調剤過誤が起きるとどうなる?薬剤師に必要な法的知識

「調剤過誤」とは、薬剤師の過失により患者に健康被害が発生した調剤事故のことを指します。
ミスを起こさないようどんなに気をつけていても、薬剤師として働くうえで調剤過誤は誰にでも起こり得るものです。万が一、調剤過誤を起こしてしまったとき、自分が負うべき責任の有無および程度を把握できていないと適切な対応をとることができません。薬剤師業務に関連する法的知識について学び、いざというときも慌てず誠実な対応ができるようにしましょう。
今回は、調剤過誤を起こした際、薬剤師に発生する法的責任や、薬歴の開示請求への対応に関する個人情報保護法の捉え方について解説します。
調剤過誤の定義
まずは調剤過誤に関する用語について確認しておきましょう。日本薬剤師会は2001年に作成した「薬局・薬剤師のための調剤事故防止マニュアル」にて「調剤ミス」、「調剤事故」、「調剤過誤」を定義しました。さらに2005年にこれを改め、以下のように分類しています。
調剤事故
医療事故の一類型。調剤に関するすべての事故に関連して、患者に健康被害が発生したもの。薬剤師の過失の有無を問わない。調剤過誤
調剤事故の中で、薬剤師の過失により起こったもの。調剤の間違いだけでなく、薬剤師の説明不足や指導内容の間違い等により健康被害が発生した場合も、「薬剤師に過失がある」と考えられ、「調剤過誤」となる。ヒヤリ・ハット事例(インシデント事例)
患者に健康被害が発生することはなかったが、“ヒヤリ”としたり、“ハッ”とした出来事。患者への薬剤交付前か交付後か、患者が服用に至る前か後かは問わない。参照元:日本薬剤師会/薬剤師会における用語定義について
( https://www.nichiyaku.or.jp/pharmacy-info/accident/link01.html)
調剤過誤の対策と初期対応
調剤過誤の対策としては、薬剤師のダブルチェックによるチェック体制の強化や疑義照会の徹底が挙げられます。また、説明不足や指導内容のミスを防ぐために勉強会などで知識のアップデートをおこなうことも大切です。
実際に調剤過誤が発生した場合、まずは「患者さんの特定」「薬剤服用の有無」「健康被害」などを確認します。その後、患者さんや家族への説明と謝罪、事実関係の調査や医療機関への報告をおこないます。患者さんへの健康被害を最小限に抑えるためにも早急な初期対応が必要です。
調剤過誤と薬剤師の法的責任
ここからは、調剤過誤を起こしてしまった場合の薬剤師の法的責任について解説します。
法的責任は、「刑事責任」「行政責任」「民事責任」の3つに分けられます。責任の内容をきちんと理解しておけば、調剤過誤を起こしてしまったとき、必要以上に不安にかられることがなくなるはずです。この機会にぜひ皆さんも覚えておいてください。
刑事責任
刑事責任とは、法律を犯した者(犯罪者)に対し、国により懲罰などの罰が与えられる責任のこと。薬剤師が調剤過誤を起こした場合、被害が重大であり、過失の態様が悪質であれば業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われる恐れがあります。
行政責任
行政責任とは、薬剤師が厚生労働省という監督官庁に対して負う責任のこと。薬剤師としての業務停止や免許取消などの処分を受ける恐れがあります。
民事責任
民事責任とは、被害者である患者さんに対し、損害の填補のために金銭を支払わなければならない責任(損害賠償責任)のこと。調剤過誤があればすべて損害賠償責任が発生するわけではなく、あくまで損害や因果関係がある場合に限ります。