで仮入力してしまい薬をお渡しするとき気づきました。内服薬は単位と数の確認、注射は単位の確認等処方箋と突合したうえで患者さんの前で薬袋に入れるように改善しました。
- 入力ミスによる規格の取り間違え→気づかないまま渡し、交付後確認で発見。交換をしに患者宅へ。改善策は、マスター登録の際、規格が目立つように【】でくくった。そこで、再確認できるようになった。
- ピッキングの際に50mgと100mgを間違えていた。監査の際に気づいたため、ことなきをえた。棚の名前の所(mg)にマーカーを入れ、隣り合わせに配置しないようにした。引き出しに入っているものも区切りを上手く使い、斜めの区間に入れるようにした。
医師や看護師への働きかけ
- 持参したインスリンはヒューマログミックス〇〇だったのに、医師はヒューマログだと思い込みヒューマログで指示、看護師は差異がわからずヒューマログの指示でヒューマログミックスを投与。持参薬システムを導入して、薬剤師がすべてチェックして入力することとした。
- インスリンのバイアル製剤を扱いました。手書きカルテの頃ですが、中心静脈栄養法と並行して行うことは往々としてありますが、別でキット製剤を併用してしまうことがありました。系列病院に相談したところ、インスリンの専用注射せんを使用しているとのことだったので、施用票の意味も込めた注射せんを一から作成。すると、看護師がより気にしてくれるようになり医師に伝わり院長に伝わり、バイアル製剤は採用中止となりました。
ハイリスク薬の取り扱いには、ヒヤリ・ハットの事例にもあったように、できるだけヒューマンエラーを減らせるようチェック体制やツールなど仕組みの見直しが有効です。また、ハイリスク薬の服薬指導や薬歴の記載については、通常の服薬指導以上に細やかな注意が必要。『薬歴ビフォーアフター』や『服薬指導のツボ』など、コラムもぜひ参考にしてください。